二人の協力者と俺の思惑について
俺がこちらに来てからひと月後の話だ。
前回述べた「協力者」が訪ねてきた。
髪はボサボサ、着ている白衣はもはや白衣とは言えないくらいに薄汚れており、更には風呂にも入っていないのか少し臭う。
ビン底メガネ(手垢で汚い)が特徴的な痩身な女性だ。
・・・いや、君らの見間違いでも俺の書き間違いでもない。
こんなのでもれっきとした女性なんだ。
とにかく彼女はこう言ってきたのだ。
「こちらから君の世界へ戻るには最低限その世界がどこにあるのか確定させなければならない」
なるほど確かにどこにある世界か分からなければ転移だろうが何だろうが移動は出来ないだろう。
しかしどうやって確定させると言うのか?
君らもそう思うに違いない・・・。
それを確認すると、世界とは全ての生命を記憶しており、且つ不正に増減した場合にはその整合性を保つ為に行動する・・・らしいのだ。
その結果が因果律の変調だったり、天変地異となって現れるのだとか。
それ自体をどうやって確かめたのか全く気になる話だが、どうせ聞いたところで理解不能な理屈を延々と聞かされるに違いない。
取りあえずそこは理解したと思う事にする・・・話が進まないし。
こういう事になるのか?
俺はAの世界からBへ来た。
不正に自分が管理している生命が消えたから、Aが自分の所から移動した生命をBから移動した生命を取り返そうとする・・・?
彼女は深く頷きながら良く理解できたものだと褒めてくれた。
が、いくら俺でもそのくらいは分かるぞ・・・。
でも俺はここで疑問を覚えた。
俺の世界がそう動くなら俺は自然に帰還できるのでは?
この発言に、彼女はため息をついたものだ。
何でも、その時にはとんでもない事が発生しかねないとの事だ。
・・・そりゃそうか。
世界同士が干渉しあってただで済む訳がない。
様々な現象が複合して発生したりするのかな?
もしかしたら互いの世界の境界が無くなって生態系事態が目茶苦茶になったり・・・。
彼女は恐らく過去の予言者なんかはこういった事態を垣間見て恐怖の大王とか言ったのだろうと類推していた。
って・・・じゃあどうするんだ。
それが起こる前には帰還出来ないとあっちもこっちも破滅じゃないか。
現段階ではどうにも手詰まりな感じだな。
確認すべきは異世界を観測する方法、タイムリミットの高精度予測、世界間転移法の確立か。
何とも無茶な話だなあ。
何かいい方法ない?
希望的観測を言えば、あちらよりも遥かに発達している『科学』とやらがこの世界以外のどこかを観測してくれる事があれば一番いいんだが・・・。
異世界なんて物語の中だけのシロモノだ~・・・なんて言ってるのが居たし、そこまでの発達はしていないのだろう。
当然、異世界の観測が出来ない以上はタイムリミットなんて予測できるはずもないし、異世界への転移なんて夢のまた夢でしかない。
ちょっと考えただけでよくもまあこれだけ穴が見つかるもんだ。
つか、最初の前提が崩れたら全部ダメになってんじゃねえか・・・。
イヤな事を確認してしまった・・・。
そんな事実を確認した事もあって、俺はまず異世界の観測から始めることにした。
だが問題が1つある。
そう、それは昨日も確認したが、その方法が判らないということだ。
これについては彼女にもハッキリとは判らないらしい。
ただ、あちらの世界がこちらの世界に干渉をしてきている以上は、今までの世界の観測結果とは何かしらの差異があるはずだという。
どんな差異があるのか不明なのであらゆるデータを照合して差異を判別するしかないらしいが。
つまり、手当たり次第に確かめていくしかないと。
しかもどれ程の変化があるのか分からないからチェック漏れすることだって有り得る。
・・・そうとう手間がかかるが仕方ない。
というかこれって「生命科学」には関係ないのではなかろうか?
予算が・・・いや、世界は単一の生命であるとか何とか言って予算をもぎ取るしかないな。
手始めに温度の変化や気象条件の変化、大気成分の変化から確認してみる。
もっとも、これらは期待は出来ない。
温暖化なんて随分と以前から進行しているらしいし、それに伴う気象異常なんかも発生しているようだし・・・。
大気成分の変化なんてそんなに簡単には結果が分かる事柄でもない。
それにあちらとの成分にそこまでの差異があったら今頃俺はこうして生存しているとは思えない。
こちらに「魔気」が無いのは感覚的に理解しているから、それを世界規模で感知できれば変化にも気付けるだろう。
まぁ、干渉されてこちらに魔気が発生するかは不明確だが。
色々と試行錯誤するしかないかな。
観測の開始から3ヶ月が経過した。
結論から言って、異世界からの干渉を確認できた。
魔気の発生を確定できたのだ。
これにはココとは別な研究所の発明が大いに役立った。
その研究所、「大宇宙観測研究所」が開発したのは元々はニュートリノやダークマター(以下NTとDMと表記する)という現在未確認の物質を証明するために開発された物だったらしい。
過去には大量の水を用いてチェレンコフ光を観測する方法が取られていたらしいが、現在はタキオン粒子とメビウス粒子を用いてNTやDMを擬似的に発生させてこれを研究する・・・という手法になっている。
こいつが偶然にも、新たな物質を捉えたのだ。
この物質に特定の力場や、周波数をぶつけることで魔法のような効果を見せたようだ。
この報告資料を読んだときは驚いたね。
なにせ本当に魔気が発生していたのだから。
そこからは早かった・・・単純に観測できたデータを元に、魔気の発生分布を世界規模で調査すればいい。
結果は、チリの遥か西の大海を中心に渦を形成するように分布しており、渦の中心では呼吸が苦しくなるほどに強烈な圧迫感を感じたとの事だ。
そして更なる実地調査と資料の精査によりそこが何であるのか判明した。
そこはかつて伝説の大陸があったと言われていた場所であり、少ない資料からその大陸の首都があったとされる地点。
そこは王制であった1つの国。
王の名は「ラ・ムー」
大陸は今日ではムー大陸と呼ばれる一夜にして滅び、海に没したトコロ。
・・・間違いない。
そこが異世界への入り口だ。