禿ペンギン
対空戦車クーゲルブリッツの砲塔が到着するまでの間、P-21は徹底的にペンギンの基礎を叩き込んだ。
今後、P-21の役目は、航空機を撃退になる。単独で航空機のなかに突進することだってあるのだ。
フリッパー・ターンをはじめ、変則的なペンギンの動きを完璧に使いこなさなければならない。
ペンギンは艦艇の一種ではあるが、艦隊行動は行わない。アドリブじみた行動が必要であると同時に、動きが早すぎて指示がおいつかないのだ。
したがって、各々の艇長のとっさの判断が重要になる。
経験が浅い学徒出陣の艇長たちにはそれが難しい。何度もシミュレーションを重ねるしかない。
しかし、彼らは短時間とはいえ、実戦を潜っている。他の訓練生より、数段マシではあるのだ。
二週間後、クーゲルブリッツの砲塔が到着した。
さっそく、ペンギンに合わせた改良を施し、P-21に搭載する。筒状の防護版で覆われたツルリとした球形の砲塔で、まるで半分に切ったゆで卵に、楊枝を二本突き刺したような外見だった。
「なんだか、カッコわるいですね」
砲塔を換装された自機を見て、ヴァランダー准尉が感想を述べる。
私も、その換装に同意する。
「まるで禿頭じゃないか。そうだな……対空仕様のペンギンは『禿ペンギン』で決定ですね」
その愛称はあんまりではないか? と、思ったのだが、搭乗する本人たちのネーミングだ。以降、三機の対空仕様ペンギンがつくられたのだが、愛称は『禿ペンギン』で。定着してしまった。
実機を使った訓練が始まる。
コミカルな外見の割には、禿ペンギンは良い機体だった。まず、砲塔が軽い。そして、砲自体が軽い。
機体が軽いということは、より高速で動けることを示している。また、砲塔の軽さは、砲塔旋回能力が高いという事だ。つまり、航空機を追尾しやすくなる。
対航空機用に開発されただけあって、よく考えられた機体だった。
実用化しなかったのは、移動速度の遅さ。キャタピラで走る従来のクーゲルブリッツは、Ⅳ号戦車の車体ならは最高速度はおおよそ時速四十キロメートル。走りまわっていても、敵機からみれば止まっているに等しい遅さだ。
ならば、どこかに隠しておき航空機を待ち伏せすればいい話なのだが、そのためには戦車の車体が目立ってしまうのだ。
移動はトラックに乗せ、刺激や岩陰にMk103三十ミリ機関砲を設置するだけなら、砲塔も車体もいらないだろうということで、対空戦車は試作のまま生産には至らなかったのだった。
地形効果が利用できない洋上こそ、クーゲルブリッツの出番であり、航空機には劣るとはいえ、時速九十キロメートルから百キロメートルでかっ飛ぶように走るペンギンこそが、この異形の砲塔にふさわしい。
一ヶ月の訓練を終え、P-21は『禿ペンギン』として再艤装された。
眼に重大な損傷を受けた砲手はまだ入院中で、機銃手がそのまま砲手の任につき、四人体制で禿ペンギンは運用されることになった。
私は、乗客としてP-21に同乗し、フグロイ島に向かうこととなった。
そして、一九四三年九月。
伊国は連合軍に無条件降伏し、独国は完全に孤立した。




