新戦法の模索
露国や英国に物資を送っているのは、参戦が遅かった米国だ。欧州が殴りあって共倒れするなか、たっぷりうまい汁を啜って肥え太ったあと、今後ジリ貧になると分析した独国に正義の味方面して宣戦布告した米国だ。
レンドリース法により露国も英国も援助しているが、ちゃっかり見返りは求めている。戦争や外交は慈善事業でないのだから、当然と言えば当然だ。
米国は、その豊富な資源と物資を背景に輸送に関しての戦法を変えてきた。それが、どんどん新型の駆逐艦を作り、旧型の駆逐艦を高速輸送船に改造するという戦法だ。
海の覇者だったUボートは、輸送船団に接近すらできず、探しだされてはひねりつぶされる始末。
過剰に増強された護衛艦隊相手では、ペンギンが初期に効果を上げた奇襲戦法も遠距離砲撃戦法も、殆ど意味をなさないことになってしまった。
新しい戦法が求められているが、その結論のひとつが、ペンギンの集中運用だ。単機、または二機による各個撃破ではなく、複数のペンギンが一隻を集中して襲撃するという戦法がそれである。
ペンギン四機以上を一ユニットとして扱い、主砲を四門から五門を備えた敵艦に対抗しようというのだ。
問題は、連携の訓練が出来ていないこと、高速・高機動のペンギンの特性が削がれることなどが考えられるが、私とバウマンは試す価値はあると考えていたのだった。
隠れ潜む立場なので、演習はできない。ただし、ブリーフィングは綿密に行った。逆に言うと、それくらいしかできないということなのだが……。
少年たちの頭に、理論だけは叩き込んでおかないと、実戦では役に立たない。理論に実力が追いついてくれば、初めて彼らは戦力になる。心意気だけでは、どうしようもないのが戦場だ。
少年兵たちは、兵役の経験がない。白紙の状態だ。我々はもとに所属していた世界とペンギンとがあまりにもかけ離れていたため、順応に苦労したが彼らにはそれがない。数少ない強みだが、事実、彼らは乾いた大地が慈雨を吸収するかのようにペンギンの戦術的特性を飲み込んでゆく。
先入観がないので、反応も素直だ。
「くそ田舎のくそ教師になった気分っすよ」
砲手相手に、行進間射撃のコツなどを伝授しているクラッセン軍曹がうんざりしたように零した。
「メモ取ってる奴がいるんすけど、メモ見ながら砲撃する気ですかね? 鉄拳制裁したら、ぶっこわれちまいそうで、できねぇし……」
さすがの鬼軍曹も勝手が違ってやりにくそうだ。
私は、バウマン大尉と、三人の新任艇長、フランツ・オイゲン准尉、クルト・ヴァランダー准尉、ハンス・カッツパルゲル准尉と協議を重ねた。簡単な信号の取り決めも行う。
その他、単独ではぐれた際の帰投手順や、私とバウマン大尉が戦死した際の手順など、決めなければならないことは山積みだった。
高速輸送船十五隻、護衛駆逐艦六隻という中規模の輸送船団接近の報が入ったのは、三機の「志願した」少年兵たちのペンギンが着任して二週間が経過したころだった。
ますますやつれて、皴が目立つようになったカエルからの情報だ。カエルは今、牛と羊に破壊された諜報網を再構築する仕事に従事していて、眠る時間すら惜しいらしい。
「米国のボストンで、牛が死んだらしいですよ。階段から落ちて、首を骨折したとか。裏切り者にふさわしい死ですね」
暗い笑みを浮かべて、ボソッとカエルはそんなことを漏らしたが、諜報の世界での暗闘は激しさを増しているらしかった。
例によって、氷国で最後の補給を行い、一気にバレンツ海を抜け、白海に入るコースだ。
露国海軍が、白海周辺をがっちり固めているので、『テルモピュライ作戦』と同じ手は使えない。ならば、ベア島周辺で警戒網を張り、一気に襲撃するのが有効だが、漁船に偽装した工作員を使うことが出来ない。
そこで、カエルから提案があったのは、鹵獲したフェアリー・ソードフィッシュを偵察機として使う作戦だ。
ベア島に入江に、フェアリー・ソードフィッシュを隠し、水上偵察機として使用。輸送船団の位置を特定しようというのである。
燃料切れで漂流していた、フェアリー・ソードフィッシュが諾国のフィヨルドのどこかに隠してあり、たまに偵察機として使用されているらしい。
米国のマスタングに見つかったらひとたまりもないので、今は専ら隠れているそうだが、それを引っ張り出そうとカエルは言っていた。




