幕間・・・とある研究者からの寄稿
私は今日まで割りと平凡に研究員をしてきたつもりだ。
この科学万能な世界で、まさか異世界なんてものが存在するなんて空想はしても・・・実際にそれを証明し、その上その世界と行き来する方法を確立する為に研究をするとは・・・正直夢にすら思わなかった。
事の発端は私が久しぶりの休日に薄い本でも読もうか・・・なんて思っていた時の事だ。
ベッドに横になっていると実験棟の方から激しい閃光と爆発音がしたのだ。
まさか実験事故かと思ったのを覚えている。
この研究所では正直海外は愚か、国内にすら公に出来ない研究もしている。
それこそ細菌兵器や生物兵器の類も研究がされている。
その為、ここの研究員は強力な守秘義務や行動の制限を受ける代わりに、なかば治外法権的な特権を与えられる。
一例をあげれば・・・実験において障害となりうる人物の生命若しくは人権等を侵害する事はこれを罪に問わない。
なんてのもある。
要は、実験を邪魔する奴が居たらそいつを殺してしまっても殺人罪に問わないって事だ。
とんでもない特権だとは思うが、明らかに非人道的だったり倫理観と照らし合わせて問題のある実験を行う以上はどんな妨害があるか不明だ。
国益の為なら犠牲は厭わないというわが国の覚悟なのだろう。
そんな場所柄、事故の種類によっては研究所は勿論下手をうてば日本自体が世界から消されかねない。
それを危惧した私の不安は杞憂に終わった。
事故ではなく・・・恐らく次元的な接続と切断がほぼ同時に起こった為の時空震の発生だろうと観測班からの連絡があったからだ。
私は生体実験担当なのだが現場に呼ばれた。
それまでは呼ばれた理由は不明だったのだが、赴いて理解できた。
なぎ倒された資機材の中心に(正に爆心地のような光景だった)一人の男性が横たわっている。
見たこともない素材で出来ていると思われる衣服を身に着けた20歳前後の男性・・・。
この男性を担当することになると理解できた。
・・・忙しくなる。
実際は忙しいと言えるのはまだ幸せなのだと思えるほどのショックを私の常識に叩き込む事態だと分かったのは、血液検査やDNA検査が終わり。
彼が目覚めた後だった。