第六十話
「ぴぎぃぇぇ!!」
だが室内は、何とも情けない悲鳴が響き渡り。その場は唖然とさせていた。
アラバがゼジに見舞ったのは、アッパーではなく。
「げ、げんこつ…?」
ガトウが驚くように、げんこつだった。
アラバは右手を抱えて蹲って言う。
「硬い頭ですね…。
手が折れて、しまったじゃないですか…」
普段、見せる笑顔で、真っ青な右手を見せた。
「お前、それ…っ!!」
誰もが今、折れたのではない事がわからないほど、経験不足ではなく、言葉を失い。
先にゼジを取り押さえられ、レフィーユがアラバの背中に手を当てる。
「お前はジーナから、学んだ事がある。
だが、そこにはオルナもいた。
お前は、あの女から戦い方を学んでいたようだな?」
ワザと白々しい言い方が、彼の身体が震わせる。
「この時、のため…でしたのにね…」
「よく、踏みとどまったな…」
アラバは息を荒く、首を振った。
「そんなに立派な事じゃないですよ」
「だが、これがお前の選んだ復讐だ」
歯を食い縛るにしても、涙は無く。
「良かったじゃないか、こんな復讐で…」
レフィーユは優しく、アラバの動きを止めていた。
「彼女が好きだったんだろう。
お前は彼女の教えを優先した。
今のお前は、みんなが止めると思うよ。
お前はそれほどの人間になった」
イワトがガトウがアラバを見て、レフィーユが頷いたのはジーナも含めて。
「そう、みんなが止める。
ムカイでも…」
彼女は呟いて声で色んな名前を挙げた。全部、彼が関わった人の名前だった。
「私はお前が、『その手』を振り払える人間だとは思ってはいないよ」
誰もがこれ以上、アラバが動く事はないだろう。
そう思った時。
「は…はははっ」
ゼジが大笑いをしていた。
「レフィーユさん、これでおしまいですね!!
やはり素人を、こんなトコロに置いてはいけなかったのです」
「なんだと?」
「治安部の規則をお忘れです?
捜査に関わるものは、容疑者はどんな立場であろうと手を上げてはならない。
彼は手を上げましたよね。
げんこつとはそんな無骨なモノで殴られるとは思いませんでしたが、殴りましたよね!?」
高らかに笑っていたゼジに、イワトが食って掛かる。
「お前、アイツじゃなくてもな、ワシが!!」
「ぶん殴ってやるとでも、結果として変わりませんよ?」
再度、騒然とし始め。
ゼジは笑顔を取り戻す。
「証拠に、それをよほど理解している人が、いるではないですか?」
彼女に嫌味たらしい視線を送っていると、
「……」
レフィーユは、静かに言った。
「彼が一体、何をしたというのだ?」
周囲もそれに気付いたのか、『きょとん』としていた
「なあ、ガトウ、あれは一体、何を言っているのだ?」
「あ、ああ~」
何かしら勘付いたガトウは、頷いて言った。
「さあ、わからないな。
何にも~、してなかったと思うのですがね?」
それに仰天したのはゼジだった。
「は、はあ!?
何を言っているのです、今見たじゃないですか?」
ゼジは同意を求め、周りに『ね、ね?』と言い始める。
そんなゼジを睨み怯ませ、レフィーユは言った。
「ふっ、そういえば、私とムカイが襲われたとき、私は敵全員の右腕に、キズを付ける事しか出来なかったが…」
彼女はムカイが、その時の戦闘動作を思い浮かべながら言った。
「その仲間は元気か?
今でも元気に学園に来ているのか?」
それを聞いたゼジは、真っ青になった。
「な、何を…?」
「言ったはずだ、言うほど逃げ場は無いとな。
お前からは、何も聞き出せはしないだろう。
だが、他の人間はどうだろうな?」
「う、うあああ…」
ゼジは頭を抱えようにも、もう両手を取り押さえられているので、無様なうめき声しか聞こえなかった。
「行こうか…」
彼女も、静かにそう告げて、取調室を後にした。
アラバだけを残して。




