表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/173

ボノイ川の河口

 スカンジナビア半島の北端ノールカップを越えたあたりで、予備の燃料タンクは底をついた。

 あとは、米英の兵士が、ジェリー(ドイツ兵の蔑称)が使う缶ということで『ジェリ缶』と呼んでいる『国防軍規格型容器』五個の合計百リットルの燃料と、まだ満タンの燃料タンクだけになった。

 美しいこの冷たい海に、ドラム缶を沈めるのは本当に心苦しいところだが、ポンプで海水を注入し、転がり落とす。

 まだ連絡はないが、このあたりがペンギン支援用に割り当てられた輸送Uボート『乳牛』とのランデブー場所になっていて、この冷たい海底に、流木や岩礁に擬態したシュノーケルと受信用アンテナだけを出し、静かに沈底して我々の到着を待つことになっている。

 P-07と08はここで別れ、我々はコラ半島側、P-08はカニン半島側で待ち伏せする。

 我々が潜伏場所に選んだのは、ボノイ川の河口に近いところ。浸食が激しく複雑な地形なので、ペンギンを隠すには丁度いい場所だった。

 P-08が潜伏先に選んだのは、くの字に曲がるカニン半島の曲がった場所、そこには岩礁地帯が広がっていて、大型艦艇は入ってこれず、ペンギンほど小さければいくらでも隠れる場所はある。

 監視は、漁師に偽装した工作員が行う。我々の潜伏場所とP-08の潜伏場所の距離はおよそ百キロメートルだが、そのどこかを高速輸送船団は通る。工作員はこの水路の手前百キロメートル前後の海域に扇形の漁船を配置し、定置網漁をしている風を装いながら、監視ラインを作る。

 まるで、帆船時代の海上封鎖みたいなものだが、航空機が使えない我々には、古風だがこれしか監視する術はないのだ。

 高速輸送船団が発見され次第、無線封鎖が解除され、漁船から通信が入る。我々は、その情報をもとに、左右から高速輸送船団に接近し、砲撃を加えるという作戦だ。

 Uボートは例によって、この海域のどこかに潜んでいて、隊列から毀れた艦船を叩く手筈になっている。


 P-08は、手を振りながら左に、我々は右にと舵を切った。あとは監視網に高速輸送船団がかかるのを待つ。

 我々は荒涼としたコラ半島に舵を切る。

 コラ半島にはセヴェロモルスク港という露国北方艦隊の母港があるが、電撃作戦当初に徹底的な爆撃を受け、主要な艦艇は全て出払っているという情報が工作員からなされていた。

 高速輸送船団との交戦が始まるまでは、我々は発見されたくない。セヴェロモルスク港に残された艦艇が臆病な亀のように引っ込んでいてくれるのは、助かる。

 この海域は米国空軍がいないので、漁船が多い。米国の空軍は、民間人でも銃撃を加えるのが有名だ。彼らにとっては、ヒマつぶしの遊びなのだが、建前上は「工作船らしき動きがあった」ということになっている。もちろん茶番だ。

 諾国沿岸や、北海の漁師は、米国の戦闘機のパトロールがくると、星条旗を振って友好をアピールするという笑い話もある。

 この海域は、米軍機の航続距離外で、露国の航空機も哨戒に出る余裕がないことから、普通に漁業が営まれているのである。

 それらに見つからないように、慎重に身を隠す。P-08が埋伏するカニン半島は、ほぼ無人の荒野で、こうした苦労はしないだろう。

 テントを広げて、工作員からの連絡をひたすら待つ。

 早ければ明晩、遅くとも明後日にはこの海域に到達するはずだ。

 勇敢だが足が遅い商船を伴っていないのだ。航行は順調だろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