第四十七話
気絶は眠っている感覚に近い。
彼女は意識を取り戻すのは、感覚的に数秒しか経っていないだろう。
だが、実際には数時間たっており。
「ごほっ!!」
証拠とばかりに、急な酸素吸引にむせて咳き込む。
そして、ぼんやりと視力を取り戻し、自分の自宅だと認識して独特の安堵を覚え。
『油断した…』
身を起こそうとするが、思うほど身体の自由が効かなかったので、次第に思い出す。
『あいつが治安部員相手に、首を絞めるなんて思わなかった…』
彼女とて、首を絞める相手は初めてじゃなかった。
彼女の回想は、それに対して適した反撃だった。
『鉄格子越しだったが、私の攻撃は届くはずだ…』
首筋に触れれば、人はそれを思い出す。
『アレは手じゃなかった…。
もっと滑らかなモノが私の首に巻きついた…。
布、なんかじゃなくて、あれは…闇!?』
すると意識が一気に蘇り、
『そうだ、私はどうして、ここで寝ている!?』
ソファに誰かが座っている事に気がついた。
「お目覚めですか?」
「!!」
驚きながらだが、オルナはすぐさま身構えようとした。
だが手足が動かず、縛られていた事に気がつき。
「こんな格好の女の寝相をずっと見ていたとは、大した変態だな?」
その際の動作で、自分がビキニ姿になっているのを確認出来たので、当然の悪態をついた。
「気持ちはわかります。
ですが、治安部員の制服には追跡機能など、色んな機能が付いていますからね。
制服は脱がせてもらいました」
「よく知っている事だな?」
「昔、レフィーユさん相手に散々、手を焼かされたモノですからね」
そうしている間も、オルナは手足を縛っているのは闇ではないと確認できたので、何とか抜け出そうとしていた。
魔法使いはそれに気付いてないように、辺りを見回して濁った声でオルナに聞く。
「ここは今の貴女の住まいでもあり、ジーナさんの住まいでもあるのでしたね?」
「お前には、関係ないだろう?」
「二年前、あの女性の事件の前に、貴女と彼女の間には、ある事件が起きていた」
「何の事だ?」
「事件、いや、うん…。
両親方の離婚というのは、事件だと思うのですがね?」
思わず訂正を挟み、慌てる態度をとる魔法使いに、オルナは、不振に思った。
だが先に時間稼ぎにと聞いて見た。
「確かにそれも、二年前だ。
私達は両親が離婚するので別れる事になった。
私は母について行き。
妹は、もう片方、父親に付いて、ここに残った。
だからって、それがなんだ?」
魔法使いは一度、黙ったので、オルナは付け足すように言う。
「言っておくが、これはジーナの考えでもあったんだ。
『どっちに付いて行くか、お前たちは良く相談して決めて欲しい』
なんて言われて、その時の私は迷った。
どちらかに付いて行く事で、片方が『嫌いだった』と思われたくなかったからな。
でも、そんな私を見た、ジーナは言った。
『それなら私達は、片方に付いて行く事にすれば良い』ってな」
「なるほど、会おうと思うなら、いつでも会える。
あの人らしい、考えですね」
オルナはここで自分が抜け出すために時間稼ぎするのを、バレているのを薄々感じ、疑問も浮かぶ。
「お前、知らないって言っていたじゃないか?」
だが、魔法使いは答えはしなかった。
「…事件が起きて、貴女はそれを追うため、ここにやって来た。
当時、事件を調べに治安部は、ジーナさんの部屋にも行ったのですか?」
「当然だ…」
オルナは『質問に答えろ』と気持ちが先行しかけたが、別に脱出しても構わない雰囲気が先の質問に答えさせていた。
「二回、合計で二回、調査した」
「二回…?」
「二年前、当時の治安部が調べて、そして、私がフォード学園に編入した際、ゼジ達と一緒に調べた」
そして、今度は脱出の時間稼ぎはなかった。
「半分、私のわがままだった」
魔法使いに、隙がなかったワケじゃない。
「でも、ゼジ達は同じ中等部馴染みだから、協力してくれたんだ」
自分の手で、オルナの足に自由を与えだしたので戸惑っていた。
「オルナさん、もう一度、ジーナさんの部屋を調べて見ませんか?」
だが、その呼びかけに彼女はあざ笑う。
「やっぱりお前は信用できない」
魔法使いは黙ったまま、彼女を見ていた。
「良いか、私は気絶していたのだろう?
