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第四十八話

 「レフィーユだ、今、市街区域を探索中だが、二人は発見出来ない。


 夜が明けるとはいえ、視界は不良。


 そのため探索は困難だ。


 引き続き、この周囲の探索を行おうと思う」


 相手は『了解』と返信が返ってくるが、レフィーユはまったく別の意思で歩き始めていた。


 ライトを片手に階段を一つ一つ上がり頼りない感じのドアを開けると、彼女は夜の明け出しを感じていた。


 そこは、あの事件が起きた場所だった。


 ジーナの生きた最後場所であるビルの屋上。


 そこで数歩してしばらくしたのち、彼女は影に向かって口を開く。


 「いつまで隠れているつもりだ?」


 すると物陰から、ゆっくりと影が起き上がり、最初に着流しが目立っていた。


 「完全に気配を殺したつもりなんですが、さすがレフィーユさんですねい?」


 「現役治安部員を、なめてもらっては困る」


 「これでも、あっしは一時期、あっちの界隈を震え上がらせた殺し屋なんですがねぃ…」


 「『無界』にお褒めに預かり光栄だ。


 お前は、こんなトコロで何をしている?」


 するとムカイは、すでに鞘に収められている日本刀を見せて聞き返した。


 「それはこっちの台詞でさ。


 貴女こそ、こんなトコロで何の用ですかい?」


 「私は調査だ。


 お前は…」


 ムカイはゆっくりと身構える。


 実際、武器を手にした人間を前にして緊張をしない人間はいない。


 だが、レフィーユは肩を竦めるだけで、


 「警邏とは、ご苦労な事だな?」


 惚けて見せる。


 おかげでムカイは彼女に敵意を向けている事に、馬鹿馬鹿しくなったらしく。


 「レフィーユさん、こんなトコロで油を売っていて良いんですかい?」


 「心配するな、捜査の方は大詰めだ。


 私にしても、色々と確認したいためにココに来た。


 そこでお前に出くわすとは思いもしなかったがな」


 するとムカイは、頭を掻きながら言った。


 「やっぱりオルナさんが、犯人で?」


 「アラバから、聞いたのか?」


 「いえ、あの人とは連絡が付きませんから、大よその検討を付けて言ってまさ。


 アラバさんは、あっしに協力を申し出やした。


 『出来る限り、この町で起きている事実を話してほしい。


 その後は、いろいろ起きるかも知れないから、警戒は怠らないでください』


 何て言われたモンですからね。


 当然、あっしは周囲の被害を考えない治安維持活動に、どれだけ一般住民が治安部(あんたら)が煙たがられている事を話しやした。


 その時、特に目立った名前がオルナという単語が、自分でも馬鹿みたいに出やしたからね」


 「勘の鋭さが無ければ、裏の世界では生きてはいけない。


 と言ったのは、よく言ったモノだな?」


 「あの後、見はからかったかのように、襲撃されたりもしたんですぜ。


 何かあると思ったら、アラバさんも『警戒は怠るな』なんて言ってやすし。


 彼女を疑うのは、自然でさ」


 ムカイは『にぃ』と笑うが、レフィーユは言う。


 「だが、オルナは被害者だよ。


 ずっと変わってない…」


 彼女はムカイを嘲笑する事も無く、オルナを責めるような言い方も無いので、ムカイは表情を戻す。


 「それは…ホントですかい…?」


 「ふっ、人を殺していないかどうか、ふざけられる事でもだろう?


 もっとも、だからこそ私がここにいるのだがな…」


 レフィーユは自分が辿り着いた事を、ムカイに説明を始めようとして。


 一旦、声を詰まらせて、彼女は胸に手を当てて、こう付け加える。


 「オルナにとっては、ここからが地獄である事は変わりはない」



 ……。



 胸倉を掴まれたまま、魔法使いは、睨むオルナを『じっ』と見ていた。


 オルナからしてみれば、闇で作られた衣から出来た、フードにマスク姿、暗闇も手伝って、夜明ける前の逆光と携帯の画像が照らす灯火もあるが、顔は見えずにいた。


 魔法使いにしてみれば、明ければ明けるほど、彼女の手の震えが伝わるのが感じ取れ。


 自分の手で、顔を覆う『全て』を剥ぎ取ったのは自然な動作だった。


 「っ!!」


 胸倉を掴んでいた彼女は、至近距離で魔法使いの素顔を見た。


 オルナは驚き、アラバを突き飛ばすが、逆に彼女の方が尻餅をついた。


 怯えているのがわかったアラバは、うっすらと外が蒼くなる中、ジーナの携帯を拾い上げて言う。


 「私も人の事が言えませんね。


 二年も経てば、人は顔も変わるのですね」


 思わずアラバは目を瞑り、そこに映る自分の姿から目を逸らす。


 「少なくとも私は同じ姿になったつもりですよ?


