表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/173

禿ペンギン

 対空戦車クーゲルブリッツの砲塔が到着するまでの間、P-21は徹底的にペンギンの基礎を叩き込んだ。

 今後、P-21の役目は、航空機を撃退になる。単独で航空機のなかに突進することだってあるのだ。

 フリッパー・ターンをはじめ、変則的なペンギンの動きを完璧に使いこなさなければならない。

 ペンギンは艦艇の一種ではあるが、艦隊行動は行わない。アドリブじみた行動が必要であると同時に、動きが早すぎて指示がおいつかないのだ。

 したがって、各々の艇長のとっさの判断が重要になる。

 経験が浅い学徒出陣の艇長たちにはそれが難しい。何度もシミュレーションを重ねるしかない。

 しかし、彼らは短時間とはいえ、実戦を潜っている。他の訓練生より、数段マシではあるのだ。


 二週間後、クーゲルブリッツの砲塔が到着した。

 さっそく、ペンギンに合わせた改良を施し、P-21に搭載する。筒状の防護版で覆われたツルリとした球形の砲塔で、まるで半分に切ったゆで卵に、楊枝を二本突き刺したような外見だった。

「なんだか、カッコわるいですね」

 砲塔を換装された自機を見て、ヴァランダー准尉が感想を述べる。

 私も、その換装に同意する。

「まるで禿頭じゃないか。そうだな……対空仕様のペンギンは『禿ペンギン』で決定ですね」

 その愛称はあんまりではないか? と、思ったのだが、搭乗する本人たちのネーミングだ。以降、三機の対空仕様ペンギンがつくられたのだが、愛称は『禿ペンギン』で。定着してしまった。


 実機を使った訓練が始まる。

 コミカルな外見の割には、禿ペンギンは良い機体だった。まず、砲塔が軽い。そして、砲自体が軽い。

 機体が軽いということは、より高速で動けることを示している。また、砲塔の軽さは、砲塔旋回能力が高いという事だ。つまり、航空機を追尾しやすくなる。

 対航空機用に開発されただけあって、よく考えられた機体だった。

 実用化しなかったのは、移動速度の遅さ。キャタピラで走る従来のクーゲルブリッツは、Ⅳ号戦車の車体ならは最高速度はおおよそ時速四十キロメートル。走りまわっていても、敵機からみれば止まっているに等しい遅さだ。

 ならば、どこかに隠しておき航空機を待ち伏せすればいい話なのだが、そのためには戦車の車体が目立ってしまうのだ。

 移動はトラックに乗せ、刺激や岩陰にMk103三十ミリ機関砲を設置するだけなら、砲塔も車体もいらないだろうということで、対空戦車は試作のまま生産には至らなかったのだった。

 地形効果が利用できない洋上こそ、クーゲルブリッツの出番であり、航空機には劣るとはいえ、時速九十キロメートルから百キロメートルでかっ飛ぶように走るペンギンこそが、この異形の砲塔にふさわしい。


 一ヶ月の訓練を終え、P-21は『禿ペンギン』として再艤装された。

 眼に重大な損傷を受けた砲手はまだ入院中で、機銃手がそのまま砲手の任につき、四人体制で禿ペンギンは運用されることになった。

 私は、乗客としてP-21に同乗し、フグロイ島に向かうこととなった。


 そして、一九四三年九月。

 伊国は連合軍に無条件降伏し、独国は完全に孤立した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