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フェルゲンハウワー中尉の話

 クラウツ准将が引き連れてきた、2人の見かけぬ軍人は、第百訓練大隊の指導官ディートリッヒ大佐といい、戦車の運用を指導する士官だった。

 もう一人、独国軍人らしからぬだらしない軍服の着こなしの士官は、フェルゲンハウワー中尉で、技術開発部から派遣されてきた技官らしい。普段は作業着だが、今日はあわてて軍服を引っ張り出してきたということだろう。

 借りてきた服を着ているようなのも納得できる。

 クラウツ准将は、2名の士官を紹介すると、もう役目は終わったとばかりにどっかと上座に作られた自分の席に座る。なんだかわからないが、これから作戦行動が開始される様子だ。しかし、彼はそれを気に入らないということらしい。

 ここに、陸軍の技術指導の教官と、技官がいること自体異例なのではあるが。

 ディートリッヒ大佐とフェルゲンハウワー中尉は困ったような顔を2人で見合わせていたが、やがてフェルゲンハウワー中尉が咳払いをして話し始めた。

 「お忙しいところ、お集まり頂き恐縮です。近々、連合国から大規模な反攻が行われるという噂は、皆様ご存知かと思います」

 黒板に貼られた地図に、太い芯の赤鉛筆でフェルゲンハウワー中尉がいくつも矢印を書き加える。

 それは、英国の沿岸を起点に、カレー、ディエップ、ノルマンディ、シェルプール、サン=マロからブレストに至るまでの、英国に面した英国海峡、ドーバー海峡の各拠点を結ぶルートだった。

 フェルゲンハウワー中尉は、赤線が書き加えられた地図を指差しこう断言したのだった。

 「この、いずれかの拠点が、攻撃目標です」

 興奮しているのか、緊張しているのか、かすかに指が震えていた。

 「だが、我々には艦船がない。海という天然の『堀』も、遊弋する戦闘艦がなけれれば、要害とならないのです」

 見た目では、発育のわるいキュウリみたいな貧相な男なので、ぼそぼそとしゃべるのかと思いきや、意外とこの男は雄弁だった。胡散臭げに見ていた、陸海の兵士も、その熱弁に少しづつ引きこまれているようだった。

 「今回の反攻作戦の主力は米国。米国は、圧倒的な物量で圧倒する戦法を使います。すなわち、海上からの艦砲射撃、航空機からの絨毯爆撃、空挺師団による後方攪乱などです。それで、防衛ラインに穴を穿ち、橋頭堡を築くのが、彼らの定石」

 ここまで一気にまくしたて、フェルゲンハウワー中尉は一息ついた。ミーティングルームは静まり返っており、静かな熱気が醸成されつつあった。

 「Uボート作戦群と、勇敢なるSボートたちが、輸送路となる英国海峡で待ち構えておりますが、その排除に動くのが、駆逐艦や巡洋艦などの足の速い艦艇。新型のソナーを備えた駆逐艦は、Uボートのを狩る優秀なハンターで、英国海峡にも配備されています。我々は、UボートやSボートの障害となるこれらの艦艇を、叩かなければなりません」

 本来、そういった艦船を叩くのは、戦艦の枠割だ。だが、制空権を奪われた現在、これら大型艦は独国領内の湾内に隠れ潜んでいるような状況だ。

 無理に出撃すれば、悲劇のシャルンホルスト号のように、爆撃機に損傷させられてしまう。

 では、どうするつもりなのか?

 陸軍の兵士が集められた理由は何なのか?

 私も、その解に興味がわいてきた。

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