第九話
『彼女』はどこかにいるのだろうか。
「わかってますよ」
自然とそんな事を呟いてビルの階段を下りていくと、ちょうど炎が車にぶち当たった、その黒煙に視界が狭くなる。
「で、出たぁ!!」
慣れた自分に対する悲鳴が聞こえ、ちょうど自分がいるところは先ほどの西方術者が整列した場所だった。
「あ、慌てないで、打つのです!!」
慌てて指揮を執る人物はゼジだったのを確認したと同時に、
「放つのです!!」
彼の指揮による西方術が束なって飛んでくる。
「ああ~」
この悲鳴は自分に対してではないモノだと感じ取れた。
単純な砲撃、それ故に避ける事は簡単だったが、アスファルトに焼け付く臭いが鼻を強く刺激する。
それが災害時に上がる不安な悲鳴と似ていたからだ
「急いでくれ、これ以上、町に被害を及ぼす訳にはいかん」
「わかってます、ですが、少し遠いですね」
威力を重視したのか、弾幕ではなく、砲撃という手段をとっているので、もう一度、飛散した氷の塊が自分の足を止める。
一旦、どこかに隠れようとして、緊急停車していた車を見つけたので隠れようと駆け寄ったが、先に隠れていたのはモブだった。
「っ!!」
自分の姿を見つけ身構えもするが、それ以上に戦闘する気もない。ただ怖がるだけとなったモブにこう言った。
「貸しなさい…」
「……」
しばらくモブは黙ったままだったが、武器を手渡してくれたので、砲撃する治安部の足元を狙って放り投げると驚いて、それがどこかのタイミングで西方術を放とうとした、同士討ちになった。
その隙にモブに言う。
「あの路地を真っ直ぐ、走れば逃げれます」
「……」
「走って!!」
濁った声でも何とか冷静になったのか、そのモブは慌てて走り去る。
それを何人かの視界に入ったのが。
「攻撃の手を緩めては!!」
ゼジの注意どおり、自分の攻勢に出る番を示す。
黒衣の帯と、両手の平に形成した闇の玉を放ち、先ほど制服に火の付いた生徒の消火する。
「ふっ、こんな時にも火の付いた生徒の消火も忘れんとはな?」
「冷静に分析してくれるのはありがたいのですが、恐怖も与えるのには十分ですよ」
自分の言うように、これは『攻撃』しているようにしか見えてない。
「すまん、だが、おかげで砲撃は止まった」
「一人で、こ、こんな魔力量…」
ゼジは、戸惑っていた…。
「ひいぃ!!」
だが自分にとっての攻勢は、次の瞬間、先ほど示した路地から悲鳴でかき消された。
見るとそこには先ほどのモブが、アズに倒されていた。
「よっしゃ、大物だあ!!」
自分にニヤついたアズは、勢い良く飛び掛り刀を振り下ろすが…。
左腕で受け止められた刀は、
「私に東方術は、効きませんよ!!」
そこで止まっていた。
すかさず打撃を加え、闇で刀を握り締めさせ、
「おい、おいおいおいおい…。
やめろ、やめろ…」
関節を極めたアズの身体を振り回していると、さすがの西方術者も砲撃をやめる。
「……っ!?」
ゼジを見た。
腰に力を入れ、アズを放り投げて、彼を倒せばこの状況は終わる思った。
「ううう…!!」
「アラバ、まずい…」
その時だった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「オルナが来る!!」
その怒声は、遠くからでも聞こえ、
「お前は、お前は!!」
想像をはるかに上回ったスピードで迫る、ビキニ姿の彼女が目に入った途端、攻撃を許してしまった。
すかさず硬直を始め、防御本能で守りを固めるしかなかったのだが、
脳裏に『攻撃力は自分より上です』と言った自分の言葉が思い出された。
「うそ…」
闇の法衣とて万能ではないというのは、自分でも知っていた。
全身に回る付加能力や、付加能力が『何でも斬る』という能力の前には法衣の硬度など通用しない。
こういう事は初めてではないが…。
