機関砲を防げ
狙いすました第二弾が、発射される。
水柱が立たない。大きく飛越してしまったかと思った瞬間、高速輸送船の後部甲板で黒煙が上がり、火花が散った。
「命中!」
私の報告に、砲手のクラッセン軍曹が拳を突き上げる。
遠くで、百五ミリ砲特有の重い砲声がした。
P-08も砲撃を開始したようだ。
装填までの時間を利用して、双眼鏡を覗く。ひときわ濃い黒煙を上げて、こちらに向かってくる艦影があった。多分、ビショップ号だ。
艦首にある三十八口径五インチ単装砲二基が砲撃してきた。狙いも何もない。我々に対する威嚇射撃だ。
P-07を大きく飛越した砲弾は、シュルシュルという空気を裂く音を残して三百メートルほど後方に水柱を二本立てた。
「増速五十ノット! 輸送船に並ぶぞ」
輸送船とP-07の間に割って入るようなコースをビショップ号はとっている。我々とすれ違いざま、片舷斉射を仕掛けてくるつもりだ。
ならば、我々は速度を上げてこの場を素早く通り過ぎ、四番目か三番目の輸送船を砲撃するまで。
その前に、最後尾の輸送船に置き土産をしてゆく。脇腹に一撃お見舞いしてやろうというのだ。
「弾種HEAT! 装填急げ!」
榴弾を装填しかけていた、バウムガルテン一等兵が、あわててHEAT弾に変える。
波の上を飛び跳ねるように、ペンギンが疾走する。
砲手のクラッセン軍曹は、目測で砲塔を真横に向ける。
私は、『カニ眼』を覗き込んで、再度敵影を捉え、目盛を読む。
「距離二千二百! 方位左に一ポイント!」
私の報告を受け、仰角と向きを同時にクラッセン軍曹が調整していた。そして、
「どてっ腹に一発」
と、祈るように呟き三発目を発射する。
ほぼ真横に砲撃すると、機体がガクンと傾く。砲塔は上向き、『カニ眼』は一瞬、空だけを映した。
操縦手のベーア曹長が逆舵を当てて、機体のバランスを保つ。再び『カニ眼』で捉えた最後尾艦は、右舷中央から黒煙を上げていて、喫水に近い舷側にはバックリと亀裂が入っていた。
「命中! 喫水線にダメージを与えたぞ」
チカチカと黒煙の間から銃火が瞬く。音で分かった。ボフォース四十ミリ機関砲L/60だ。対空用に輸送船に設置された機関砲を、水平撃ちしてきたのだ。
「ジグザグ航行開始!」
ペンギンにとってのジグザグ航行とは、左右の舵ばかりではない。急加速や減速も含めての複雑な航行を差す。まるで、激しいダンスを踊るような。
水面に小さな水柱が立ち、怒ったスズメバチの羽音を立てて至近弾が通過する。
また、大きな水柱が二本立つ。救援に駆け付けたビショップ号の砲撃だ。今度はレーダー測量しつつじっくり狙った砲撃らしく、百メートル以内の着弾だった。
こちらが、全長八メートルというサイズでなければ、命中弾だったかもしれない一撃だった。
「面舵四ポイント!」
ペンギンは、大きく隊列から離れるコースを採った。
ビショップ号とすれ違う時、最低二千メートルは距離を取っておきたいからだ。撃っても当たらない主砲より、面で攻撃してくる機関砲を警戒してのことである。
事実、前回の『トロールの投石』作戦では、殆どがボフォース四十ミリ機関砲による被害だった。自沈を余儀なくされたP-09も、四十ミリ機関砲により乗組員が全滅したのが原因だった。