 見間違える事は、ありませんよね?」


 今のアラバの姿は、闇で覆われた部分はコートのような雰囲気はあったが、画像と同じ姿だった。


 隣に移っているオルナは、自分で情報を整理するしかなくなっていたので、アラバは話を始める。


 「二年前、私は、貴女を犯人だと思っていた」


 「……」


 「動機はわかりますね?


 上を見上げると、貴女がいたのですからね?」


 「……」


 「ですが、当時の私は、そんな事より、ジーナさんを助けたかった。


 誰かれ構わず、私は助けを求め、助けを呼んだと聞き及んだ時、彼女を運びました」


 「……」


 「そこで私は、一つよぎった事がありました。


 『もしかして、私は、これから脅迫されるのでは無いのだろうか?』


 とね」


 「……」


 「そんな事を恐れた私は、病院に辿り着いてすぐ、姿をくらませました。


 ですが、私は貴女の恐怖を今まで拭えた事はないのですよ。


 オルナ・ヒータ、貴女の名前を…」


 「……」


 「名前の違い、苗字の違い。


 それだけで、今まで貴女を他人だと思ってました。


 ですが貴女を犯人だと色濃く思えたのは、貴女がジーナさんと血の繋がった姉妹(きょうだい)であると思ったからです」


 「で、でも…」


 ようやくオルナは口を開くので、アラバは彼女の言葉を待っていた。


 「それなら、おかしいじゃないか!!


 血の繋がっているんだろ!!


 姉妹(しまい)なんだろ!!


 だ、だったら、どうしてお前は、私が妹を殺すという解答に辿り着くんだよ!?」


 オルナは激揚する…しかないのだろう。


 もう一度、胸倉を掴もうという雰囲気すらあった。


 だが、アラバは闇を使い、あの画像を見せながら言う。


 「私が今まで色んなモノを見て来た所為もあります。


 ですが、私にとって、この画像は貴女を疑う最大の要因だったのですよ。


 姉妹であるならば、あの画像は忘れるはずはないでしょう」


 「私は、そんなの知らなかった!!」


 「でも、私は覚えています。


 この写真を撮るときも、タイトル通り、私は臆病で、自分のちからがバレるのを恐れ、必死にやめさせようとさせる自分の姿も。


 そして、それを止めようとして、笑顔の貴女も、


 言ったじゃないですか、


 『この秘密は私やジーナは絶対に守る』と…。


 だからこそ、試したのですよ」


 「何を…」


 「まず、貴女の敵意を…」


 「最初の襲撃…」


 「二度目も同じ理由です」


 「じゃあ、三度目は何だった?


 あれは意味もなく、破壊活動じゃないか?」


 「あれは偽者です。


 おそらく私の名前を騙った誰かが、勝手にやった事でしょう。


 ですが、そこが最初の矛盾でした。


 どうして貴女は、偽者相手にも執拗に魔法使いを追う事が出来るのかと」


 「それは、あれが偽者だと知らなかったからだ」


 「そうです、偽者なら、どうして全力を出せるのか?


 まだ、あの時点では、私はあえて演じているのかと、思いもしました。


 ですが、事を同じくして、ムカイさんに指示した事が、私にとって決定的な要因になりました」


 アラバは丁寧に完成されたジグソーパズルを額縁に戻し、元々あった場所に掛けてオルナに言う。


 「実はあの時のムカイさんのあからさまなオルナさんへの挑発は、私の指示でした。


 ゲームセンターに行った時、貴女が煙たがられていたのを知っていましたからね。


 狙い通り、貴女は怒って来ました。


 狙い通り、怒りを露わに、


 ですが…」

 

