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その兵器の愛称は『ペンギン』

 丸太をくり抜いただけの原始的なボートでうねりの強い海に漕ぎ出し、漁をする部族が南太平洋にある。

 丸太の船は安定性に欠け、すぐに転覆してしまう。そこで、この部族の人々は、その船の舷側に『浮き』をつけ、喫水が低くトップヘビーの船体を安定させる工夫をしていた。

 この構造を『アウトリガー』という。双胴船は、これの発展型と考えていい。

「この、強襲用小型高速艇は、完成品ではありません。最終的には、前後左右にシュルツェンを兼ねた『浮き』を装着し、船体の浮力の増加を図ります。そして左右の『浮き』には、姿勢の安定のため『水中翼』がつきます」

 要するに鉄の塊である戦車を浮かせるためにアウトリガーを付け、姿勢の安定のために翼をつけるというわけだ。

 実際に走らせて見ないとわからないが、理論上はこれで極端なトップヘビー対策はなされたということらしい。

「航空機対策ですが、対空銃座を砲塔後部に設置します。そこには、連装二十ミリFlak C/30が装備される予定です。そして、上面装甲にもシュルツェンが貼り付けられることとなります」

 対空装備としては、これが精々だろう。他の独国海軍の艦艇と同様、いかに航空機と遭遇しないかが、生存率を占う基準になりそうだ。


 一時期、険悪な雰囲気になったが、おおむね説明会は無事に終わったと言える。集められていたのは、機甲師団の若手の戦車のり。海軍側は、小型艇の指揮経験のある若手士官と航海士たちだった。

 これが古参の戦車乗りや船乗りだと拒否反応が強く、反発は修復不可能なレベルになっていたかもしれない。

 対して若者は好奇心旺盛だ。珍奇な兵器でも受け入れるものだ。黎明期のUボート乗りが若者ばかりだったのと同じだ。

 作戦のコードネームは『貫く』と言う意味の言葉の頭文字をとってP作戦と名付けられた。

 誰が言ったか知らないが、

「ペンギンか?」

 と言う言葉が、そのままこの機体の愛称になった。

 独国軍は兵器の愛称に『虎』だの『豹』だの『狼』だの勇ましい印象の動物の名前をつける習慣がある。それに倣ったものだが、ペンギンは勇壮には程遠い。

 珍奇な外見への自嘲をこめた独国人らしいシニカルなユーモアだった。

 決して空を飛ぶことのない翼。

 ペンギンとは、案外と言い得ているネーミングだと、私は感心していた。

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