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魔物(3)
がさ…
背後で音がした。
さすがに気配を感じ自転車を漕ぐのをやめる恵怜奈。
「誰?…誰かいるの?」
恵怜奈の問いにはだれも答えない。
ただ沈黙の闇が無言の返事を
恵怜奈に返すだけ。
「気のせいか…」
自分を勇気づけるように独り言を言った恵怜奈は
自転車のペダルに足を掛けた。
その瞬間。
背後から聞こえてくる歌。
正確には歌の様なものが聞こえてきた。
アジアンテイストのどこか物悲しいその旋律は
恵怜奈の心から気力を奪い取るのに十分な破壊力。
膝を震わせてあたりを見回す恵怜奈。
でも誰もいない。
不思議な歌声がだんだんと恵怜奈に近づいてくる。
女性の歌声のように聞こえるが男性のようでもある。
1人で歌っているのか合唱なのかもわからない。
今までだれも聞いたことのないような歌声。
その時頼りなく恵怜奈を照らしていた携帯の画面がふっと消える。
危険。
闇のカオスに包み込まれた恵怜奈は
この時確実に自分が危機であることを確信した。