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新しいペンギン

 それは、軍法会議と呼べるものではなかった。

 基地の司令官である『アドルフ殿』ことアルブレヒト・ホフマン大佐は、軍法会議を開催する権限をもっていたが、記録に残さないといけない。

 記録に残るということは、敗北したという事実を報告しなければならないということで、着任早々の負け戦はなるべくなら知られたくないと考えているのだろう。

「どういうことなのかな? 短時間の戦闘で、戦線を放棄したとか?」

 かつて、前・司令官ニクラス・ディートリッヒ大佐が使用していた執務室で、私は開口一番そうホフマン大佐にそう言われた。

「あのまま戦闘を継続しても、被害が拡大するばかりであると判断したためであります」

 金色に染めているという噂の髪をかきあげて、芝居気たっぷりにホフマン大佐はため息をついた。

「らしくないじゃないか、アルフレード・シュトライバー大尉。君は、ブルテリアのように、相手に食らいついたら離さないタイプの指揮官だと記憶しているが、私の勘違いだったかな?」

 そう言いながら、ホフマン大佐のこめかみが、ヒクヒクと動いている。歯を食いしばっているのだ。口調は穏やかだが、だいぶ怒っているらしい。

「勝利の可能性があるなら、粘ります。ゼロなら、撤退も選択肢の一つであると考えます」

 私のその言葉に、ホフマン大佐はかっと来たようだ。

「黙れ! 敗北主義者め! 私が着任してから、各地でP部隊が負けておる。わざとやっておるのではないか? ああん?」

 なるほど、ニクラス・ディートリッヒ大佐を褒めたおして栄転させ、P部隊を乗っ取ったはいいが、彼が指揮官だった時よりスコアが落ちているので、彼は動揺しているのだ。

「お言葉を返すようですが、私は敗北主義者ではありません。それに、恣意をもって戦場を離脱いたしません」

 ホフマン大佐が、ものすごい形相で私を睨みつけてくる。こうやって、気の弱い者や立場の弱い者を脅していたのだろう。だが、私には通用しない。

「意見具申があって、帰還いたしました。スコアを戻せます」

 私のその言葉に、ホフマン大佐の視線が泳ぐ。やはり、スコアの落下が懸念材料なのだ。

 百戦錬磨のニクラス・ディートリッヒ大佐なら、現場の意見を吸い上げて、対策を練る。

 憲兵やゲシュタポ出身で戦場に出た経験がないアルブレヒト・ホフマン大佐は、脅したり、怒鳴り散らししたりすることしかできないのだ。

「言ってみろ、シュトライバー大尉」

 案の定、私の意見を聞きたがっている。叱責や脅しは余計なやりとりなの。それが、このタイプの人間にはわかっていない。

「スコアの低下は、相手の戦術が変化したためです。当初、米英の海軍は、当方の制空権を取った事により大型艦艇の封じ込めに成功し、レーダーなどの技術開発でUボート対策も万全、制海権も手中に収めたつもりでおりました。そこで、一線を退いたフラワー級コルベット艦などを輸送船団の護衛につけていたわけです」

 ホフマン大佐が、うなづいて同意を示す。本当に理解しているのかどうかはわからないが……。

「しかしP部隊の投入で、二線級の艦艇は通用しなくなりました。撃沈のスコアが上がったのもそのころです。被害が拡大すれば、対策を練ってきます。それが、『高速輸送船団』と『護衛空母による随伴航空機』であります」

 当初から、航空機がペンギンの天敵になると指摘していたことは、あえて触れなかった。司令部批判だとあげ足をとられるからだ。

「これは、敵軍の輸送コストが上昇したということであり、一連の作戦が作り上げた功績であります。ただし、撃沈スコアは、今後下がってゆくでしょう」

 敵は柔軟に対策を打ってきた。当方も、従来の戦法から新しい戦法に転換を図らないと、対抗できない。


「そこで、意見具申でありますが、対空特化型ペンギンの投入を提案致します」

 

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