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悪い予感

 ベア島に来て、三日目。潜航して逃げる事が出来ないので船着き場まで来れないけれど、移動教室ことグスタフ中佐の『乳牛』が到着した。

 フェアリー・ソードフィッシュが多少だが燃料を運んできたのだが、それも底をつきかけていたので、実に心強い。

 ニーナ・マカロフとイリーナ・メクリンは、三日間連続で午前と午後に哨戒飛行に出かけている。通常は連続出撃はしないそうなのだが、氷国を出てからの輸送船団の足取りがつかめないのだ。

 アマラとカマラが命がけで探り出してきた二重スパイの影響で、諜報網の見直しが行われ、様々な国で現地に根を張っていた工作員……通称『スリーパー』と呼ばれるそうだ……が大幅に入れ替えになり、上がってくる情報の確度が低下しているのだ。

 我々には想像もつかない緊張を、飛行機乗りには強いるのだろう。この三日で、見ているのが可哀想になるぐらい彼女らは疲れ果て、それでも眼の光だけは衰えずに、食事もそこそこに大空に舞いあがってゆく。

 まるで、復讐に憑かれた亡者の様だった。

 

 我々はその間、ペンギンを万全の状態で動かせるよう、調整していた。

ベア島沖二キロメートルのところに沈底している『乳牛』から、不足していた燃料の補給も受け、ペンギンは満腹状態。

 小屋を譲ったせいで、仮設テント住まいとはいえ、久しぶりに手足を伸ばして眠ることが出来、体調も万全だ。

 ラジオ放送の暗号で、我々の作戦が海軍に承認され、Uボートの派遣も決定したらしい。

 作戦名は『鷹の眼』となった。フェアリー・ソードフィッシュを使った空からの監視を組み込んだ、モデルケースとなる。

 最新情報では、高速輸送船は十五隻。護衛の駆逐艦は六隻。全て最新鋭のフレッチャー級駆逐艦だ。

 部隊名は『第二十七護衛艦隊』。カエルの情報だとこの部隊の定数は七隻のはずだが、一隻は故障だろうか?

 機密文書の所属艦隊名簿を調べる。

 旗艦はダルトン号。以下同型駆逐艦のエンパイア号、フェデラル号、ギークス号、ハリファックス号、インドミタブル号、と続いている。これで六隻。そして、正体不明の艦が一隻。名簿に名前すらない艦艇がここに加わる予定らしかった。

 建造中の巡洋艦らしいという補足情報はあったが、その後情報は更新されていない。

 なにか、ひっかかるが、何も思いつかない。

 二度、ペンギンと米国海軍とは対戦していたが、そろそろペンギン対策もしてくることだろう。

 練度は低いが、近代装備と柔軟な思考で米国海軍は歴戦の英国を凌駕するポテンシャルがある。

 最初は大規模輸送船団で挑んできた。

 その次は、少数の高速船団で挑んできた。

 この次は、どうするのか? 高速輸送船団はある程度の成果は上げた。

 ただし、ペンギンに敗北したことにより、物量で押し切るしかなくなり、輸送コストがかかるようになってしまった。

 空白の巡洋艦らしき、正体不明の艦艇が気になる。創意工夫に定評のある米国海軍だ。きっと、何かを仕掛けてくるはず。


 戦術は徹底して叩き込んだ。

 私のP-07と機が強くて思い切りがいいクルト・ヴァランダー准尉のP-22が組んで、攪乱。残りはバウマン大尉のP-08が率いて遠距離砲撃戦を仕掛ける。

 標的は分散させない。一隻を集中して狙う。

 標的になった敵艦は、五門もの百五ミリ戦車砲に晒されるわけだ。同規模の艦艇と殴りあっているに等しい。

 ただし、当方は全長八メートルの機体が五つバラバラに並んでいるだけ。片や百二十メール前後の船体。まともに殴り合うなら、圧倒的にペンギンは有利なはずだ。


 午後の哨戒に、フェアリー・ソードフィッシュが飛び立つ。

 だいぶ、この海域に船団は近づいているはず。

 予感があった。今日あたり、接敵するだろうという漠然とした予感。

 そして、消えない不安感も、私につきまとう。何かを見落としているが、それを思い出せないもどかしさのようなものがある。

 ジンクスがあったのを、この時私は忘れていた。

 私の悪い方の予感は、だいたい的中するのだ。

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