第五話
レフィーユはじっと見ていたが、退くような性格じゃなかった。
「良いだろう、来るがいい」
定められた開始線に戻るまで、何もしてこなかった事によほど自信があるのかと思ったが、オルナは何も手にしてないのでレフィーユは少し顔をしかめたが、次の瞬間、周囲がざわついた。
「どういうつもりだ?」
「漆黒の魔導士は、西方術者のクセに近接戦闘を主に戦うらしいな?
私の得物は見ての通りだ…」
彼女は自分の東方術で『カイザーナックル』を作り出して見せていたからだ。
「東方術同士、コレでやり合わないか…」
その時、不思議と騒ぎ出したのは白鳳学園だけのように見えた。
「えらい事になったのう…」
さすがにイワトも空気を察して、二人の動向を見守るだけとなっていたが、それだけではもうどうにもならない。
「良いだろう、だが怪我の保障出来んぞ?」
そう言って、木刀を収めようと戻ろうとすると、オルナは言った。
「私の付加能力は『体重のコントロール』だ」
それには自分も驚いて、オルナを見た。レフィーユも同様だった。
「付加能力も使っての手合わせしろと、それがどれほどの危険があるのかわかって言っているのだろうな?」
さすがにレフィーユは困った顔を見せて、辺りを見回していたがオルナは言った。
「怪我をするかもしれないのは覚悟の上だ。
でも、私はお前のホントの実力が見たいんだ」
「…何故、そこまでして私の実力を知りたい?」
「私が納得出来る理由が欲しいからだ」
「納得出来る理由?」
「いいぞ~、やれやれ~」
そして、見ると調子良く上がるアズの歓声を皮切りに、周りが煽り出した。
レフィーユは煽られているのを感じ取りながらも不機嫌になるが。
「いいだろう、その代わり、私が勝てば、お前が私に対する敵意の理由を教えてもらうぞ?」
「それが出来るならな…」
彼女は前から感じていた嫌悪感を前面に押し出して身構える。
おかげで周囲は殺伐とする中、彼女の木刀を受け取った自分に気付いたレフィーユに耳打ちをした。
「大変な事になりましたね?」
「ふっ、だが、私は負けてやるつもりはない。
あの女にしても、最初からやり合うつもりだったようだ」
「なるほど、試されているワケですね…」
オルナの方を見ると、彼女はウォームアップは特徴的だったので、自分は自然とこう呟く。
「ボクシング、あの武器の使い手らしい体術ですよ」
「あのスタイルでの手強さは、魔法使いで経験済みだ」
「でしたら、攻撃力に注意してくださいね」
「攻撃力?」
「彼女の能力は『体重のコントロール』です。
どんな攻撃にも体重の乗った攻撃というのは、威力があるというのは知ってますでしょう?」
「その攻撃力故に、自信を持って私に挑んで来たという事か?」
「彼女の体重は…」
その際にオルナを見るが、何かを察したのか睨まれた。
「ふっ」
「まあ、わかりませんが…。
人体の構造上、私でも全体重を乗せた攻撃は出来ませんからね」
「手が壊れるからか。
だが、オルナは、それが出来る」
レフィーユは作り出したサーベルを見つめているので、それがどういう事なのか理解しているのだろう。
「気をつけて下さい、攻撃力は私より上です」
「ふっ、殊勝な事だ」
彼女は笑みを見せて、開始線に戻るとオルナは挑発するように言う。
「余裕な事だな?」
「これでも作戦会議でな。アドバイスをもらっていただけだ」
「あの男は治安部でもないだろう、どうせ大したアドバイスでも無いはずだ」
「そうでもない、攻撃力はお前の方が上だという事だ」
「何を言うかと思えば、当然だろう。
私は武装をしてるんだからな」
「ふっ、お前に、この言葉の意味がわからんか…」
その際に彼女は自分を見て、そんな探りを入れていたのか。
「…あの男が、魔法使いという事は知らんようだな」
呟き、にらみ合ったまま、誰も合図はしてはいなかった。
だが、それが合図だった。
「はあっ!!」
レフィーユは飛び込んで、サーベルを振り下ろす。
オルナは避けようともせず、
「らぁ!!」
そのサーベルに合わせて、拳を振り上げた。
「何!?」
レフィーユが手にしたサーベルが、宙を舞って自分達の近くに転がった。
自然とそのサーベルの行方をレフィーユは追って、そこに間髪入れず、オルナは身を屈めて飛び込んで。
「おおぉぉ!!」
拳を振るい、誰もが『当たる』と思った…。
だがその時、レフィーユはさらに接近して、
「ふんっ」
見事な払い腰を見せて、オルナを倒し、こちらに駆け込んできた。
サーベルを拾うためだったのは明白だった。
この時、ここにいる取り巻きの女子は、彼女を見たいがために動かないモノだったが…。
慌てて逃げる彼女達を見たのか、それとも感じていたのか、追撃に走るオルナの攻撃を転がって避けていた。
「ふっ、言うだけの事はある、倒した時に追撃しなくて正解だった…」
貫通しているのがわかるほど、腕をめり込ませたオルナは、引き抜くのを見て改めてレフィーユは聞いた。
「何故、お前は私をそこまで嫌う?」
「お前自身が嫌いというわけじゃない。
でもな、お前は…」
「---------------------------------------」
この時、また目眩が自分に襲い掛かっていた。
「いつまでも、魔導士を野放しにして!!」
オルナの渾身の一撃を、レフィーユは自分の付加能力『残像』で避けて応戦し、オルナが自分を睨みつけていた。
それがさらに目眩を強くした。
「----------------------------」
声を上げれるほどの余裕はなかった。
何とか意識を取り戻そうと、戦っている二人に視線を向けていたが…。
「-----------」
その時、その二人の脇に、もう一人、小さな女の子が立って自分を見ていた。
驚いてその子に、目を向けた…。
それが意識を持たせてくれた。
「どした、アラバ…?」
ふらついていたらしく、イワトがそんな事を聞こえて来たので、意識がはっきりして来る。
それと同時に、
「安心したよ、アンタの実力が本物で…」
「ふっ、ここまで本気にさせるとは、思わなかったぞ?」
両者が寸止めして、決着がついていた。
一層の歓声が上がり、イワトも彼女達の戦いに感嘆して自分の肩を揺するが、自分はその女の子を探していた、
…当然、いるわけがなかった。
「私は漆黒の魔導士を憎んでいるからだ…」
「何の事だ?」
「理由、聞きたかったんだろ?」
そう、驚いたのには、その女の子をよく知っていたからだった。
「アイツは、私の妹、ジーナを殺したんだ」
その一言に、絶句していた。