第六話
「彼女は、ご察しのとおり、その魔法使い憎んでいるのです」
「妹を亡くしたのだからな、当然か…」
「他にも…あるのです…」
フォード学園、治安部、リーダーのゼジは言いにくそうにレフィーユに、この報告するのは役目なのだろう。
「私たちは、パートナーと常に二人一組で行動するように心がけてます。
ですが、少し前、オルナさんのパートナーである方がモブ達の鎮圧する際…。
申し上げにくいのですが、お亡くなりになりまして…」
「取り繕わなくていい、こういう事をやっていると避けられないモノだってある。
だが、それで私の魔法使いに対する態度に、疑問に思っていた事に拍車が掛かったというのも、わからんでもないな…」
正直、ここから下校までの経緯はあまり覚えてない。
そして、そんな自分の意識を呼び覚ますのは、またオルナだった。
今度は自分に気付かず走って帰る姿を、レフィーユも見ていた。
「ふっ、非番なのだろうな、彼女は鍛錬の意味を込めて、この先にある市内をまたぎ、走りながら登下校をしているらしい」
向かう先は旅館、その夕焼け照らされて歩くのは通学路と変わりなく、そして、頃合いを見計らって聞いて来た。
「ジーナという名前に聞き覚えは?」
「ありますよ…」
そっけなく、それだけしか答えるしかなかった自分にレフィーユは言う。
「お前は『知らない』と言っていただろう?」
「名前が違ってましたからね…。
まさか…あの人がジーナさんのお姉さんだとは、知らなかったのですよ」
「辛そうだから、単刀直入に言わせてもらおう。
殺したとあるが、事実はどうなんだ?」
からかいのない問いかけに、信頼も伝わって来る。
人として、正直に答えなければならないのだろうが。
「事実は殺してません」
「妙な言い回しをするモノだな?」
さすがに彼女らしく、あっけなく看破されてしまう。
だが、これ以上は何も聞こうとしないのは、それだけ自分が辛そうにしていたからだ。
この思い出が自分の今があると言っても過言ではなかった。
甘く…
美しく…
そのために味わった…恐怖…絶望…
「私はこの一言で物事を解決してはならない事を知ってますから…」
「詳しくは話してはくれないのか?」
喜怒哀楽ではなく、甘美恐絶が一同に襲い掛かるのだから、
「すいません、こういう事がいけないのはわかっているのですがね…」
口も重くなる。
「ふっ、構わんさ」
だが意外にも彼女は笑顔だった。
「随分と余裕ですね?」
「いつかお前の前に復讐心を抱える者が、やって来ると思っていたからな。
だが、お前の様子を見てわかった、初めてじゃなかったはずだ。
そして、私にも罪の一端があるだろう。
それでもお前は、そんな態度も見せずに…。
今までどうしていたのかと、思えば笑いたくもなるだろう?」
「でも、こういうの事が起きる度に、人は見かけだけで、強いか弱いかを判断してはいけない事を思い知らされてますからね」
確かに彼女の言うとおり、初めてじゃなかった。
だが、事実がどうであれ、恨みを抱いて生きてきた人間が全員、強いワケじゃない。
『駄目だよ、人はね、凄く脆いから、強さを誇示するように出来てるの』
途中で、軽く目眩がして。
「…『だから、何も出来てないというのも正解』なんでしょうね」
途中『彼女』と自分の言葉と被り…。
「ふっ、それで良いのかも知れんな…。
私もお前への真実を知った時、誰も信じれなくなったのを覚えている。
幸い私は、事件を通して強く、いや、処理が出来るようになっていたのだろう。
これは、誰にでも出来る事ではない」
現実に戻されて、夕焼けに照らされながらのレフィーユは髪を掻き揚げて言った。
「だったら、お前は今回は休んで見るというのはどうだ?」
「休んでみる?」
「今回は私達、治安部に全部任せて見たらどうだと言っているのさ」
だが、気が軽くなっていた。
「大体、お前は見返りもないのに、働きすぎなんだ。
どうしてこんな交流会があるのか考えてほしいものだな?」
「この交流会の意味、交流を通して、自分の人格形成の役に…」
「それは上辺だけだ。
それならば、どうして、こっちの警察も私たちの地区と合同にならないといけないと思っている。
これは本当は警察組織の休暇を、取得するための手段の一つでもあるのだぞ」
「だから、私も休めと…」
「そうだ、ここは一つ、レフィーユ・アルマフィの能力くらい信じてみたらどうだ?」
整った顔の笑顔で、自分を見つめる彼女に、自分の抱えている問題が小さいのかと思えるような気もした。
だが…。
「無理でしょうねえ…」
「…今、何か見えざる力が見えたような気がしたな」
そんな雑談してしまうが、これが現実のモノとなるのには時間は掛からなかった。