第三十四話
少女は何を買いに行ったのか、気になりもしたが、その後、すぐに後悔する事になる。
人間、追い詰められた時ほど、何かをやってなければならないというのは、後で知った事だ。
人間は、それだけ弱い生き物なのだという事も。
歩き続けていたからこそ、彼女とそのまま話し続けていたら、まだ気が紛れていただろう。
それを止めた途端、不安で仕方がなくなり、気が付けば身体が震えていた。
日が沈み、風の色が夜になり、身体を冷やす。
「あのさ…」
その時、彼女はいつの間にか戻っていた、自分にそんな事を言っていた。
「薄々、気付いていたけど、何か辛い事あった?」
「何でそんな事がわかるのですか?」
「私の家も、親が離婚して姉さんとさ、離れ離れになって。
何て言うかさ、辛いのだけはわかる様になっちゃってさ…」
彼女は下界を眺めて、それは慰めのつもりだったのだろう。
「そうですか…」
気に障っていた。
「ですが、貴女にはわからないですよ」
だから、自分の勝手で強めに拒否をした。
「うん、それは、わかんないよね…」
しかし、彼女は、とても冷静だった。
「さっき会ったばっかりだし。
私、ジーナ。
ジーナ・パート。
キミは…」
思わず、きょとんとしてしまった。
「名前よ、な、ま、え!」
そして、こちらが逆に気圧されてしまう。
「あ、アラバです。
シュウジ・アラバ」
「そうか、アラバ君か…」
頷き、彼女をじっと見ている自分がいた。
「ねえ、ここで会ったのも何かの縁だし。
何があったの?」
でも、その態度はまさに安請負だった。
「言っても、わからないと言ったじゃないですか?」
先に彼女に対して覚えたのは、怒りだった。
「そうかな?」
笑顔、それにイラつき、その時、自分勝手な感情任せに…。
自分は初めて人に『闇』を見せた。
……。
「それで、お三方、どうして集まっているのか疑問なのですが?」
目を開けると、レフィーユとセルフィ、そして、オルナが自分達の泊まる旅館、しかも自分の部屋に屯していた。
「私だって、ここに来るつもりはなかったけどさ」
「オルナ、お前をこのまま帰すワケにはいかん。
病院で検査を受けて、大した事がないとはいえ、お前は何度も気絶しているのは変わりはないのだからな」
「そうよ、そのまま帰って、また倒れたらどうするのよ?」
姉妹に止められ、オルナは渋々、座り込むのだが…。
「レフィーユさん」
「なんだ?」
「ここ私の部屋ですよね?」
勝手に上がり込まれた主人公の心境は、複雑であった。
「こういう場合、応急処置の優れたモノが近くにいる事は大切な事だ。
すまないが、首を縦に振ってもらえないだろうか?」
はたから見れば最な意見にみえるだろう…。
「逃がすつもりはなさそうですね?」
そんな耳打ちを、彼女は答えることはなかった。
「やや、今日は客人が多いですねぃ」
そして、ここの旅館の従業員、ムカイは自分の部屋の人数に驚きながら食事を運ぶ。
「これはまた、豪勢ですね?」
「へい、腕によりを掛けやしたが、少し足らないようでさ。作って来やしょうか?」
「良いのですか?」
「構いませんでさ、じゃあ、もう一振りして来やすね?」
「すいません、迷惑をおかけします」
そんな会話を聞いた、セルフィは自分を見る。
「何、あの人と知り合い?」
「まあ、そんなトコロです」
「おかげで、この男に振舞われる料理だけ豪勢なのは気に入らんがな」
「何なのよ、あんた?」
腕組みをしてセルフィは、自分の見ていたが、
「一応、御膳の方は、おひつを用意しやした。
どうぞご自由に召し上がってくだせえ」
「普通、旅館の料理でおひつは用意される事は少ないけどな…」
「だから何なのよ、あんた?」
そんな事は構う事無く、先に食事をしていたレフィーユは丁寧に置いて言った。
「一体、魔法使いはしたかったのだろうな?」
オルナは『そんなの知るか』と言った態度で、刺身を突付く中、セルフィは言った。
「そうね、自分の利害のためなら、敵である姉さんであっても協力をするような人だと思っていたんだけど、今回は全く協力する素振りすら見せてないのは、はっきり言って珍しいわよね?」
「協力するか、しないかは、今回が珍しいというワケではない。
何か考えがあっての行動なのかも知れないな」
再度、考え込むレフィーユだが、仕草で自分を見ていた。
「考えがなんてあるもんか、ジーナとの関係は絶対にある」
「オルナ、どうして、そう言い切れる?」
「アイツは私を襲った」
「それだけ?」
それには流石にセルフィは肩を竦めるが、オルナはもう一杯のご飯をついで言う。
「あの時、関係がないのなら、襲う必要なんて無い。
それに、この頭痛だ…。
アイツが単純に、私の苦しむ姿を見るために襲い掛かったんなら、よほどの変態だ」
変態呼ばわりされたので、良い気分で無い主人公は、あぐらを掻いてお茶を飲んでいた。
「これはジーナが何かを訴えているのかもしれないんだ」
こんな確信とも取れた呟きと共に…。
「……」
すると右に座る、セルフィが足で突付いてきた。
「行儀が悪いですよ?」
「ふん、黙っているからよ」
「だから何か喋れと言うのは、私は治安部の人間でもありませんからね。
意見を言うのは構いませんが、捜査の妨げをしてはならないでしょう?」
「そうとは限らないだろう?
