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第四十四話

 「人は他人の過去に触れたがる」


 そして、イワト達が出てしばらくした後、レフィーユは静かに口を開く。


 「だが、それが本人の後ろめたい事であれば、それを嫌い、それを知った者を許せなくなり人間関係は悪化の一途をたどる事もある。


 だから、人は時として、他人とのつながりにおいて、知らない事があっても良い事もある。


 アラバ、みんなが出たのは、お前の尊厳を尊重した行為だというのはわかっているな?」


 「はい、全く良い人達ですよ」


 アラバは壁越しに、出て行ったイワト達を透視するような態度をとっていると、セルフィは言った。


 「もしかして、私も出て行った方が良い?」


 「いえ、それには及びません。


 この人が、私の証言を改ざんする、可能性はあるでしょう?」


 それに少しレフィーユは不機嫌そうになるが、


 「それでレフィーユさん、どこまで調べました?」


 アラバの問いに答えた。


 「…まず、お前が事件を調べていた際に、生徒の名簿まで調べていた事に着目した。


 そこでもお前は、サインを残していたな?」


 すると彼女は人差し指で机を押しながら。


 「こうやって指紋を付け…。


 私はセルフィが取調べをしている間、お前のサインの解明を専念させてもらった」


 そこで、セルフィは気付いたのだろう。


 「もしかして私が、ここに呼ばれた理由って?」


 自身の役割がわかっただろう、今度は妹が不機嫌になる。


 「ふっ、そう不機嫌になるモノでもない。


 この男は明らかに、先の状況を警戒していたのはわかっていた事だ。


 この環境を作り上げるには、セルフィ、総合的な面でお前が一番の適任だった」


 「ふん、オルナって人がそこまで脅威だとは思えないわ…」


 セルフィは、少し反撃する気で、自分でも浮かんでいたのか、姉の浮かべているであろう重要参考人の人物像を口にする。


 「私も、その事件のビルに行ったのよ。


 あの高さなら、人を見間違える高さじゃないわ。


 貴方が『どうして黙るのか?』なんて、そういう意味があるのでしょう?」


 「セルフィ…」


 よほど自信があるのだろう名指しで指摘したセルフィに、レフィーユは頷いて答えた。


 「確かにこの男が、名簿を指を差した人物は、オルナも指を差していた。


 そして、ゼジ、アズ、オルナのパートナーである。


 ルスキア・ネイ。


 ここフォード学園の治安部のほとんどは、ジーナのいた中等部から上がって来た者達ばかりの中に、オルナは浮いていた」


 「妹の仇だから?」


 セルフィの問いに、レフィーユは首を振って答えた。


 「いや、オルナはご両親が離婚していた関係で、彼女は別の地域の人間なのさ。


オルナ・ヒータと名前も違うだろう。


 妹の死がきっかけで、ここ苗木町近隣の地域で様々な調査、活動をした上で、フォード学園に入ったのだろう。


 それ故にアラバ、私なりに、お前の結論がわかった気がする」


 レフィーユはアラバを見ると、しばらくして彼は大きく一回、ため息のような深呼吸をした。


 それだけ場の空気が引き締まっていたのだろう。


 セルフィも腕組みをして、頷き、姉の意見を待ち、レフィーユは答えた。


 「アラバ、実は何もわかっていないな」


 セルフィは『ガタッ』と崩れた。


 「ちょっと、待ちなさいよ。


 ここまで引っ張っておいて、何もわかってなかったの?」


 「はい」


 「冷静に言うモンじゃないわよ。


 アンタね、冗談もほどほどにしておきなさいよ」


 「落ち着け、セルフィ」


 「読者から見ても、アンタ、この状況はね。


 アンタが危険を顧みず、情報を探ろうとしてる状況じゃない。


 もしかして、この環境を作ったの、謝るため!?」


 「ふっ、だからこそ、この男も矛盾して見えるのだろう?」


 セルフィは驚くほど、姉が冷静だったので思わず息を飲んだ。


 「アラバ、二年前といえば、お前も私も高等部に上がる前だ。


 私はそんな事件があったなど、知る由も無い。


 だが、お前は、知っていた。


 あんな表情(かお)を見せるほど…。


 では、何故、オルナと同じように調べようとしなかった?」


 「それはこの人が、オルナを見たからでしょう?」


 「セルフィ、それでも、この男は調べる。


 私はお前がそういう男だというのを知っている」


 アラバはこの間、ずっと黙ったままだった。


 「だからこそ話してもらえないだろうか、二年前、お前に何があったのか?」


 そして、ようやく口を開く動作には、観念が伝わっていた。 


 「レフィーユさん、地獄と言うのを味わった事がありますか?」


 「地獄?」


 「地獄と言うのは、おおよそ生きているから、苦しみを味わう時期という意味なんですよ。


 二年前というのは、私にとって、両親を亡くした時期でもあるのですよ…」


