第五十二話
「オルナ、良く聞いてほしい。
あの男は、様々な場面に顔を出さないでいた。
迷惑を掛けた際の、周辺住民の訪問にも、先生方を使っていた。
これがどういう意味かわかるか?」
「……」
「自分の所業を全て、お前に擦り付けるためだ」
「じゃあ、何だよ。
ゼジは昔、私に負けたから、その腹いせでジーナに何かして、自殺した。
出来すぎた話にもほどがある」
「そうだな」
それにはさすがに私も肩を竦める。
出来すぎた話だった。
確かに…。
「それで、私は覚えていない。
それがアイツの付加能力『記憶の封印』が繋がって、ずっと私を監視していた。
馬鹿げている…」
彼女の言うとおりだった。
だが、私は知っていた。
「オルナ、そういう事が起きるのが、私達の日常だ」
オルナは信じられない表情をしたので、私は内心呆れていた。
「解決率の低さが、こういったトコロで出るとはな…」
そして彼女の雰囲気だけで、ゼジが事後処理を取り仕切っていたのが感じ取れ、オルナは一切、そういう現実を見てなかったのが、とても哀れに見えた。
「私はドラマは嫌いでな。
特に刑事ドラマは、嫌いだ。
被害者と言う名の『犯人』。
第一発見者を装った『犯人』。
悲劇のヒロインと言う名の『犯人』。
出来すぎた展開は、今や、この日常を平気で呑み込んでいるからだ。
お前が、この出来すぎた展開を、直視出来ないのはわからんでもない。
だが、それが私達の生きている日常なのだ。
そして、ゼジが何もジーナを追い込んだ理由は、お前が理由ではない」
タイミング良く…。
オルナが顔を上げたと同時に、実にタイミング良く私の携帯が鳴った。
彼女を手で制して、携帯のディスプレイに『セルフィ』と書かれた名前を見せ、周囲に聞こえるように通話のボタンを押す。
「セルフィか、どうだった?」
「範囲的に調べていたから手間取ったけど、姉さんの思った通りだったわ。
二年前、天才機構受験者の中に、名前があったわ。
クライマー、ううん…。
ゼジと、ジーナ・パートの名前があったわ」
「どういう事だよ!?」
それを聞いた途端、オルナに私の携帯をとられた、それにセルフィは驚きの声を上げる。
「な、なんでアンタが出てくるのよ?」
「構うな、セルフィ。
そこでの結果を、この女に教えてやってほしい」
遠目だから、聞こえるかどうか不安になりもしたが、聞こえていたらしい。
「ふん、ジーナは合格していたわ…」
「ゼジは?」
「当然、と言ったら失礼だけど、不合格よ」
オルナは絶句したので、私が携帯を返してもらうのにも力が抜けていた。
「わざわざインテリに直接出向いて調べているから、アンタでも調べられるようにしておくわよ」
「『直接出向いた』とは、ご苦労な事だな?」
「さすがにセキュリティの問題でね。
通話対応だけじゃ、私は認識されなかったからよ」
「すまんな、セルフィ、それで今回の事は、お前は、どう見ている?」
「ジーナの事件は、あの人や、魔法使いが真犯人ではなかったというのは確かね。
でも…。
一番、怪しい人物が今までを操っていたというのが、私の見解よ。
突付けば突付くほど、ボロが出たのでしょうけど…」
セルフィが一度、言い難そうにしたのは、オルナに対しての同情もあったのだろうが。
「調べるに至れなかったのは、オルナ、貴女の落ち度よ」
はっきりと指摘する。
「部下は上司の意向に逆らえないとは、良く言ったモノだな」
「心理学の悪用ね。
コントロールされている事にも、気付けなかったみたいね」
そうして、会話も早々に通話を切る。
オルナは俯いたまま。
「何だよ、それ…」
今にも崩れそうな、雰囲気だった。
「私に負けて、ジーナにも負けた…」
強めの風が吹き、高いトコロにいるのを思い知らされ。
「それでゼジが私の去った後、ジーナに何かした…?」
彼女を強く打つのも見て取れた。
崩れ落ちそうになったが、
「そんなの理解できるワケがないだろうが!!」
それは東方術を発動させる態度で打ち払われ、その高い敵意は私にも向けられていた。
だが、私は不思議と恐怖を感じる事はなく。
「さて、私にオルナに出来る事はここまでだ。
アラバ…」
それを黙って聞いていたアラバに、後を託せた。
「相手を、いきり立った猛牛に仕立て上げておいて、随分なバトンタッチですね?」
「ふっ、そうか?
しかし、お前にしても、まだ『隠している事』はあるだろう?」
あえて強調して、私は静かに立ち去った。




