相棒となる人物
私は、注水を開始した乾ドックを見下ろす作業台に立っていた。
ドックには艤装を終えた二機のペンギンがあって、その機体番号が『P-07』となっている方が、私の指揮する機体になる。『P-08』は、ペアとなる機体だ。
こんなのでも、船のはしくれなのだから『一隻、二隻』と数えるべきだが、どうも戦車のイメージが強すぎて呼び方に困る。
かといって、戦車と同じように『一台、二台』と数えるのも違和感があって、結局『一機、二機』という数え方に定着したようだった。
「あなたが『P-07』のシュトライバー大尉ですか」
軍帽を小脇に抱えた若者が、私の方に近付きながら声をかけてくる。
ヒョロリとした長身の若者で、砂色のくすんだ金髪をしていた。落ちくぼんだ眼はなんだか世の中を悲嘆しているかのようだが、声は快活で明るい。
彼の袖章は直線だった。つまり、私のような予備役ではなく、正規の海軍士官らしい。階級は私と同じ大尉。
「私は、エーリッヒ・バウマンと言うものです。お見知りおきを」
そういって、私に握手を求めてきた。ゴツゴツとした大きな手だ。海で鍛えられた男の手であった。
「アネモネ号と、哨戒艇一隻で正面から殴り合ったそうですね。あの、古狐とやりあって、よくご無事で」
私の蛮勇を非難しに来たのだろうかと思ったが、そういった底意地の悪さは感じられない男だった。
よく言えば『あけっぴろげ』、悪く言えば『無神経』ということだろう。
私は、その戦闘で部下を亡くし、船を失った。軍法会議の結果次第では軍籍すら失うところだった。
そして、それほどの犠牲を払いながら、輸送船を救えなかったことが、今でも棘のように胸に刺さっている。
だから、触れて欲しくない話題だったが、良くも悪くも、私は一時的に有名になっていたのだった。
ペンギンの運用は二機で行動する『バディ・システム』を採用するらしい。
単独行動よりも複数いた方が、的が絞りにくいのと、高機動を利用して、敵艦に十字砲火を浴びせるためらしい。
バウマン大尉は、『P-08』の指揮官で、私とコンビを組むことになる。ご丁寧に宿も同じく幸運亭だった。
「今日は機動性能のテストらしいですよ。いやぁ、楽しみだなぁ」