そこで、お前はこの家にいる。
お前が何かしら、工作を企てている可能性を考えないほど私は単純な女だと思うか?
テレビを付けて見ろ。
この家には私にしか、わからない探知トラップだって仕掛けてあるんだぞ?」
「それなら私はジーナさんの部屋には、入ってない証拠にもあるという事ですね?」
「だから、信用できないと言っているだろう。
お前の疑いだって晴れたワケじゃない。
お前がどうして、ジーナの部屋を調べたいのか、理由を答えろ」
魔法使いは黙る。
「ほら見ろ、もう少しで、ここにも治安部の調べが来る。
無駄な抵抗は、やめておけ」
オルナは余裕で笑みがこぼれるのは。
「アラバさんは、どうして逃げたのか知りたくありませんか?」
ほんの一時だった。
「馬鹿な、アイツはジーナを助けたんだぞ?」
「そうです、そして、当時、応急処置の方法も知らず。
あたふたした結果…。
彼は、大切な人を助けようとした人。
と、世間では、そう見えるでしょうが、彼は重要なミスを犯しています」
「それが逃げたって事か?」
魔法使いは頷いて、オルナに聞いてくる。
「オルナさん、その件以来、アラバさんを見た事がありますか?」
「見た事はないはずでしょう。
大切な人であるならば、すぐにでも現れたはずですよ。
この二年間も、そして、初めてジーナさんの遺体を目にした時も…。
ですが、彼は一回も貴女の前には現れてはいない。
それは何故か?」
思わずオルナは息を呑んで聞く。
「お前は、アラバを疑っているのか?」
その問いかけにも、魔法使いは答える事がなかった。
「彼にとって身を滅ぼす何かがあった。
だから、調べさせてほしいのですよ」
「お前は一体、何を企んでいる?」
そして、魔法使いはこう答えた。
「私は真実が知りたいだけです」
まだ、オルナにも調べさせるわけには行かないという気持ちの方が強かった。
「…ですが、考えようによっては私は、貴女を絶対に許せないと思います」
だが、魔法使いはじっとオルナを見る、敵意にアラバに似た雰囲気を感じ取っていた。
本来なら、怒り返すだろうが、
「良いだろう…」
オルナは手の縄を解けと要求したが、魔法使いは黙って解く様子も無かったので、そのまま魔法使いを案内した。
「ところでご両親は?」
「どうして、そんな事を聞く」
「探索の際に騒がれるのも、厄介ですから…」
するとオルナは肩をすくめて答えた。
「人をこんな格好にさせて、随分と小心な事を聞くんだな。
安心しろ、帰って来ない…
正確には別居中だ」
「離婚しているのですよね?」
「事件に執着を見せるとな、人間、家族であろうと心が離れて行く事があるんだ。
半分は、私を気遣っているんだろうがな。
でも正直、お互い、腫れ物に触る事が出来ない状態だ」
「ではジーナさんの部屋には、貴女以外、入る事が出来ない状態であったという事ですか?」
「どうだろうな、私が気絶している間に、お前が入った…」
「どうしました?」
「トラップが起動して無い。
お前はホントに入って無いんだな」
「驚いてもらっても、困るのですが…」
今度は魔法使いが、肩をすくめる番になったが、心なしか緊張しているのが見て取れた。
「という事は、ここがジーナさんの部屋なんですね?」
黙ってオルナは頷き、それが二年間、ずっと使われて無い臭気を促す。
「覚えているモンでな。
携帯とか、いつもの場所に置いているよ」
「ずっとそのままなのか?」
彼女が頷いたのを見送り、ホコリの掛かった完成して飾られてあるジグソーパズルを眺め、魔法使いが思わず黙り込んだとも知らないオルナは聞いて来た。
「それで何を調べるって言うんだ?」
「ああ、それではパソコンに電源をつけてください。
携帯にも充電を…」
「携帯なんて、何で調べるんだよ?」
「何か残っているかも知れませんからね」
「そんなのもう、こっちでも調べたんだが…」
そういいながらもオルナは、携帯に充電を入れる。
そして…。
「くしゅん」
オルナがホコリを吸い込んでクシャミをする頃、大まかを調べ終わっていた。
「ほら、何もないじゃないか?」
