第五十五話
そして、アラバとオルナは病院に搬送された。
それはレフィーユの連絡によるものだった。
しかし、他の治安部員が、二人から情報を聞き出すのは、不可能だった。
気絶に近い、眠りと。
傷付いた二人。
その中でもアラバは包帯が巻かれており、特に右手のギブスがとても痛々しく、詳しく聞くのは回復次第と思いもしたが。
「しかし、どんなに傷付こうが普通に時間通りに起きれてしまえるのは、何たる日常体質ですか」
その朝、アラバはいつも通りに起きる。
別室で寝ていた、オルナも同じだった。
だが、彼女の近くには。
「ふん、ようやく目が覚めたみたいね?」
セルフィが、そばにいた。
「お前は?」
「貴女は私がいない間に、色々あったそうじゃない。
私が貴女を心配して来るのは当然でしょう?」
「自分の学園生活もあるだろうに…」
オルナは起き上がろうと、身体に力を入れた。
本来なら、ここで立ち上がり普段の日常に戻れていた。
だが、普段の日常に戻ろうとするという事は…。
彼女は『現実』を受け止めなければならないのと一緒で。
自分の復讐は意味がない事と、仲間に騙されたという事は、
立ち上がる事が出来なかった。
『今まで、立ち上がって来れただろう』
と、
オルナは自分で思い言い聞かせる。
多少の怪我で身体が軋もうと、
「くぅ」
頭痛が襲おうとも、
「まだ、無理はしない方がいいわ」
そんな静止であろうと、今までの彼女は立ち上がっていたのだ。
それが彼女の日常体質だった。
「……」
だが、そんな気が全然、起きなかった。
「姉さんから、事情は聞いたわ…」
徐々に力が抜けていた。
セルフィの話す内容も、今のオルナの耳には右から左だった。
聞き取れていたのは、アラバの、
「あの時、魔法使いと出会った際、当初、疑っていたオルナの事を調べてほしいと願い出ていたらしいわ。
当初は、私の指摘したあの人の無害さと、貴女の敵意に何となくではあるけど、了承はしたのね」
あの男の何とも滑稽な一人芝居。
「…でも、魔法使いも調べていく過程で、あの人のもう一つの狙いにも気付いたの。
もしかして、自分も疑われているのではないのかと…」
真実を知るオルナにとっては、とんでもない内容だった。
オルナは呆れながらだが、声を曇らせて言う。
「魔法使いは自分を利用した者を許さない…」
「それは、あの人も例外に漏れなかったみたいね。
あの素手による殴打は、魔法使いの仕業と見て、間違いないでしょう」
「……」
『違う』と言ってやりたかった。
「…まったく、あの人も良く考えて、人にモノを頼みなさいってのよね。
そこで先に駆け付けた貴女が駆け付けてなければ、どうなったのか…」
だが、ここにはレフィーユもアラバもいなかった。
自分は判断を委ねられたのが、嫌でもわかった。
「私に、どうしろと言うのだ」
それが悔しく、声に出てしまい。
「ゼジは、姉さんが確保したわ…。
全てが明らかになるのは時間の問題よ」
はっきり言えば、これはセルフィの取り繕いだと聞いて取れた。
「どうやって?」
見抜かれているのか、ともかくオルナは強めに言った。
「二年だ。
二年はな。
私は、あの事件を、忘れた事は無い。
でもな、普通は忘れていくのが、普通なんだ。
犯人であれ、容疑者であればな」
「でも、相手は重要容疑者よ。
普通は逆でしょう?」
「だからだ、犯人は自分の罪を逃れようとする。
私も、別の犯罪を通して、それを何回も見て来た。
だからこそ、この手で…」
オルナは手を挙げ、その手を握り締め、目を閉じ。
自身の東方術『カイザーナックル』を作り上げて。
「殺してやるつもりだった…」
消す。
セルフィも何となく、オルナの気性を理解していたのだろう。
この解答は予測していたのらしく、少し間をおいて聞き流すように聞いていた。
「もう、その気はない?」
「事実は仲間が握っていた。
今度は私は仲間を、疑わなければならない…」
オルナにしてみれば、忘れていた感覚だった。
妹を亡くした時の感覚。
それがとても悔しく。
「もう身体に力が入らない」
それにセルフィは掛ける言葉を失い。
彼女が再び、声を掛けたのはしばらくしてからだった。
「実は、私ね。
あの人を魔法使いじゃないのかと思っていたのよ」
それをオルナは聞いていた。
「そうか…」
「意外とあの人ってさ、昔から魔法使いと接点があってね」
「だから、あんな茶番を?」
「ふん、うるさいわね。
でも、あんな茶番でも、魔法使いは実際出会えてしまえたから良いじゃない。
さらに貴女は魔法使いに襲われている、あの人を見た、そうでしょう?」
オルナは目を瞑る。
そして、改めて自分の解答に、彼の運命が握られていたのが、身にしみてわかった。
「そうだな…」
セルフィに対する、罪悪感はある。
だが…。
コレが自分の妹のジーナの示した道だった。
「もう一方的な展開だったが、二人だったよ」
自然とジーナの顔が思い浮かばれた。
それは現実にも。
「おい、今、アラバはどこにいる?」
そして、焦りと共に、ジーナの姿が、一瞬、映った。
「どうしたのよ?」
今度こそ、身体が動いた。
「アラバは、どこにいるんだ?」
不安が、彼女の身体を動かす。
「駄目よ、動かないで、あの人は貴女とは別の病室にいるわ」
「ばかな…」
今さらになって、オルナは、アラバの狙いがわかった。
立ち上がって、ふらつき、セルフィに支えられた。
「頼む、アイツを止めてくれ…」
アラバにしても、あの時、ジーナを追い込んだ犯人がゼジだと初めて知ったのだ。
アラバの場合、仲間でもないのだ。
単純に犯人が誰かが、変わっただけというのが、オルナの血の気を引かせた。
「一体、どうしたというのよ?」
「アイツも、被害者なんだ!!」
オルナがそう叫び、セルフィを出て行かせる。
アラバの病室には、誰もいなかった。




