陸海の混血児
戦車を水密化する。そういった技術が、わが国にはあった。そして、Ⅳ号戦車は量産体制が整っている。
つまり、わずかな改良だけで、たった1門だけではあるが、砲を備えた水上戦闘艇が出来るというわけだ。
英国と、占領地である仏国及び蘭国を隔てる英国海やドーバー海峡の制海権は、制空権を失いつつある現在、航空機による発見が難しいUボートが辛うじて支えている。
しかし、この艦艇を屠ることに特化した優秀な狩人が出現したことによって、これら海の群狼も次第に追い詰められていた。
制空権に続き、制海権を失えば、フェルゲンハウワー中尉が断言した大規模な上陸作戦が実施されるだろう。
Uボートの活動の余地を広げるために、最新鋭の装備を誇る狩人を叩く。それも、現有兵器だけで。
その姿の珍奇さゆえに、我々の怒りを誘発したⅣ号戦車と船のあいの子は、その可能性を秘めているというのか。
我々が守ってきた戦線は海。独国本土が『城の本丸』なら、海は『堀』。堀を渡られた城の運命は、落城しかない。
私の脳裏に、救命ボートの兵士に加えられた米国軍の執拗な機銃射撃が浮かぶ。
思い出しただけで、カッと体温が上がった。
救えなかった命。
砕け散ってしまった私のSボート。
絶望的な戦いに赴き、死んでいったヤンセン少尉と乗組員たち。
敵に祖国を踏みにじらせてはいけない。
私は掌に爪が食い込むほど、拳を握りしめていた。
「戦えるのか? こいつは? この醜悪な陸海の混血児は?」
気が付いた時、私は皆から一歩前に出て、そう言っていた。
一瞬、フェルゲンハウワーは私を見て怯んだが、挑むように胸をそらし、こう言い放ったのだ。
「戦える。私は、そのためにここに来たのだ」
祖国を守りたい。兵士の共通認識はそれだ。だから、弾雨に身を晒し、塹壕に身を潜め、凍てつく海に漕ぎ出す。
少なくとも、私の行動原理はそれだった。そのためには、このふざけた船とも戦車ともつかないオモチャにだって乗ってやろう。




