第五十話
寝不足の状態とは日常の音を普通に聞いていると、自分の意識が遠くなる事すら忘れる事がある。
「大変だ、レフィーユさん、オルナがいない!!」
私がそんな事に気が付いたのは、ガトウのそんな通信だった。
見るとアラバは屋上に出ており。
そして、階段を上がって来る音していた。
私は思わず警戒をするが、
「お前…」
オルナが私を驚くように、見上げていた。
「……」
そこでようやく彼女は、私とアラバの関係を察したのだろう、睨みつけて階段を上がって来る。
「……」
その歩幅はただゆっくり、まるで私に『何か言えよ』と言わんばかりに目の前に立つ、それは傍から見れば威圧的な態度だろう。
だが、私にはその姿は、
どうしても…。
辛く見えた。
何も言わずに、進路を譲る事しか出来なかった。
「やっぱり、ここにいたんだな?」
オルナは闇の法衣を纏う男に話しかける。
その時、私は、アラバはフードをしていない事に驚いた。
「ここまで歩いてやって来た…」
「?」
「ようやく歩く事が出来たような気がする。
私は今まで、ここまでやって来るのにも、走って来た。
全てはお前を倒す鍛練のためにな。
でも、今、歩くと、わかった事がある…」
オルナは構わず通り過ぎ、そこにある手すりに手を掛けた。
「怖がられているんだな、私は…」
様子はわからなかったが、多分、下を見たのだろう。
自分の妹の最後の場所を。
「でも、私はお前を倒すためなら、怖がられても構わないと思っていた。
そうしなければ、犯罪者に、なめられるだろうし。
それが抑止に繋がると私は思っていた」
「実際は、そうはいかないでしょう」
「知ったような事を言うんだな?」
「私が行動を本格的にした時に、レフィーユさんを見てましたからね。
私はあの人を賞賛出来るのは、最後まで人道的な指揮が出来るからですよ」
するとオルナはアラバを睨んだ。
そこが判断基準だったのだろう。
「だったら、私は、お前を信じない…」
「……」
アラバは黙る。
当然の反応だった。
「だって、そうだろう。
お前は、ジーナの部屋にやって来る人物が犯人だと言ったがな。
ゼジだったじゃないか、それがどういう意味かわかるか?」
「当時の治安部でも、ゼジさんにはアリバイくらい調べているでしょうね」
「そうだ、確固たるアリバイだ。
お前は、また、見当違いを調べていたんだ」
オルナは嘲笑していた。
「馬鹿げた話だよな、私はもう少しで仲間を疑うトコロだったんだ」
しかし、アラバはじっと見ていた。
「何とか言ってみろよ?」
ただ、じっと…。
「何だよ…」
それでオルナが怯む。
「オルナさん、そこから地上にいる人の顔は確認できる高さですよね?
当然、それは私にも同じ事が言える高さです。
見間違える事は、まず、ありませんよね?」
アラバの確認に、オルナは頷き。
「今度はどんな言い訳をする気だ?」
反論しようとするが、
「ジーナさんの死についてです。
慎重に答えてください」
アラバは怯む事は無く、彼女が頷くのを見て、私は『どうしてオルナの方はアラバを覚えてないのか?』と疑問に思ったが、話は続く。
「ここの出口は何箇所もあるので、出方によっては誰もわからないでしょうが?
屋上の出入り口は一箇所です。
当然、犯人もここにいないといけないワケですが…」
「それで、今度は私が犯人じゃないのかという訳か?
馬鹿馬鹿しい…」
「もう私は貴女を疑ってませんよ。
人だかりがあったとしても、私はね。
ジーナさんが落ちた音まで聞いているのですからね。
そして、見上げると貴女がいた…。
つまり、時間は掛かってないという事です」
「犯人は、私の近くにいた可能性があったとでも…?」
すると、アラバは首を振り、風景を眺めて言う。
「私が貴女に協力出来ない理由は、そこにあったのかも知れませんね。
気付きませんか、オルナさん。
私は下にいました、貴女は屋上にいた。
それでいても、犯人を見る事はなかった」
「突き落とした後に、すぐさま逃げた」
先に感づいた私も、首を振る。
彼女に向けて…。
アラバにしても、彼女の口から言わせないといけなかったのだろう。
「そこに犯人は、いなかったのですよ」
そこでオルナは気付く。
「うそ…」
呟く様に、
「嘘だ!!」
オルナは確実に叫ぶと、後は答えを勢いで言うしかない。
「自殺…なのか…」
「私達は、勘違いしていたのですよ。
彼女は、殺されたのではなくて…」
アラバも勢いで言うしかないのだろう。
「自ら命を絶ったのですよ」
オルナにとっては、これからが地獄なのだ。




