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第三十八話

 輸送車内にて手袋を整え直す最中でも、オルナは意気揚々としていたが、私の心境は穏やかではなかった。


 「あの化け物、今度こそ…」


 東方術で作られたカイザーナックル同士を、オルナは苛立ち任せに叩き合せる。


 強固な物質同士のぶつかり合い、狭い空間で火花が散るのを周りにおかまいなしにやるので、正直、やめてほしかったが、今の私はそれを咎める気にはなれなかった。


 「これでモブと何かしらの繋がりがあるのも、考えておかしく無いな」


 私にはもう捕まえる気などない。


 「おい、レフィーユ、今度こそ私たちで捕まえるぞ?」


 もう、捕まっているというのに…。


 「捕まえてジーナの事を、聞き出してやる」


 偽者が何を吐くというのだ?


 「おい、聞いているのか?」


 「わかっている!!」


 おかげで苛立ちが移ってしまった。


 二年前の事件、オルナ、その資料を探り、捕まるように仕掛けたアラバに、


 まるで計ったように、漆黒の魔導士が捕まったというのに現れた『偽者』。  


 思わずアラバが言った台詞が脳裏によぎる。


 「茶番だな…」


 私の気持ちも知らず、オルナはゼジに『指示をくれ』と通信を入れた。


 「事件は市街地で起こっているみたいです…」


 「ん…?」


 「……」


 「調子でも悪いのか、いつもなら指示をくれるだろ?」


 「あ、相手は魔法使いですので、油断してはならないと思ったのです」


 偽者相手に何を浮き足立つ必要があるのだろうか。


 「治安部のリーダーなら、常に冷静に状況を捉えておく事だな」


 「そ、そうなのですが…」


 「相手が危険な相手ならは、お前は部員を安全に維持活動を促させ、しかも一般人を迅速に避難させる事を第一に考えれば良い」


 「その間に魔法使いに、逃げられたらどうするんだよ!!」


 オルナが非難する様に私を見たが、ゆっくりとオルナを睨んでしまった。


 「なんだよ?」


 今は生徒の命に預かるモノとして話している最中だからだろうか。


 このままだと、彼女の亡くなったパートナーの話まで持ち出してしまいそうになるので、口を紡ぎ、いつぞやぶりに運転手を悩ませてしまう。


 そんな中、ゼジから通信が入る。


 「レフィーユさん、情報の追加です。


 漆黒の魔導士なのですが、モブを残して撤退したそうです」


 「つまり現場に着いたところで、モブしかいない、という事か?」


 私がそう返答すると、ゼジの解答にオルナは明らかに落胆したのが見えたが。


 私にしてもコレが偽者の仕業であると言う、決定的な情報だった。


 ……。


 「それでレフィーユさん、二つほど聞いて言いですかい?」


 「なんだ?」


 「どうして、あっしのトコロにやって来たのですかい?」


 「相手に偽者を演じる気が無いからだ」


 「それはどういう事で?」


 「モノマネというのは、面白い傾向があってな。


 人は本物をモノマネする気があるのなら魔法使いあいてを見て真似る。


 だが宴会や、本人の意に反する時にモノマネをしようとした時、人は不思議と本物ではなく偽者モノマネ真似モノマネをしてしまうのさ。


 今回はあからさまだ、やる気の無い者がモノマネする場合、どちらをモノマネをするのか、わかるだろう。


 何故したのか、そうしなければならないのか、そう考えれば、私はこの辺であの男の顔を知っている者を探りを入れただけだ」


 騒ぎを鎮圧したあと、私は魔法使いの偽者であろうと感じた、ムカイに接触した理由を指摘する。


 それでもムカイは照れた様に、頭を掻いて聞いて来た。


 「それでも安易ですぜ、それだけで偽者だと思えた決定的な情報だと思えやせんでさ?」


 「ふっ、では知っておくのだな。


 あの男がいるところは、常に前線だ」


 「前線…、どういう事ですかい?


 犯罪者ってのは、みんな前線に出てなんぼでしょう?」


 「だが、撤退力というのが無い。


 重要な犯罪者ほど迅速な撤退力は備わっているモノだが、あの男には一切、それが無いのさ。


 いつも前線で戦い、集団行動の撤退のしんがりはいつも、あの男だ」 


 そして、あの男が、犯罪者とされる大きな要因だった。


 先ほどの情報と、『闇』を衣にして身にまとうほどの膨大な魔力を誇って戦う姿はまさに周囲を怖がらせ…。


 かつての私の認識を誤らせたの原因ともなった。


 私は表情の曇りを感じるなか、ムカイは笑みを浮かべていた。


 「あの人らしいですねい…」


 それは旅館の時と見る事の無い、とても優しい笑顔だった。


 それだけだったが、あの男にどれだけの世話になったのかわかり。


 私に怒りを促す。


 「では、どうしてあんなマネをした。


 あの男が嫌う事くらい知っているだろう」


 冷静を装うが私の感情を感じ取れたのだろう、ムカイは頷いて言った。


 「話してもいいですがね、


 あっしも前科で、アンタを信用してはいないのでさ」


 「では、どうすれば信用してもらえる?」


 ムカイは木刀を取り出し、更に片手に日本刀をつくり上げていった。


 「レフィーユさん、あっしにもやる気があるのかないのか、見せてもらいやせんか?」


 夕暮れに着流しが風になびき、ムカイはそんな事を言ってきた。


 しかし、相手がふざけてやろうとしている感じが、一切感じ取れなかった。


 殺気。


 いや、それは相手に失礼な表現だろう。


 『私は人が斬れますよ』という狂気とは別の意味を込めた『殺意』の視線。


 それが相手が元犯罪者である表れだったが、私は答える代わりにサーベルを作り出して身構えた。



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