ペンギンの姿
我々はぞろぞろと、ドッグへと移動していた。
そこに、フェルゲンハウワー中尉が説明した夢のような最新兵器が納入されていて、その現物を見る事になったからだ。
クラウツ准将の口元には、皮肉な笑みが浮かんでおり、どこか面白がるような気配があった。
爆撃機から掩蔽された乾ドックがあり、排水されたドッグ内には意外なほど小さな機体が盤木にのせられて鎮座していた。
誰かが、息をのんだ。
誰かが、不満の呻き声を上げた。
私は、思わず失笑してしまいそうになり、クラウツ准将の態度の意味を理解したのだった。
我々が目撃したのは、独国が誇る汎用中型戦車、
『Pz.Kpfw.Ⅳ Ausf.H』
だったからである。
通称、『Ⅳ号戦車』と呼ばれるこの戦車は、その汎用性の高さから各地の戦場で活躍し、『独国軍の使役馬』と仇名されるほど陸軍にはなじみの機体だ。
様々なヴァリエーションが作られた機体だが、これは細かい改良がくわえられたタイプで、シュルツェンという予備装甲が砲塔まわりと側面に搭載されている。
これは『中空装甲』といって、本体の装甲の外に支柱で支えられた装甲を貼ることで、対戦車ライフルなどの高速弾の威力を減衰したり、装甲に刺さって燃焼ガスを戦車内に噴き出す特殊な砲弾を無力化したりする。
「なんだ……これは……」
怒りを含んだつぶやきが、陸軍の将兵から上がる。フェルゲンハウワー中尉の熱弁に乗せられ、高まった期待が一気に醒めたのだ。




