追い詰められてゆくペンギンたち
P-07は、更に深く斬りこんでゆく。激怒したスズメバチのように、ワイルドキャットはブンブンと上空を飛びまわり、次々に降下しては機関砲を浴びせてくる。
護衛空母セイレム号も、対空用のボフォース四十ミリ機関砲を水平撃ちして、我々に銃火を浴びせ始めた。
空母を庇うかのように、前に出てきたのは、最新鋭のフレッチャー級駆逐艦ラザフォード号だった。
これで、P-07は完全に艦砲射撃の直射範囲に入ったことになる。一瞬でも足を止めたら、原型を留めぬほどに叩かれるだろう。
P-21を置いてきてよかった。こんな状況、初陣のペンギンにはムリだ。
砲手のディーター・クラッセン軍曹が、床のペダルを踏んで同軸機銃を撃つ。七ミリ機銃だが初速が早いので、航空機なら当たれば落とせる。だが射界が狭いので砲塔正面から突っ込んできた敵しか撃てない。
そもそもの役目は、砲弾の飛んでゆく向きを測定するための機銃だ。対空用ではない。
「こんちくしょう! もう機関砲が旗ペコだ! おかわり、頼みますぜ」
機銃手のエーミール・バルチュ伍長が叫んでいる。機関砲弾の消費が異様に早い。
「車長!」
装填手のクルト・バウムガルテン一等兵が、機関砲のマガジンを私に手渡してくる。戦車兵出身の乗員は、慌てていると艇長ではなく車長と私を呼ぶ。クルトめ。ビビッていやがるな。まぁ、無理もないが。
本来は、砲塔脇のハッチから出て彼が届けに行くのだが、この状況で外に出るのは自殺行為だ。
私は、ひったくるようにして、マガジンを受け取り、バルチュ伍長に呼びかける。
「砲塔の上を滑らせて、そっちに渡す。受け取れ、エーミール!」
キューポラから身を乗り出して、私は砲塔の上をカーリングのストーンのようにマガジンを銃座に送った。
バルチュ伍長は、片手でマガジンを受け取り、片手で機関砲を撃ちながら、「もっと寄こせ」というハンドサインを送ってくる。
ヒュンヒュンと銃弾が空気を裂いて私の近くを飛び去り、ラザフォード号の主砲の砲弾着弾の水柱からの飛沫が、私の上着を濡らした。
右に左に激しく動くペンギンから振り落とされないよう、ツルツル滑る砲塔に必死に掴まりながら、バウムガルテン一等兵からマガジンを受け取っては、銃座に送る事を繰り返す。
「それで、最後です!」
いくつ銃座にマガジンを送ったか忘れてしまったが、私は最後の一つをバルチュ伍長に送り、「打ち止め」のハンドサインを送った。
我々は走った。護衛空母セイレム号と駆逐艦ラザフォード号の四十ミリ機関砲まで加わり、我々の周囲には常に小さな水柱が湧き立ち、まるで沸騰した海を走っているかのようだった。
バウマン大尉からの砲撃はまだ始まらない。およそ十機ばかりのワイルドキャットが彼らに張り付いており、砲撃どころではないのかもしれない。
航空機を考慮に入れていなかった。
たった三機のカタリナに我々は苦戦した。随伴兵力として航空機が有効という戦闘経験は、確実に米英の陣営に伝わっていたのだ。
それを大規模に運用するにはどうしたらいいのか? という結論が、小型空母を随伴させるという『解』だった。
対して、我々は同じやり方を兵力を増強させるだけで、従来の方法を踏襲しているに過ぎない。
ペンギンは所詮は代用兵器。我々の存在が『想定外』だったからこそ、初期には効果を上げていた。本格的に対策を講じられれば、Uボートや、Sボート同様、手も足も出なくなる。
だが、今目の前の戦を我々は乗り越えなければならない。
なんとか、護衛空母だけでも、叩きたい。護衛空母を随伴させることはコストが高いと思わせるためには、砲弾をセイレム号に叩き込まないといけないのだ。




