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海を走るペンギン

 ドックの閘門から、P-07とP-08が縦列になって出て行く。

海に出て、すぐに感じたのは、ローリング(横揺れ)とピッチング(縦揺れ)だ。

 喫水が浅い平底の船にありがちな動揺がこれだった。前後左右につけられたシュルツェン兼フロートによって、戦車を浮き輪で浮かしているような状態が分かりやすいペンギンの状態の説明だ。

 アウトリガー構造によって、そこそこの復元力はあっても、揺れが大きいのは止められないということなのだろう。

 盛大に揺られながら、沖へと進む。海軍出身の私と操縦手のコンラート・ベーア曹長はともかく、戦車乗りだった他の3人は船酔いが心配だった。まあ、こればかりは慣れてもらうしかないのだが……。

 観測ポイントに着いた。

 陸のどこかで、技術士官カール・フェルゲンハウワー中尉と、技術スタッフが望遠鏡を覗いているはずだ。

 私は、低出力の無線機のマイクの電源を入れた。

「テストを開始する。08は風下の位置につけ」

 海軍の伝統的では、船は直線に並ばない。後続は斜め後方の位置につけるのが定石だ。『斉射を受けた時直線で並んでいると巻き添えを食う』という理屈がつけられているが、これは帆船の時代の名残らしい。

 重い青銅の巨砲の仰角を梃を使って人力で調整していた時代だ。射程距離の調整も大変だったのだろう。

「全速前進!」

 タコマイクに向かって命じる。なんだか、こうした動作に慣れないので変な感じだ。

 操縦手のコンラート・ベーア曹長が、スロットルを絞る。

 エンジン音が高まり、機体後部に立っているちっぽけな排気煙突が黒煙を吐いた。

 私は、首から下げたストップウォッチのボタンを押す。

 これもまた、技術士官のカール・フェルゲンハウワー中尉から頼まれていた作業だ。トップスピードに乗るまで、何秒かかるのか計測してほしいという依頼だった。

 今まで、波に翻弄されていた感のあるP-07の機体は、スピードが上がるにつれ揺れが収まってきた。そして、早い。まるで、水面を飛んでいるかのようだ。

 Sボートも高速で走る船だが、見える水面が近い分、ペンギンの方が体感で早く感じるのかもしれない。

 それと、ペンギンのパドルが効力を見せている。角度をやや上向きに設置されたパドルは水の抵抗を下方に押し流し、機体を低速時より浮き上がらせているのがわかった。

 つまり、喫水はさらに浅くなり、それはイコール水の抵抗が弱くなるということを示していた。

 スロットを絞り切り、トップスピードに乗るまでわずか十秒。あとで報告を聞いてわかる事だが、この時はなんと五十ノットもの快速で走っていたそうだ。

 キューポラから頭を出している私は、吹き付ける風を感じていた。マフラーを引き上げ、鉄兜を目深にかぶっていたが、露出している目の周辺は冷たい風が叩きつけてきているようで、痛い。

 潮風に痛めつけられた目からひっきりなしに涙が流れて、まともに物が見えないのも困りものだった。

「戦闘機乗りと同じく、ゴーグルが必要だな」

 私は頭の中でそんなことをメモしていた。

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