五十八話
「持ってきたぞ」
そして、ガトウが携帯電話を持ってきた。
「どうして、こんなにある?」
大量に。
「実際の話、それらしき携帯は見つからんかった。
だから、落し物から、証拠保管室にいたるまでの全部を持ってきた」
「だから、言ったのです。
こんな事をしても、無駄ですと…」
ゼジは笑顔だったが、アラバは証拠保管してある、携帯を拾い上げて見せた。
「ですが人は、いきなり携帯を変える事は出来ませんよ。
だから、私は貴方の携帯を見た時に、違和感を感じたのですよ」
「まるでどこかの名探偵です。
では、名探偵くん、それで何がわかるのです?」
ゼジはアラバが、その電源を入れる様を笑顔で見ていた。
そして、通話履歴などを見ると、
『履歴はありません』
と表示されていた。
そのまま、登録されている番号などに電話を掛けるが…。
「どうだ、アラバ?」
アラバは首を振るのを見て、さらにゼジは笑う。
「良いですか、犯罪者と言うのは、痕跡を残さないようにするのは定石です。
私が犯人だとするのなら、そんな痕跡を残すと思いますか?」
「ですが、貴方はそんな暇すらない内に逮捕されました」
「私の携帯はこれなんですよ」
ゼジの指摘に、周囲も『無駄か』と思いもした。
それだけの数の机に広げられた携帯電話がそこにあった。
レフィーユは、静かに見守っていると、
「……」
アラバは、他の携帯に電源を入れ始めた。
「…何をしてるのです?」
先に広げられたのが、証拠品だったので、そのビニールの上から電源を入れる。
その中には、当然、電池の切れた携帯もあり。
アラバはそれをどけていると、イワトだけじゃなく、レフィーユも目を細めて見ていた。
そんな中で、
「何をしているのと、聞いているのです!?」
もっとも動揺したのはゼジだった。
「みなさん、彼は治安部じゃないのでしょう、こんな事を許して良いと思っているのです?」
ゼジは焦り、アラバは冷静に言う。
「ようやく感情を表しましたね?」
「規則を守るためです、当然です」
アラバはじっとゼジを見つめて言う。
「レフィーユさん、この携帯に合う充電器を用意してください」
また、ゼジの笑顔が消えた。
今度は、はっきりと、それを見たレフィーユは、
「何故、それを用意する必要がある?」
聞きながら用意を急がせた。
「ゼジさんが今までオルナさんを監視していたのなら、手段は限られてきます。
そして、貴女のおかげで、工作する暇すらなく連行されました。
ここで携帯が違うという、自分の証言が食い違っているのなら、調べてみる価値はあると思いませんか?」
「ですから、それは治安部の仕事です。
治安部で無い方が、でしゃばっては…」
笑顔が戻ろうとしていたその時、
「そう言っておけば、私も、でしゃばる事をやめると思いますか?」
「何を言ってるのです?」
「ゼジさん、最初の内は、彼女に協力した人が何人いたのですか?」
アラバが自分を睨んでいる事に気付き。
「さ、さあ、数人はいたと思います。
ですが、彼女の治安維持態度から、その人達は離れて行きました。
私としても、でしゃばってもらっては、困る…ので…」
ゼジは『しまった』と言う、表情を見せ、アラバを伺う。
「私とて『最初の内』と言ったでしょう?
貴方はそう言って、オルナさんから、味方を奪った」
「貴方は治安部じゃないでしょう」
「今は!!」
アラバの一言が、叫んだように聞こえ、ゼジは驚く。
「今の私は、オルナさんの味方です」
アラバは携帯を操作しながら、他の携帯には電源を入れる。
「私は、ジーナさんに生きる意味を教えてもらいました」
そして、その動作をし続けている。
「貴方は、そんな尊敬出来る人の命を奪った」
アラバに誰もが、掛ける言葉を失い。
「これくらいの事くらいは、させてもらいますよ」
ブブブ…。
一つの携帯が、バイブした。
「これは…」
レフィーユは、アラバを見る。
だが、アラバは構う事無く、手にした携帯の番号をダイヤルする。
今度は時間が掛かることは無く。
「♪~」
今まで電源を入れた携帯が鳴るので、レフィーユはガトウ達に命令する。
「お前たち、何をしている。
アラバを手伝え!!」
慌てながら、他の携帯に全部、電源が入り。
「およそ六つ、携帯がなりましたね。
レフィーユさん、この他の携帯は、何の携帯とされてますか?」
「…ここらで犯罪を起こすモブが持っていた携帯だ」
アラバは手にした携帯を、レフィーユに見せて言った。
「この携帯は、ここで見つかり。
それが多数の証拠品の携帯につながりました」
「それは、この携帯から指示を出して動いたモブ達もいると見て良いだろうな」
「ゼジさん、貴方はオルナさんを監視するために、モブも使っていたようですね?」
「言いがかりです!!
それは私の携帯じゃない!!」
「ゼジ、その言い逃れは見苦しいぞ?」
レフィーユは、ゼジに言う。
「良いか、携帯とはな。
いくら履歴を消そうが、発信履歴はどうしても残るように出来てる。
それで発信された、時間帯がわかる事だ。
そして、治安部の車両で、お前は携帯を弄った。
何が起きたかは、知らんが…」
彼女の黙る中に、快楽区の暴動が思い出された。
「治安部の車両は、携帯の発信する電波くらいは、感知するし、記録にも残るのだぞ?」
ゼジは、言い返そうと立ち上がる。
「ふっ、そんな事は出来ないと言いたそうだな?
だが、同じ量の同じ周波数の電波が発信されて、感知されてみろ。
もう、疑いようはないぞ?」
ゼジは、拳を握り締め。
「…!!」
見る見る顔が真っ赤になった。
「んんん!!」
まるで、子供のような憤慨と、突進を見せ。
「動くなぁ!!」
アラバを羽交い絞めにした。




