高まる期待
大型戦艦の行動が規制され、湾内で海に浮かぶ対空砲陣地となってしまっている現在、連合国側の戦艦に対抗できるのはUボートとSボートだけになってしまっている。
しかも新型ソナーの登場によって、Uボートの優位性も徐々に失われ、狩る立場から狩られる立場へとなりつつある。
大きな反攻作戦が不気味に蠢動しつつある現在、それは致命的なことであった。
「そこで、コルベット艦から巡洋艦までの高速艦艇を牽制し、Uボート、Sボートに代わり通商破壊の任を担う艦艇が必要とされているのです」
ちょび髭の伍長出身の独裁者ばりの、フェルゲンハウワー中尉の熱弁に、集められた陸海の将兵が身を乗り出す。
醒めて一歩引いているのは、クラウツ准将と、今回のミーティングの主催側であるディートリッヒ大佐、そして私ぐらいなものだろう。
私は海軍士官だが、職業軍人ではない。予備役……すなわち、志願兵だ。
前置きが長いときは、大抵においてロクなことがない事を知っている。職業軍人は毎回それに騙されるが、それは軍人と言う仕事に対する思い入れの違いなのだろうか? 私はそんなことを、ぼんやりと考えていた。
まぁ、どんな結論になるのか、その解に好奇心が湧かないでもないが。
「そこで、新しい作戦群に求められるのは、『敵の高速艦艇を凌ぐ機動性』、『打撃を与えられる火力』、『単独で航空機に対抗できる能力』、『Uボートと同等の秘匿性』なのであります」
フェルゲンハウワー中尉はそこで言葉を切り、一同を見回した。自分の演説に、皆が傾注していることに満足したようだった。
私は、ずいぶんと風呂敷を広げた痩せぎすの中尉が、どんな種明かしをするのか、すこし楽しみではあった。
クラウツ准将の醒めた態度を見るに、あまり期待はもてないとは思いつつ。
「嘆かわしいことに、我々に新造艦を作る余裕はありません。数々の最新鋭戦艦を送り出してきたこの港においても、同様であります。ならば、どうするか?」
フェルゲンハウワー中尉が、興奮して講演卓に拳を打ちつける。ますますもって、ちょび髭伍長殿に似てきたようだ。
「我が国の優秀な既存の兵器を、目的に合うよう改造すればいいのです」
図らずも、拍手が会場に起きた。ここにいるのは、戦場に出られないことで、焦燥感に駆られていた将兵だ。祖国のため、再び前線に行くことが出来れば、なんでもいい……そう考えている者が多いのだろう。例え、目の前の男が詐欺師まがいの胡散臭い事を言っていたとしても。
『機動性』、『火力』、『対空能力』、『秘匿性』に加え『低コスト』まで考慮された兵器だって?
にわかには信じがたい事だ。クラウツ准将が密かに吐いたため息を見ると、あまり過度な期待はしない方がよさそうだ。




