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奇策

 不意に現れ、不意に襲う。奇襲しかペンギンには勝ち目がない。

 本拠地であるフェロー諸島や第二作戦群の誰かが本拠地に使うだろうベア島は待ち伏せ場所には使えない。

 米英の制空権内では圧倒的に不利なのは学習済みである。たった三機のカタリナに、あれほどの苦戦を強いられたのだ。

 ならば、迎撃するならバレンツ海方面しかない。当然、独国の大型艦艇が潜んでいる可能性のあるフィヨルド沿岸は輸送船団も警戒しているだろう。

 高速を生かして大回りするはずだ。

 我々には哨戒機もなく、短波レーダーのせいでUボートは潜望鏡すら出せない。足の遅い商船を伴った輸送船団ならば、どのルートを通るのか予測できるのだが、旧式の駆逐艦の武装を外し、輸送船に改造した高速輸送船では、従来の予想航路は使えない。

 そこで考えたのが、必ず通らなければならない狭隘な地点で待ち伏せする作戦だ。

 予想外だらけの独国の東部戦線だが、スターリングラードの第六軍降伏にならぶ喉に刺さった棘のひとつに、レニングラードの執拗な抵抗がある。

 既に二年近い包囲を続けているのにもかかわらず、一向に陥落しない不屈の都市要塞で、独国の電撃作戦を頓挫させた象徴的な都市でもある。

 この都市を支えているのが、背後に広がるラドガ湖を利用した唯一無二の兵站線、通称『命の道』だ。

 氷国からバレンツ海を通りスカンジナビア半島をぐるっと周る高速輸送船団の終着点は白海。白海は『白海・バルト海運河』の起点であり、運河はラドガ湖に至る。

 レニングラードを支える物資の流れの源流の一つが高速輸送船団なのだ。

 露国の道路状況は悪い。冬季もそうだが、雪解けが始まる泥濘の時期は陸上輸送は困難を極める。

 だから、輸送船団は海路や水路を使えるところに荷揚げするしかないのだ。ゆえに、奴らは直接白海に入ってくる。

 露国の勢力圏内のど真ん中になてしまうが、コラ半島とカニン半島の挟まれた幅五十キロメートルの海域。そこにヤマを張る。

 果たしてUボートにそこまで入ってくる勇気があるかどうかわからないが、確実に高速輸送船団を補足するには、そこがベストの選択だ。

「敵地に隠れ住んで、敵地で埋伏して、襲撃。正気じゃないぜ」

 私から作戦の概要を聞いて、バウマン大尉が唸る。だが、こうした大胆な作戦は彼の好むところではある。普段は私の方が慎重論を吐く。

「明日、カエルがくるだろ? そこで彼にこの意見をぶつけるつもりだ。敵の勢力圏内に埋伏するのだから、情報部の協力は不可欠だからね」

 

「フィヨルドではなく、露国内へ……ね」

 カエルは、我々がフィヨルドのどこかを埋伏の場所として選ぶと予想していたらしい。

「敵も、当然襲撃ポイントとしてフィヨルドを予測しているはず。最も気が緩むのは、目的地を目の前にした時だろ?」

 バウマン大尉が私の案を支持する。

 カエルは、私の考えを吟味しているようだった。つまり、吟味に値する奇策ということだ。

「一日ください。露国の工作員と連絡をとってみます。Uボート戦隊の作戦本部にも連絡をつけないと」


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