 「襲われたから、それも私の指示だとも思ったのか?」


 オルナの言葉に、アラバは首を振った。


 「そこまでは予想はしていません。


 警戒を怠るなとは確かに言いましたが、私はあくまで一時的な警戒をしろという意味合いで言ったのですよ。


 ですが、それも最大の矛盾です」


 アラバはようやくオルナの手枷を外し、じっとオルナを見る。


 「ムカイさんはね、あれでも昔は相当、腕の立つ人でしてね。


 襲った人はただではすまないくらい知っています。


 犯人が手下をやられれば、それなりの慎重さを見せるでしょう。


 ですがオルナさん、貴女はそんな中で、私に協力を求めましたよね?」


 ビキニ姿の彼女は腕を擦るのは、手枷がなくなったからではなかった。


 「犯人が貴女にしても、手痛い反撃をくらった時に協力を求めようとすればかえって疑われるというのに、何故か?


 まだ、演じているのか?と、


 そう思った、私はある決意をしました。


 私が、ジーナさんの事を話せば、貴女は何かしらのリアクションを起こしてくるだろう。


 案の定、貴女は起こしました。


 協力すべきだ…とね。


 あの時の解答で、私は辿り着きました。


 貴女は、犯人ではない事と」


 「じゃあ、誰が犯人なんだ!?」


 アラバは、ジーナの部屋を出て階段を下りるので、オルナは慌てて追いかけようとするが。


 「おいっ!!」


 アラバはすぐに戻って来て、片手にオルナのカッターシャツを彼女に見せて、意図を理解した上で彼女に放り投げた。


 「今、みんなに貴女がここにいる事は私と貴女しか、知りません。


 そして、この家は、この町にある市内をまたぎ、遠い位置にあります。


 私と貴女を探すとしても、遠まわしになるほど…。


 ですが犯人にとって今ほど、最高の機会はないでしょうね」


 「最高の機会?」


 「この部屋は、貴女にしかわからないトラップが仕掛けられていました。


 治安部の調査があったにせよ。


 誰も、ここには入って来ていません。


 私達は拉致された事になっています。


 犯人なら、この機会を逃す事はしないでしょうね。


 例え荒らされても、魔法使い(わたし)の所為にすれば済みます…」


 そこでようやくアラバは、ジーナの携帯を持っていた事に気付き。オルナに手渡すが納得する様子はなかった。


 「これが、お前の仕組んだ事じゃないというのは?」


 当然の疑い方だった。


 「だからこそ、この携帯は貴女が持っておくべきです」


 オルナはもう一度、携帯の画像を確認していた。


 屈託の無い笑顔で、彼女とアラバは映っていた。


 「疑っているのなら、これを持って治安部に行けば良いでしょう。


 これで私は破滅(おしまい)です」


 そんな事を言うので、信じるしかなかった。


 「ここに来たヤツが、犯人なのか?」


 「……」


 アラバは応える事は無く。


 「待ってますよ…」 

 

 それだけ言って、去って行った。


 予め調べていたのだろうか、窓が開く音がして、それ以上の音も無く、しばらくすると、アラバの気配は消えた。


 ちょうど、そこで朝を知らせる様に鳥が鳴き始めると、車の音がして、確かに、


 ギィ…。


 聞き慣れた、自分の家の玄関が開く音がした。


 入ってくる音、それは中を探索している様子も伺えたので、一瞬、治安部が探しに来たのだろうかと、彼女は思いもした。


 しかし、明らかにここにやって来るのが早すぎたのは、彼女でも換算出来た。


 階段を上がる音がしたので、オルナは深呼吸して、カイザーナックルを作り上げると、足音は止まる。


 まだ隣の自分の部屋にやって来るのなら…。


 そんな猶予もなく…。


 自分のいるドアが押えつけられ、一気に緊張が増した。


 それは気配を探っている事に気付き、オルナは息を潜めた。


 余裕も無くなる、アラバの言うように真っ直ぐ来ていたのだ。


 カッターシャツ一枚だけでは、どうやら寒かったらしい。


 だが、その震えを感じ取るように、外で先にその姿を見ていたアラバは空を見上げて目を閉じる。


 ドアを開け、影は最初にオルナの姿を捉えて、驚いた。


 「あ、こ、これはオルナさん、無事だったんです?」


 慌てるような声、


 「ゼジ?」


 身体中から力が抜けていくような声、


 状況もあったのだろうか、オルナはそこで感づいた。


 あまりにも、真っ直ぐ来すぎた。


 この男に…。



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