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クーゲルブリッツの砲塔

 暗号通信が届いた。

 我々のために、哨戒飛行を行ってくれた、勇敢な『夜の魔女』こと、ニーナとイリーナは行方不明だそうだ。

 傍受したワイルドキャットの通信記録から類推すると、彼女らのフェアリー・ソードフィッシュは、ワイルドキャット五機と交戦しつつ西へ進路をとり、交戦開始地点からおよそ五十キロメートル地点で撃墜されたらしい。

 この五機は、結局我々と交戦することなく護衛空母セイレム号に帰還した。

 彼女らが決死の覚悟で防備を剥がしてくれたので、我々は脱出のチャンスが増えた。あの時、あと五機ワイルドキャットが増えていたら、もっと現場は混乱していただろう。

 私は生き残った。私は、今回の敗北を『経験』として、絶望的な戦いに赴くペンギンたちに伝えなければならない。それが、生き恥を晒し続けるわたしの贖罪だ。


 試作対空戦車『クーゲルブリッツ』の砲塔はまだ届かないが、備砲となる機関砲は届いた。

 『Mk103三十ミリ機関砲』だ。

 本来は航空機用に開発された機関砲で、これの前身である『Mk101三十ミリ機関砲』に比べると、大幅な軽量化が図られ、航空機の負担を軽くしている。

 陸戦仕様のMk103三十ミリ機関砲は、従来のマガジン方式の給弾システムから、ベルト弾倉に変えられ、連射が可能になったのが大きい。

 三十ミリまでの対空機関砲では初速が最速で、貫通力が高い。前線の兵士から最も信頼される機関砲の一つである。

 これを二連装にして、砲塔に組み込む。真上以外はカバーできるドーム状の砲塔が到着すれば、照準器が故障し砲手が入院したP-21に搭載させる予定だった。

 クーゲルブリッツ砲塔のペンギンで、我々の頭上を守り、標的を集中して遠距離射撃を行う。これが、新しいペンギンの戦い方になる。


 カール・フェルゲンハウワー中尉とは綿密に打ち合わせを行った。

 彼はやはり試作機クーゲルブリッツの事を知っていて、なぜそれに早く気が付かなかったのかと悔しがっていた。

 ペンギンは人材不足なので、多少の改良は必要になるだろうというのが、私とフェルゲンハウワー中尉の共通の認識だ。

 本来、クーゲルブリッツは、Mk103三十ミリ機関砲を二連装にして運用するが、各銃身に一名づつの機銃手がつく。

 人材不足のペンギンは、これを一名で連動させて使用することにする。

 装填手は、ベルト給弾の補助と排莢。機銃手は砲塔の回転と機銃の操作。こういった作業分担を砲塔内で行うことになるだろう。

 一分間に約四百二十発もの銃弾を放つ性能がある機関砲が二門あるのだ。効率よく機外に排莢しないと、薬莢だらけになってしまう。


 砲塔の到着してから、砲塔の改造と訓練を行う。これらが完結するのに、約一ヶ月。というのが私の読みだ。

 その間、ついにシチリア島は陥落し、ムッソリーニは失脚した。連合軍と組んで、ムッソリーニを打倒したのが、彼に弾圧されていたマフィアだというのだから、むちゃくちゃだ。

 伊国支援の名目で駐屯していた独軍は伊国の北部に後退し、ギリシャ上陸に備えていた部隊と合流する。

 ギリシャに大規模な上陸部隊が来る……というのは虚報で、シチリア島は奇襲同然だったらしい。

 二重スパイ、『牛』と『羊』の裏切りを見抜けなかった、カエルたち諜報部の失策が響いた形だ。

 

 

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