再び、高速輸送船団と
我々は、ドロップタンクの代替としてドラム缶を積んで、再びベア島に向かった。
九月も後半になれば、朝夕は急に冷え込むようになっていて、その寒暖の差がこの海域名物の湿った重い靄を生む。
ペンギンの巡航速度はおよそ二十五ノット。視界のいい夏と違って、靄の中に埋没することが出来るので、前回の作戦の時の様に極端な大回りはしなくて済みそうだった。
絶海の孤島、ベア島。
ここを最後に出撃し、敗北した。そして、今日やっと帰ってきたのだ。
水上艇に改造された複葉機が、港に係留されている。フェアリー・ソードフィッシュかと思ったが、シルエットが違う。
おそらくこれは、露軍の鹵獲飛行機『ポリカポフPo-2』だろう。ニーナやイリーナが所属していた『夜の魔女』こと第46夜間爆撃航空連隊が使用している機体だ。
彼女らが実は生きていた……などという淡い期待があったが、やはりあの勇敢な女性たちは、バレンツ海に消えてしまったようだ。あの、かわいらしいフェアリー・ソードフィッシュはここには居ないのだから。
ペンギンが係留できる場所は水路が狭いのだが、何度かここを作戦で使ったことがある我々は一列縦隊になって難なく入港した。
港には、一人の長身の男が待っていて、これが情報部に所属するパイロットなのだろう。
私は、ペンギンから飛び降りて、桟橋に立った。
「ここには、ホッキョクグマがいるそうじゃないか、一人で心細かったぜ」
人懐っこい笑い顔を浮かべ、私に握手を求めてきた人物は、情報部に所属のグスタフ・マイネン少佐と名乗った。
小屋は、まったく中身が替えられていた。イリーナとニーナの私物は全て処分され、彼女らがいた痕跡は全くの残っていない。
小屋の中の微かな香りさえ、マイネン少佐のパイプのフレーバーで消えてしまっている。情報部とはそういったものなのだろう。突然現れて、消える。
私はパイプと珈琲を勧められたが、パイプを断り珈琲だけを貰った。
「こいつだけは、やめられなくてね」
そんなことを言いながら、マイネン少佐はパイプをくゆらせた。
年齢は三十代後半だろうか。かすかに、オランダ人風のなまりがある。ひょろりと上背があるのも、オランダ人っぽい。
「役目は、分かっている。偵察し、報告すること。戦闘は無し。護衛も無し。色々、無茶は聞いてきたが、空母の偵察に随伴なしで鈍足複葉機で行けとは、自殺行為だよ」
そう言って、笑う。笑うと皺が目立って、年齢より老けて見えた。
文句を言っているが、不満というわけではなさそうだった。
「氷国に基地を作って、輸送ルートを構築しているよ、その護衛空母は。艦名はセイレム号。随伴は駆逐艦六隻。輸送船は高速輸送船十隻。輸送船は変わるが、護送部隊は氷国に常駐。白海と氷国往復便ってわけだ」
それを叩き潰す。護衛空母による輸送が割に合わないほどコストがかかるようにすれば、我々の勝利だ。
そのためには、眼が必要なのだ。それが分かっているからこそ、損失を顧みずにカエルは貴重なパイロットを提供し続けてくれている。
ペンギンは、それに応えなくてはならない。新型の『禿ペンギン』が機能してくれれば、互角には戦えるはず。