闇の法衣はめり込みを見せ、防御本能で守っていた自分の身体に痛みを伝えただけじゃない。
「身体が、浮く…」
レフィーユの言うように、足が後ろにつんのめり、そこから先に身体が宙に浮かびあがったのは初めてだった。
ギリギリ冷静でいられたのは、法衣を過信して無かった事が幸いした。
宙に浮いた自分の顔面への一撃に魔力を全開にして、何とか守りを固め。
「やったか!?」
自分の身体が地面にゴロゴロと転がるのを見た、アズは笑顔で駆け寄る。
「さすがオルナだ、大した事なかったな?」
「まだだ」
「は?」
「大した事ないんだろ?」
クルリと立ち上がった自分を睨みつけていた。
「随分と手荒なマネをしますね」
「嘘だろ、あんなコケ方して、平気なのかよ?」
「生憎と身体は頑丈な方なんですよ。
ですが、町の被害も考えないで、よくも治安維持だと言ってられますね?」
正直に言って、冷静さを取り戻す時間稼ぎを知って知らずかオルナは怒りを表にして睨みつけていた。
「噂どおり、減らず口だな。
でもな、ようやく会えた。
私はお前を探していた!!」
殺気の正体はわかっていたが、白々しく言う。
「私は貴女の事を知らないのですがね…」
膨れ上がる殺気で息苦しくなるが、
「私の名前はオルナ。
旧姓、オルナ・パート。
ジーナの姉だ」
「ジーナ…?」
ちょうどレフィーユが、近くにやって来た時だった。
「ふざけるな!!」
彼女の怒りは頂点に達していた。
「お前は、あのビルから出てきて知らないって言うのか!!
ジーナを突き落とした、あの場所から!!」
それにはさすがにレフィーユがじっと自分を見ていた。
「私は…、そんな事はやってませんよ…?」
無理だろうと思われた返答をして見た。
「覚えてないだろうな。
お前にとっては、物の数に過ぎないだろうから…。
でもな…」
当然の反応が返ってくる。
そして、オルナは体勢を低くする。
その様子はロボットアニメのバーニアエンジンがブルブルと震えるような印象があった。
「私にとってはな…。
妹だったんだ!!」
自分の懐に潜り込んで、顔面を狙うまで一切の無駄がなかった。
それだけ訓練の精度が伺えた。
相手を倒すのではない、一気に距離を詰めてからの攻撃は、まさに相手を殺す手段に相応しく。
一度、前にレフィーユがやったように放り投げるが、彼女は感情のままに立ち上がって放つ攻撃は。
「人の振るうの拳の音じゃありませんね」
「ぬかせ!!
今から二年前、ジーナが死んだ。
当時、警察は黒ずくめの男がそこにいたという証言だけで何の進展も得られないままだった!!」
怒りが戦術を幅を狭めたおかげで、簡単に間合いがつかめる。
そのせいでオルナは何度も地面に転がらせられ彼女は埃にまみれていた。
「くそお!!」
だが、彼女は攻撃の手を緩めてくれない。
「数日後、意気揚々と現れて、犯罪を重ね!!
今じゃ、みんな、お前がやったと思っている!!」
次の瞬間、オルナは確実に攻撃を与えようと考え、自分は距離を見据えて戦おうと考えて。
ジャブを避けたオルナのフックを身体をそらせて反撃、その反撃は前に屈んだ空を切るが、彼女の攻撃も当たらない。
純粋なボクシングの技術同士のぶつかり合いになった。
「何だあれ…」
自分のアッパーカットを避けて、距離を取った両者が独特のステップを踏むのは舞踊を思わせ。
誰かが感嘆の声が上がていた。
だが、次のストレートを彼女が避けた瞬間。
オルナは頭を抱えていた。
「何を…した…?」
その一撃は、当ててはいなかった。
「ぐ…うう…!?」
ただ至近距離の彼女は何回も瞬きをする、自分でもオルナの異変に気がついた。
「オルナさん…?」
「くそ…くそお!!」
オルナの拒絶に、自分が思わず視線を送る先、それは…。
「……」
彼女の妹が命を絶つ前に居た場所だった。
それをレフィーユは黙って見ていた。




