第四十九話
「こちら、ガトウ、レフィーユさん、聞こえるか?
オルナ・ヒータを確保、繰り返す、オルナ・ヒータを確保」
レフィーユはそんな通信を拾ったので、出る事にした。
「ご苦労、それで大丈夫なのか?」
「礼の姿にはなっていたが、幸い健康状態には問題ないようだ。
だが…」
「どうした?」
「魔法使いと何かあったのか知らんが、当のオルナが凄い剣幕なんだ。
俺たちは先に来ていたゼジと、一緒に追い出された」
「ゼジが…?」
「ああ、ゼジなりに心当たりを調べたんだろう。
オルナの態度も疲れから来る動揺らしい…。
ゼジには先に帰らせて、人手のある。
俺たちでここにいるつもりだ。
『アンタの指示通りにな』
問題は無いか?」
「そうしてくれ、くれぐれも気をつけてな」
そう言って、通信を終えようとするとガトウは遮るように聞いて来た。
「ところで一つ良いか?」
「何だ?」
「どうしてフォードの連中の後に、探索に加わらないといけなかった?
あっちはゼジ、一人だったんだぞ?」
「それは言わなければならんか?」
「アンタらしくない判断だ。
聞いておいた方が良いだろう?」
元リーダーらしい、ガトウの言い方にレフィーユは納得しながら言う。
「私はアラバの事件は、フォード学園の生徒が怪しいと思っているからだ」
「……」
「感じ取りやすい絶句だな、ガトウ。
何かしらの工作を講じられる前に、すぐさまお前たちが入って来られれば、何も出来ないだろう?
あくまでこれは私個人の考えだからな。
お前たちに、混乱させるつもりはなかっただけだ」
「…じゃあ、ゼジに尾行を付けるか?」
「いや、構わん、アイツも慎重な男だ。
これ以上、突付いても何も出てこないだろう。
お前たちは警備を頼む…」
「了解」
そう通信を切ろうとするが、今度はレフィーユが思わず目を細め聞いて見た。
「ああ、そうだ。
アラバは見つかったか?」
「いや、残念ながら、ここにはいない。
俺らもそれを聞こうとしたんだがな…」
「オルナに追い出されたというわけか?」
「そっちに人員を割くか?」
「いや、構うな。
アラバとて、無謀なマネはしない限り、安全なのは承知のはずだ。
逆に騒ぎを起こせば、かえってアイツに危険が及ぶ。
お前たちは警護に留めておけ」
そう言って通信を切ると、やはり演じていた事が気になったらしく、通信機相手に肩を竦めて言う。
「ふっ、当の本人がいる前で、いささか妙な会話をしたモノだな?」
目の前に立っているアラバが立っていたからだった。
「さっきまでムカイがいたのだがな。
一応、私の知っている限りではあるが、色々教えて帰らせた」
「そうですか、すいませんね」
アラバは静かに、ため息を吐く。
「今回、随分と色んな人に迷惑を掛けてしまったモノですね」
良く見ると目にクマが出来ていた。
「あとで礼は言っておくのだな」
一日眠ってないという事は、レフィーユも同じ条件だったが、アラバの方が辛そうに見えた。
「少し眠るか?」
アラバは首を振る。
「オルナさんは、眠れないでしょう?」
アラバは階段に腰掛けようとするが…。
「……」
それをやめるのだから、
「座ったら、寝るぞ、多分」
レフィーユの注意を素直に受けて壁にもたれ掛かる程度にしていた。
外も日常を取り戻しつつあり、騒がしくなる。
「ゼジ、なのか?」
レフィーユの問いに、アラバは答える事はないので続け。
「ゼジなら…」
そこまで言って、
「やめた…」
アラバは軽く身を起こす。
「やめたと言っている」
「貴女らしくありませんね?」
「人は365日、ほぼ一生、事件を忘れる事は出来ない。
お前たち二人は、730日も忘れる事はなかったのだろう。
お前たちの遺恨は、治安部の抱える事件の範疇を超えている。
お前が真実に辿りついたのなら、私は口にするつもりはない。
だからこそ、聞きたい事がある」
彼女は向かいに立つ、少し視線を鋭くさせる。
「どうして今まで、この事を解決しようとしなかった?」
「それは私が、正体がバレるのを恐れたから…」
「だが、お前が協力しない事で、オルナが苦しんだ結果になったというのは変わりない。
私の知っているお前だったら、そんな事があろうとも調べているはずだ」
そして、アラバは屋上を眺めて答えた。
「仲が良かったから、ですよ」
「どういう事だ?」
「私もね、調べていましたよ。
当時のフォード学園の治安部に紛れて、事件の内容、人間関係、様々…。
ですが協力者がいたとしても、私はすぐにでも協力を申し出る気にはなれませんでした…」
「例え今、オルナさんが苦しんでいようとも、お前は見捨てると?」
アラバはそれには首を振る。
「この屋上は、ジーナさんと私の場所でもありましたが、オルナさんの場所でもありましてね。
私はあの時の事を良く覚えている、だからこそ、あの人が、あんなに仲の良かった二人がこんな事になるとは考えられなかった」
「だからこそ、オルナがやって来るのを待ったというのは、それは言い訳だ」
「はい、言い訳です。
結局、私はオルナさんを疑って掛かっただけで、何もわかってなかったのですからね。
この自分の言い訳に、私は決着を付けたいだけなのかも知れません」
するとレフィーユは言う。
「私は何をしてやれる?」
もうそこには鋭さはなかった。
「そばにいてください」
「それだけか?」
「それでいいです…」
レフィーユはアラバの隣に身を預け、日が傾きかけた頃。
階段をゆっくりと上がる音がして、こっちに向かってくるのを先に感じたのはアラバだった。