 レフィーユは改めて、アラバを見るのは、彼が『漆黒の魔導士』としてだった。


 そこで思い出すのは、魔法使いが現れたとされたのも、二年前だという事も、当然、セルフィにはいう事はなかったが、目を瞑って軽く深呼吸をするに留めていた。


 「親戚もいない事もあって、私にとっては、両親を亡くすというのは、思った以上にダメージでしてね。


 ロクに食事もとれなくて、何を考えていたのでしょうね。


 外へ、さまよい出たのですよ」


 「危ないわね…」


 「実際、危なかったと思いますよ。


 泣きたくても、人は『頑張れ』というしかないでしょうし。


 泣けなくて、絶望しましたからね。


 そんな尊敬する人にあったのですよ」


 「それがジーナ・パート…」


 レフィーユは、そういうとセルフィは言う。


 「尊敬出来るって、その人は年下だというのは知っていたのでしょう?」


 「人を尊敬するのに年齢なんて、関係ないでしょう?


 確かにあの人のおかげで、私はもう一度、頑張ろうと思えたのですからね」


 「ジーナはお前に何て言ったのだ?」


 「『確かに大変かもしれないけど、同じ目にあった人が、貴方の事を知ったらどれほど哀しむのか、考えて見たら良いよ』


 正直、その時の私には、どうすれば良いと聞きました。


 『だから、考えないといけないと思う。


 それは人には伝わらないかも知れないけど、私は知っているから、自分のために頑張ってみたら?』


 結果のために頑張るのじゃなくて、自分のために頑張れと言われたのは人生で初めてでした。


 その日から、私は…」


 「自分(やみ)と向き合えたか…。


 確かに、尊敬出来るのだろうな」


 セルフィには伝わらないであろう意味合いを持った言葉に、アラバは静かに頷いた。


 「その日から、私は身体を動かす事から始めました。


 ただ、この町、彼女に会うだけでしたが、身体を鍛えるには十分に距離がありました」


 そこで『漆黒の魔導士』たる所以の魔力量が生まれたのだろうと感じれた頃、レフィーユは、どうしても気付いた事がある。


 「好きだったのだな、彼女が?」


 そして、待つべき言葉は、


 「はい」


 彼女に、重く圧し掛かる。


 「……」


 セルフィも黙った。


 「そんな中で、あの事件が起きました」


 事を進められたのは、気を使ったのだろうか、まるでアラバは事をぼやかす様に、事を進めた。


 「多くの人だかりの中、彼女は倒れてました…。


 最初は、信じたくはなかったですよ。


 でも、現実味はありましてね…。


 必死に頭の中の教科書を探っても、それ以上の事が彼女の身には起きてましてね。


 救急車の音が聞こえた、私は、抱え上げてましたよ…」


 「間違いないのか?」


 「はい、処置は間違ってますね…。


 助けたかった、でも、それだけで、何も出来ませんでした…。


 最後の最後になって、適切な処置を思い出して、逃げ出して最低ですよ」


 「だからこそ身に付いた、応急処置能力か…」


 レフィーユは静かに、アラバを見つめていた。


 「あの時、私はお前の能力を晒し者にしただけの女なのかもしれんな」


 「構いませんよ、能力なんて自慢するように出来てますよ。


 貴女は間違ってませんよ」


 「そうか…」


 レフィーユは、それでも、居心地悪そうにしていた。


 「では、最後に聞きたい。


 お前は、唯一、あの現場で上を見た人間である事には間違いない。


 そこでお前は、誰を見た?」


 そして、アラバは、じっと見て答えた。


 「誰もいませんでした…」


 レフィーユの視線が鋭くなるが…。


 「そこには誰もいませんでした」


 もうアラバは、サインも何も出す事は無く、取調べはそこで終わった。


 そうして留置場に、再びアラバを送り戻した時、ようやくセルフィは口を開いた。


 「人に歴史あり、というけど、よく言ったモノね」


 「まあな…」


 「それでどうするの姉さん、あの人が何も見ていないという事は、事件は振り出しに戻るって事じゃないの?」


 「いや、振り出しに戻るワケではない。


 あの男は嘘を付いた」


 「えっ?」


 「ふっ、当時の資料でも、大勢の人が立っていた。


 多くの目撃者は『誰かが立っていた』というのを証言している。


 そんな中で嘘を付くというのは、発炎筒を焚きながら何かを教えているようなモノだ」


 「じゃあ、どうして嘘を付いたのよ?」


 「わからん、誰かを守ろうとしたか…」


 「オルナ…?」


 「じゃあ、誰の手から守ろうとしている?」


 「魔法使い?」


 レフィーユは、違うと言いたそうになったが、そこが自分にしかわからないであろう事に気付いた。


 「…セルフィ、少し頼まれていいか?」


 「ふん、オルナの周辺調査か、魔法使いでも探そうって?」


 「いや…」


 そういって頼んだ姉の依頼は、セルフィの疑問に思うしかなかった。

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