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ビショップ号との砲撃戦

 ビショップ号の砲撃を辛くも避け、P-07は旋回する。

 輸送船団と並行して走っていたが、今度は逆方向に疾走していた。

 猛追してくるビショップ号と、もう一度すれ違わなければならない。出来れば二千メートル以上の距離を保ちたかったのだが、ビショップ号がP-07と衝突するようなコースを採っているので、外側に切れ込むように舵を切っても、さっきよりは大分近くなる。予測では一千メートル程だろうか。装甲を撃ち抜かれかねない危険な距離だ。

「もう一度、ビショップ号と馳せ違うぞ。叩きのめしてやれ」

 P-07がぐんと加速する。前後左右の変則的な機動がペンギンの命綱だ。

 砲塔は右斜め前を向いている。早い段階で一撃。すれ違う瞬間に一撃。出来れば、船尾に置き土産の一撃。そんあことを砲手のクラッセンは考えているのだろう。

 『カニ眼』を覗く。弧を描くように動く当方に対して、ビショップ号はまっすぐ突っ込んできていた。

 我々は、徐々に輸送船団から離れていていて、それはつまり駆逐艦の引き離しに成功しつつあるということだ。

 このすれ違う一瞬で、航行に支障をきたすダメージを受けてくれればいいのだが。

 P-07の斜め前方のビショップ号の像が大きくなる。ピントをあわせ、目盛を読む。

「目標ビショップ号! 距離二千! 方位左三ポイント! 狙いが付き次第撃て! 進路そのまま!」

 砲手と操縦手に同時に指示を出す。

 遠い太鼓の音。ビショップ号の砲撃だ。立て続けに二本、水柱が立つ。百メートル以内の着弾。ともに、手間に落ちた。

 大きく飛越する砲弾が少なくなってきたということは、ペンギンの小ささに幻惑されて実際よりも遠くに標的があると勘違いをしなくなってきたということで、あまりいい傾向ではない。

 水柱が崩れて出来た水滴の紗幕を突っ切る。バラバラと氷のように冷たい大粒の水滴が降ってきて、露天の私とバルチュ伍長が同時に毒づく。

 百五ミリ砲が吠える。ビショップ号の艦首右側に火花が上がり、黒煙が上がるのが見える。

「命中! 進路そのまま! ジグザグ航行開始!」

 三十ノットで接近しつつあるビショップ号と、五十ノットで疾走するP-07とが再びすれ違う。今度は距離が近い。

 敵の砲手、機銃手の殺気がまるで見えない槍の穂先のように突き刺さってくる。

 馬上試合の騎士のように、一千メートルの距離で馳せ違う。

 使われるのはランスではなく、大砲だ。身を守るのは盾ではなく装甲と鍛え抜かれた操船だ。

 五発、砲声が鳴り響き、無数の四十ミリ機関砲が横殴りの雨のように降り注ぐ。

「こなくそ!」

 罵りながら、必死にベーア曹長がハンドルとレバーを忙しく操作していた。P-07はそれに応えて、右に曲がり、左にターンし、つんのめるように加速したと思ったら、不意に減速する。

 ペンギンの動きはまるで激しいダンスだ。

 五本の水柱は、P-07の航跡に立ち、四十ミリ機関砲は数発が右舷のシュルツェンを貫通して側面装甲に当たり、数発が砲塔を掠めた。

 着弾した場所が、衝突のエネルギーが熱エネルギーに変換されて、氷が解け水蒸気が上がった。

 百五ミリ砲が火を噴く。ほぼ真横に並んだタイミングでの一撃だ。

 火花が、艦橋の下、機銃の銃座がある個所で弾ける。

 四十ミリ機関砲が沈黙した。

 機銃本体が壊れたか、機銃手が死傷したのだろう。

「命中! 機銃にあたったぞ!」

 砲手のクラッセン軍曹は、それに頷いただけで、砲塔の回転ハンドルを回していた。P-07の動きに合わせて砲塔を後ろ向きにし、遠ざかるビショップ号の艦尾に一撃くらわせる気だ。

 ビショップ号の後甲板の二基二門の五インチ砲が火を噴く。P-07はガクンガクンと減速し、砲弾は偏差射撃をしていた関係で、我々を大きく飛越していった。

 減速した際のピッチング(縦揺れ)が揺り戻ったタイミングで、もう一度P-07の百五ミリ砲が発射された。

 舷側を貫通して飛び込んだ榴弾が、後甲板の上で爆発したらしく、何かの構造物がくるくると回転しながら宙を飛んでいた。

 

 

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