パソコンには、大したデータも無く、携帯にも何もデータはなかった。
だが魔法使いは、それでもジーナの携帯を弄るので思わず、オルナは聞く。
「携帯にも大した画像データもなかっただろう?」
さあ、寄越せと、ひったくろうとする。
「これには当時、重要な手がかりがあったのですがね?」
それを避けた魔法使いの一言に、オルナは感づいた。
「何で、そんな事が知ってるんだよ?」
「二年前、私はその存在をずっと忘れたことはありませんでしたからね」
「だから、それは何なんだよ」
「貴女は知らないワケがないのですがね?」
「いい加減にしろよ、私の質問に答えろ!?」
夜が明けて空もうっすらと青くなる中、オルナの怒声がこだました。
だが、魔法使いはじっと見て答えた。
「そう、その態度なんですよ。
貴女の態度には嘘はありません。
私達は何かを見落としているのですよ」
「だから、何なんだよ。
治安部も見落とす、何かって?」
もう一度、魔法使いは携帯を弄り始める。
するとある項目が表示された。
1.本体
2.メモリーカード
「メモリーカード?」
そこを押し、「1,2,3…」と機械的に並べられた項目を弄るが何も出てこなかった。
「おいっ」
「壊す気はありません。
メモリーカードを見せてもらうだけです」
そう言いながら、電池を剥ぎ取り、白いメモリーカードを抜き出す。
するとそのメモリーを見ている視線の先に、
『彼女』が見えた。
その先に、ジグソーパズルがあった。
思わずホコリを払い、魔法使いは聞いて来た。
「オルナさん、コレ?」
「何だよ、これ、私は知らないぞ?」
それは何処にでもある背景のジグソーパズルだった。
だが魔法使いの指した、隅には白い屋根があり。そこにメモリーカードが入っていた。
「下ろせるか?」
魔法使いは落ち着かせるように、オルナを手で制して、闇を使いながら額縁を下ろし。
丁寧に背面をはぐり、メモリーカードをオルナに手渡した。
「オルナさん、貴女が見るべきです」
オルナは不振に思いながら、携帯を組みなおし電源を入れる。
どうやら、彼女はパソコンからメモリーカードの内容を見る術がなかったらしい。
そして、少し気になった携帯を覗き込もうとする、魔法使いに肩で小突いて見せてくれた。
その際、調整に彼女の手に触れると、冷たく感じた。
「何で、こんなのがあるって、知っていたんだ?」
一旦、間があり、また答えてくれないと思いもしたが、
「確信がなければ、私もここには来ませんよ。
それ故に、私は貴女を疑ってもいた」
「相変わらず、ワケのわからないヤツだな。
何で、どいつもこいつも私を疑っているんだ。
私だって、お前を疑っているんだ?
お前は前に、ジーナの事を知らないと言ったのに、知っていただろう?」
「……」
魔法使いは、ただ『じっ』とオルナを見ていた。
「何だ、その目は?」
「電源、付きましたよ」
「お前に言われなくてもわかってる」
苛立ったまま、オルナは先ほどのように捜査を始める。
1.本体
2.メモリーカード
そして…。
オルナはメモリーカードをクリックする、
「っ!?」
オルナの驚き、魔法使いは思わず目を瞑った。
先ほど機械的に並べられていた数字は、更新されていたのだ。
1.意外と臆病な君に…
こんなタイトルと共に、
そこをクリックするのも、数秒も掛からなかった。
「何だよ、コレ…」
オルナは、
「何なんだよ、コレは!!?」
絶叫と共に、魔法使いの胸倉を掴む、だが、彼は冷静だった。
「やっぱりあったのですね…。
事件当時、シュウジ・アラバが最も恐れたモノ…」
思わず床に投げ出された携帯は、無常に画像を映し出されていた。
それはただのツーショット写真だった。
そこでのアラバは慌てて、その写真を撮られるのを避けようとしたのが窺えた。
だが、それを取り押さえ、一緒に映ろうとした人物がいた。
それも笑顔で…。
「何で、だよ…」
二年前の写真だった。
だが、彼女は見間違えるワケがなかった。
自分自身の顔なのだから…。
もう一度、彼女は絶叫する
「何で、こんなモノがここにあるんだよ!!」




