第五十三話
会話をしろと言わんばかりに、強めの風が吹いたのでアラバは言う。
「貴女に謝っておきたい事があります。
まず、最初に貴女を疑って掛かっていた事…」
二年前、かつてこの男は大切な人が命を落とす際、その場所を見上げるのは自然な動作だ。
そこでオルナを見つけ、彼女を疑う事も自然だった。
他に見るべきモノがあるだろうという指摘は、無理な話だった。
『大切な人が助かるかも知れない』という現場に立たされた時、人間はどちらを優先するか、言うまでも無い。
二年前の経験が足らなさが生んだ、彼女に対しての当然の疑い。
これは…。
「私のミスです…。
すいませんでした」
アラバは頭を下げる。
それは覚悟をもって、
この間、アラバはオルナに何をされても文句は無い。
それを見た、オルナは、
「もういい…。
これは全部、お前たちの考えたはったりだ!!」
苛立つように叫んだ。
「お前たちは元々、繋がっていた。
今までの事件、名声、評判は、全てお前たちが操っていたんだ。
今回の事もそうだ。
私の事件を、利用して評判を得ようとしているんだろう」
「オルナさん…」
「そうだ、全てを操っていたのなら、あの女の評価も頷ける。
お前たちは、結託して、全て操って…」
「オルナさん…」
「どうした、こっちの方が妥当な推理だろう。
お前たちの出来すぎた推理よりな!!」
「だったら、どうして貴女は一人でやって来たのですか!!」
アラバは叫んで、オルナの嘲笑を消し飛ばした。
彼は冷静さを取り戻そうと息を整えながら言う。
「オルナさん、私を追い込む最大の方法を教えて上げますよ。
フォード学園の治安部でも、白鳳学園の治安部でも、貴女は単純に人を連れて来るだけで、私は簡単に追い込めたのですよ」
「レフィーユがいるのにか?」
「彼女は関係ないありません」
この場にいる、誰もの手に力が入った。
彼女が一人でやって来るのを、ずっとアラバは見ていたのだ。
「…ですが、貴女は一人でやって来た。
あの時、貴女は少なくとも、私の正体を掴んでいました。
そこにゼジさんがいたのでしょう。
貴女が私を疑っていたのなら、やるべき事は一つだったはずでしょう?」
「黙れよ!!」
体重を増した踏み込みから、体重をゼロにしての加速が生み出す凶悪なストレートをオルナは放つ。
アラバは身を屈めて避け、法衣を払ってオルナを怯ませて答えた。
「それでも、貴女は一人でやってきた。
頼ってはならない『何か』が、そこで起きていたからでしょう?」
「ああ、剣を片手に私を出迎えていた。
だがな、それは魔法使いに気をつけていたからだ。
お前が潜んでいるかも知れないから、当然の警戒だ!!」
「だったら言ってあげれば良かったでしょう、私はそれを踏まえて貴女に託していた!!」
「今まで一緒に戦って来た仲間を疑えるか!!」
「ですが、彼は一緒に戦っていたのではなかった」
数打の攻防、魔法使いは法衣を蹴り、断片を飛ばしオルナとの距離をさらに開け、
「う・た・が・え・る・かぁ!!」
追撃の銃弾を殴り飛ばし、オルナがシャツを投げ、魔法使いの視界を塞ごうとした。
放たれた銃弾は一発だけではなく、あっという間にシャツは巻き込まれて行くが、オルナにとって接近する十分だった。
「疑えるか、疑えるか、疑えるかぁ!!」
オルナの独特のリズムで放たれる拳による連打に、アラバは受け止めて『しまい』。
炸裂した。
その右ストレートが、アラバのガードごと吹き飛ばし、彼は転げて立ち上がろうとする。
だが、オルナは追撃することなくオルナは両手を広げて言った。
「見ろ、この姿、わかるか?」
一連の動作でスカートも脱いだのか、彼女はビキニ姿になっていた。
「全て、お前を倒すためだ。
私はお前を倒すため、何もかも捨てた!!
周囲に対する懸念、羞恥、何もかも!!」
拳打、連打に巻き込まれまいと、アラバも反撃する。
「馬鹿にされようと、卑下されようと、全てはお前を倒すため!!」
距離を取るアラバの戦闘方法に、距離を縮めようとするオルナの戦闘方法は苦戦を強いられていたのでか、アラバには余裕があった。
「それは誰に言われたのですか?」
彼女の闘志に水を注いだ。
「ゼジだよ!!」
色んな感情が混じったオルナの気勢は、魔法使いの攻撃を一つ多く反応した。
アラバは反応が遅れ、彼女の間合いに入ってしまった。
遠距離攻撃から、近距離へ…。
魔法使いの戦法がボクシングに変わる。
彼女の望むところだった。
今まで、近距離になれば、魔法使いは自分と同じスタイルで戦っていた。
その近距離戦闘が得意な彼女が、唯一同等に戦えると思ったからだろう。
「ちぃ!!」
ガードを飛ばされながら、何とか攻勢を努めようとするアラバ、その通り、今度は優位に攻め立てているのは、オルナだった。
勝機はある。
アラバの表情を、その際に見たのだろう。
今まで…。
戦いの際、人は相手の表情で状況を判断する。
犯罪者を殴り伏せた際に発生する。
『命だけは助けて』という。
懇願…。
その表情に。
オルナは勝機を見出した。
その証拠に彼の反撃にも、早く反応出来た。
『勝てる』
ストレート…。
身を逸らせてスウェイ、彼女は反撃に左、魔法使いはかろうじて避けるのが彼女は見て取れ、
『勝てる、勝てる、勝てる、勝てる…』
食い縛った口元は笑顔にもとれて、勝利を確信していた。
「……」
だが、アラバは相手を見てなかった。
「……」
ただ、悲しそうに…。
「……」
負けを認めるような眼でもなく。
『……』
哀しみの視線の先に、空間を眺めて口を開く。
「望んでいたのは、貴女だけじゃ、ないのですよ…」
急にアラバの加速が増した。
「!?」
オルナは先ほどとは明らかに違う加速に、余裕は一瞬でかき消えた。
魔法使いの本気の動きに、オルナの反応は遅れ、わき腹に打撃が入った。
「効くか!!」
彼女は怯まない。
カイザーナックルを渾身の力で握り締め、打ち合いを臨んだ。
『相手の方が不利だ』
先のダメージが相手は素手と、自分は武器を持っているからと、そう思ったからだろう。
事実、そこから一切、オルナは攻撃を許さなかった。
優位は、変わりない。
そう思い、彼女も全力で放つ。
だが、避けられる。
アラバも反撃。
それも避ける。
いつぞやで見たような、攻防がそこにあった。
「うおああ!!」
わき腹の痛みがあったのだろうか、彼女の叫びが屋上で木霊する。
攻撃、避ける。
気付いているのだろうか…。
攻撃、避ける。
彼女は、この攻防で『痛み(ずつう)』を引き起こしていた事を。
アラバがアッパーカットを見舞い…。
亀裂が入った。
「このお!!」
オルナは眼を見開き、反撃をする。
アラバは最小限の動きでそれを避け、もう一撃。
それは、フェイントからの。
ストレート…。
私はその時、オルナは『反応』出来たと思う。
だが、亀裂も見て取れた。
今にして思えば、アラバの先のフェイントも亀裂を広げるためだろうか、オルナはその亀裂に視界を奪われてしまっていた。
「!!!!!!!!」
オルナは転がり倒れた。
それを見送り、アラバは大きく息を吸う。
「これで良いのですね、ジーナさん」
再度、虚空を見つめる、勝者の顔は、あまりにも悲しそうだった。




