第五十四話
「……」
アラバはうつ伏せた彼女を見て空を見上げる。
それは勝者と敗者、
どこにでもある姿。
だが、勝者はその勝利の味に酔う事無く、敗者をとても哀しそうに見る。
そして、その顔はすぐに隠れたので、私は、そこで日が傾いていた事に気が付いていると。
彼はゆっくりとシャドーを始めた。
他から見れば、普通のシャドー…。
架空の敵を打ち倒そうとする動作、武器を使用する現在においても行われてる鍛錬法だが、その動作は『習わなければ動けない動作』を見せる。
その動きがだんだんと素早くなり、先の戦いの一部を再現して、私も勘付いた。
物語には始まりがある。
「ジーナは、お前の生き方を与えてくれたのなら、オルナは、お前に戦い方を与えたのだな」
アラバの最後の二打は、当たってない。
オルナは避け。
その動作が『封印』を裂くとは思いもよらず、地面に転がり倒れたそうになるが。
彼女は、
「うう…」
呻き、
「うううううあああああああ!!」
歯を食い縛り、それでも魔法使いに殴りかかるろうとする様は、あまりにも痛々しく。
一撃、
二撃はコンビネーション、
三撃目は避けられ、アラバは反撃を見せる。
それは法衣を波打たせ、整えた動作に見えた。
同じスタンスで戦わない彼に、オルナは驚くまま法衣に巻き付かれてしまう。
その法衣は攻撃でもある。
だが、それは哀れみ同情。
一撃、さらに亀裂が走り。
二撃は事実を突きつけられ、
三撃目は攻撃ですらなってなかった。
そのアラバの攻撃は、ゆっくりオルナを地面に倒したという表現が正しく、彼は哀しそうに答えた。
「その頭痛も、貴女を犯人だと思えた要因でもありました。
私はこの数日間、貴女を通して、ジーナさんを見ていた気がします」
そして、アラバは明後日の方向を見ていた。
「貴女だけが、その症状を見せていたワケじゃなかったのですよ」
「ジーナ…も?
そんなの、私は知らない!!」
隠しきれない動揺と、様々な気持ちで一杯になっていたオルナは懸命に叫び、平静を保つしかなかった。
「『言わないで、大丈夫だから』とね。
私はジーナさんに口止めをされてましたからね。
懸命に言うのが印象的でした」
「だったら、どうして!?」
「言えませんよ。
私は、あの時の環境を壊したくなかった。
ジーナさんに会える事が嬉しくて、貴女に戦い方を教わる時間が何もかも忘れられた。
私にとって、何もしない時間が怖くて、時間消費のために、ここまで走って来れたのは…。
私の生きている時間だった」
苦しげに、その人は言い放つ。
無理も無い弱さだった。
二年前、突然、アラバは両親を失った。
それは事件であれ、事故であれ、運命であれ。
次の彼の突きつけられたのは、自分の西方術が何であるか気付かされてしまうのだ。
彼の取り巻く環境が生んだ、弱さなのだ。
彼の苦悩は、私の想像を絶しているのだろう。
「ですが、私は貴女にどこか期待していた。
あの画像の存在は、貴女にとっても私にとっても、唯一、手がかりでした。
だからこそ、いつか貴女が現れると、ずっと戦っていた」
もはや夕闇に暮れた、その顔はうかがい知れず。
「ですが貴女が来る事は、なかった…」
あまりにも重い言葉に静寂は増す。
「私はずっと待っていた…」
そうしてアラバは、ジーナの幻影を見ているのか。
「ですが、もっと悔やみたいのは、ジーナさん…」
ただ哀しく、それがオルナにとって反撃のチャンスと思われてしまい。
「どうして私たちに、言ってくれなかったのですか?」
それがスタートと、全ての怒りをアラバにぶつけようと飛ぶ。
「今の私は!!」
オルナは誤算する。
「貴方達のおかげで-」
彼はもう同じ戦い方をしてくれないという事、そして、彼の魔力量を誤算していた。
「ココまで戦えるようになりました!!」
空中で捕縛される。
それでも何とか払いきり、オルナは駆け込み接近する。
「そこまで、弱いと思っていたのですか!!」
「言うなぁ!!」
彼女の得意な接近戦は、さらなる誤算を生む。
拳と法衣の帯が連打となって、彼女に襲い掛かって来たのだ。
懸命にガードするが、彼女の無駄の無い腹筋に膝がめり込む。
「私は、貴女達に、ずっと怯えていた。
でも…」
そして、怒って怒って、怒った先に、生まれるのは、
「もっと許せないのは、私自身です」
自責の念。
「あの画像に怯える事無く、貴女を問い詰めれば良かった。
正体を明かしてでも…」
何も出来ない過去に対し、アラバは立ち尽くす。
私は言葉を失う。
「うわああああ!!」
オルナは叫び、アラバは彼女のタックルをまともに受けて倒れた。
そのまま彼女は馬乗りになると、今度はアラバが叫んだ。
「ぐあああああ!!」
オルナの尻肉の崩れは、ただ圧し掛かっているのではなく、彼女の付加能力『体重のコントロール』が作動しているからだ。
いつぞやで私が忠告した、オルナにさせてはならない体勢になっていた。
「っ!!」
苦し紛れに思わず彼は彼女をどかせようと、手を伸ばすのは当然だった。
「いかん!!」
私とアラバの思考が被ったような言葉が出た。
利き腕に向けてオルナは、拳を落とした。
当然、その拳には彼女の付加能力がある。
「!!!!!!!」
さらに叫びが上がり、アラバの右手が折れたとわかった。
そして、間髪無く。
オルナはアラバを顔面を殴った。
アラバは辛うじてだが、防御本能で防いだ。
「……」
だが言葉もなく、攻撃を受ける。
もう一度、
さらに、もう一度。
次の一撃は、胸倉を掴んで、殴りつけ。
彼女の手には東方術は無く。
アラバは攻撃を、ただ浴び続けていた。
「そうだ、お前が臆病だったから、こんな事にならなかった!!」
拳を、ただ…。
「私もこんなに苦しい思いをする事も!!
なかった!!」
を、ただ…。
「でも、お前は生きなきゃ駄目だったんだろう!!」
ただ…。
「ジーナに言われたんだろう!!
頑張れって!!」
を、ただ…。
「お前は!!」
ただ…。
「お前は!!」
拳も…。
「ジーナの約束を守っただけだろうが!!」
涙も、ただ浴び続けていた…。
「悪いのはお前だけじゃなかっただろう!!」
攻撃を浴び続けていた。
アラバはただ自分の落ち度を詫びるように、オルナの拳を受けていた。
「悪いのは、私だろうが!!」
重い叫びは、終わりでもあった。




