自己紹介ととある組織について
まずは軽い自己紹介をしようか。
俺はアイルという。
向うじゃ小さい村の農家に産まれ、15才まで大過なく過ごしてきた。
こっちに来て初めて知ったけどテンプレって奴みたいに突如現れた魔王を倒す為に~とか勇者が現れてその仲間に~とか・・・。
そんなのは一切無かった!
君らの夢を壊すようで申し訳ないがそんなホイホイあって良い事じゃないしな。
魔王ってのは確かに存在したけど人類を敵として認定してたのは遠い過去の話で。
現在ではソレは単なる役職名みたいな扱いになってる。
魔王おうさまみたいな感じ。
だから俺は極めて平凡な農夫になるはずだったんだ・・・。
結婚して、子供作って、夫婦二人三脚で畑を耕して・・・。
アイラ・・・元気かなあ・・・。
俺が消えて泣いてくれてるのかなぁ? グスッ
兎にも角にも!
そんな俺の生活は一変した。
信じられるか?
気が付いたら真っ白な石造りみたいな部屋で数人の怪しげなカッコの連中に囲まれてたんだぜ・・・。
後から聞いたらあそこは「国立生命科学研究所」ってトコロで、解剖実験とやらの直前に閃光と一緒に俺が現れたらしい。
あー、ついでだから近況報告もしちゃうか。
俺は現在、紆余曲折を経てこの国立生命科学研究所で世界と世界を繋ぐ研究を、主に過去の文献やらオカルティックな手段を用いて行っている。
・・・それと体組織の提供な。
それから、コイツは物語とは言えないかも知れない。
こんな話を物語にしたところで信憑性に欠けるだろうし、俺だって頭おかしいなんて思われたくはないしね。
だから精々が未来の誰かへ向けた報告書・・・。
そんなもんだと思っておいてくれ。
しかし、この研究所っていうかこの国は本気でこんな研究をしていやがるのか??
生命なんてのは神が創り出した『神の子供』だろうに、自分たちの力でそれを定義しようだなんて…。
・・・でもこの世界の神様はこんな研究をしてるってのに神罰を下すこともなく放置してるのか・・・?
そうでなければ、こんなのがここまで栄える理由が無いと思うんだが。
・・・あぁ、頭痛くなってきた。
一農夫に過ぎない俺がこんな小難しい事を考えたって仕方がないか。
現状、こいつらが居るおかげで俺は生存を許されてるようなモンだしな。
ここで保護されてなければ、今頃は・・・。
寒気がしてきたな。
恐ろしい想像なんてするもんじゃないか。
それに、神罰があるとしたら救ってもらった恩は返さないといけない。
救われた立場の俺が恩赦を祈れば多少の軽減はして頂けるはずだ・・・多分。
ま、今はここに馴染むのが優先する事にしておこう。
それと、この世界で生きる為にちょっとした決まり事を作ってみたのだ。
もちろんこれは、自分の中だけの決まり事だ。
その決まり事とは以下の通り。
1つ 大前提として、死なない。
どうにか生き長らえて元居た世界へ帰る。
2つ こちらの世界の科学というものをなるべく覚える。
3つ ここの人間以外に異世界人だと露見しないよう注意する。
考えてみれば何れも当り前な事柄のみだろう。
前述した通り、俺はあちらでは平々凡々とした農夫だったのだ。
惚れてた女も居るし何より平和とは言え、異世界で死ぬとか冗談じゃない。
それに科学を覚えていれば、帰ってからの生活もかなり改善できる。
問題は俺のアタマじゃ多くの物が理解できない原理で動いていたりするもんだから再現が不可能に近いって事だな。
・・・何だよあのコンバインとかいうのは・・・俺の知ってる稲作と大分違うよ・・・。
3つ目は当然ながらバレたらヤバイ。
ここの連中も大概おかしいが外の科学者ってのは桁が違う。
新たな発見の可能性があるなら人間一人位の犠牲は止むを得ないとか言ってたし。
むしろ光栄に思えとか言い出しそうだったな。
それに比べればここの奴らは割かし大人しい。
髪をむしって行ったり、血液検査を結構頻繁にしたり微量とは言え毒薬を使ったり・・・。
・・・アレ・・・あんまり変わらんな・・・。
まぁそうは言ってもどうやったのか、俺の立場を研究員として匿ってくれてるし、こちらの世界の文字の読み書きや常識なんかも教えてくれたし・・・。
少なくとも俺に研究素材として価値がある限りは安心出来るだろうし、その価値は早々無くなりはしないはずだ。
こちらも問題はその価値が無くなる前に元の世界へ戻れるか分からないって事か。
そこは協力者も居るし何とかしたいところだ。
・・・協力者って言っても大分頼りにならなかったり、マッドな女だったりするけどな。