タコマイクとキューポラと
ペンギンの微調整を行うテストに選抜されたのは私たちのチームと、同じく『幸運亭』に投宿するもう一つのチームだった。
選抜の基準はわからないが、ペンギンと同型機は皆無なのだから、誰が乗っても同じだろう。
運用のノウハウがない。だからすべて手探りの状態だった。
渡された資料を、艤装が終わるまでの数日間で読んでいたのだが、ペンギンの母体となるⅣ号戦車の乗組員は5人体制だったようだ。 車長、操縦手、砲手、装填手、無線手の5人。
ペンギンの乗組員は同じく5人だが、無線手が廃止され、車長……いや、艇長と呼ぶべきか……が、無線手を兼ねることになる。
最大の敵は航空機だ。したがって無線封鎖がかけられる。無線手の出番はあまりないという判断だった。
無線手の代わりに配されるのは機銃手。砲塔後部にドラム缶が付属しているのを想像してほしい。それを防弾板で囲い、更に外側に機関砲の高速弾を減衰させるためのシュルツェン、いわゆる空間装甲も施されたものが、機関砲の銃座になっていた。
上面に覆いがない露天銃座であるので、装甲で守られたペンギン内部の乗員に比べ、危険度は高い。いつしか、その銃座は『死の席』と呼ばれるようになるのだった。
ペンギンに乗船してみると、その狭さに驚く。そして、密閉性が高いので、エンジンを始動させると、まるで列車の車輪の間にいるようで、艇長の指示が届きにくいというリスクがあった。
戦車乗りは、咽喉に巻いたマイクで喉の振動を拾う『タコマイク』で、騒音の中でのやりとりをしていたらしい。
戦闘状態になれば、ヘッドホンとタコマイクは必須ということか。これもまた、海軍とは違う運用だ。
とはいえ、複雑な指示は無理だろう。Sボートのような小型艇よりも更に各乗組員の自主的な判断が必要とされる。艇長は全体の方向性の指示が役どころとなりそうだった。
戦車には『キューポラ』と呼ばれる、車長が外部を視認するための小さなハッチがある。戦車の砲塔に、ベレー帽のように乗っかっている、アレだ。
ペンギンの砲塔はその形状は母体であるⅣ号戦車と全く変わらないので、もちろんキューポラがある。戦闘時、私はそこから頭を出し、タコマイクを使って指示を出すことになるのだろう。