ふとした意見が大局を変えるのは良くある話だ。
構わず言ってみたらどうだ?」
まるで打ち合わせでもしているのだろうか、レフィーユも切り込んでくる。
「…そうですね、あの人と出現時期が似ているという事でしたよね?」
「前後しているが故に魔法使いかもしれないという事件だな」
軽い調子で今までの経緯を確認する彼女だが、視線を外す事はなかったので、
「破滅するタイミング…」
思わず出た言葉は、場の空気を冷えつかせていた。
「物騒ね…。
どういう意味よ?」
「その事件以来、彼はこの地域には現れてない、という事を少し考えてみたのですよ。
何を怖がったのか、思いましてね」
「あの人が怖がるような事がなんて、あるとは思えないけど?」
「それは私も詳しくはわからないですよ。
でも、一つあるじゃないですか?」
「何だよそれは?」
この問いかけに、オルナは疑問に思っているとレフィーユは答えた。
「正体、素顔か?」
「あまりにも単純な事ですが、彼の弱点と言っても過言じゃないでしょう。
それを知る機会が、そこにあったのではないのでしょうか?」
「それで破滅するタイミングは、そこにあったという事か?」
レフィーユは他の二人とは違う意味の問いかけで、改めて自分を見る。
だが、その視線はさっきから外されて無かった。
「はい、そこでオルナさん…」
「何だよ…」
「貴女は昔、魔法使いに会った事があるのですか?」
ようやくレフィーユの視線が、さすがにオルナの方に向くが、彼女は構わず言った。
「あんな化け物なんか、会った事ねえよ」
「そうですか…」
そして、それは自分の質問の終わりでもあった。
「……」
「終わりなの!?」
「終わりですが?」
「ほら、他に何か質問しなさいよ」
「セルフィさん、それは治安部だから出来るのですよ。
私はね、一般人ですからね。
ドラマで、そんな名探偵がいますが。
あれ、名誉棄損で訴えられても、おかしくないですからね」
「ふっ、だから主人公の名探偵は、脅迫にも使えるほど人間関係を調べる。
別に構わんから、言ってみたらどうだ?」
するとオルナは当然、睨む。
「何だ、お前、私を疑ってんのか?」
「睨まないで下さいよ」
「別に構わねえよ…」
それだけを言っているオルナだが、態度がそうとう怖かった。
するとオルナはおもむろに立ち上がった。
「どうした?」
「風呂に入ってくる」
そして、さらにクローゼットを開け。
「浴衣を借りるぞ?」
そのまま服を脱ぎ始めた。
「おい!!」
自分もそうだった。
何をし始めたのか最初わからなかったのだろう。
明らかに反応が遅れたが、レフィーユ、セルフィと慌てて、オルナを止める。
「アンタ、何を脱いでるのよ!?」
「別に構わないだろう。
羞恥に慣れるのも、訓練の一環だ」
「こんな事を訓練で済ませるな。
ここのは男がいるんだぞ?」
すると、オルナは一旦、動きを止めて、こっちを見たが…。
「知るか…」
「だから、下も脱ぐな!!
せめて、そこで済ませろ」
レフィーユが指すのは、トイレだった。
「あんな不潔なトコロで、着替えなんて出来るか!!」
「どうして、そこを気にするのよ。
ほら、アンタも、何もじっとしてんのよ!!」
するとセルフィは、そう自分に叫ぶ。
だが、どうすれば良いのか、わからなかったので…。
周囲を黙らせるほど、勢い良く立ち上がりある個室に立てこもる。
そして、
ジャアアア…。
水の流れる様を…。
面白もなく男は、見ていたと言う…。




