第三十二話
「ふっ、我々はついに伝説の生物、漆黒の魔導士を発見した。
と言ったトコロか?」
「レフィーユさん、そのネタ、まだ続いていたのですか?」
「あいにくと、カメラマンと照明さんの後に入る気分なんでな…」
不機嫌なまま彼女は自前の白い手袋を整えながら、後から来た二人を待ち、三人を代表して言うのはオルナを止めるだけだろうか。
「アラバは、何処だ?」
「ああ、アラバ君…」
自分自身の事を言われているが、自分の声は『闇』を通して濁って出た声は、レフィーユ以外にはばれる事は無く、とりあえず床に置いてある通信機を指した。
「それを置いて、取ろうとした隙を狙って、反対側から逃げられてしまいました」
「良く逃げれるモノだな」
「まったく大した対処法ですよ」
「確かに着実に逃げるという行為が出来ると言うのは、重要なカードだ。
人質にでも取られたら、私たちは安心して話も出来ない。
確実に捕縛出来る範囲は半径3メートルだと、教えていた甲斐があったというモノだ」
そして、レフィーユはオルナ達を見て、こう自分に釘を刺した。
「…最も、お前は逃げる気は無いようだな?」
「何か用事がある、という話でしたね?」
「ふん、その用事がある時だけ、足を止めるのやめた方が良いわよ?」
セルフィは、呆れていたが。
「二年前だ。
二年前、お前はジーナを殺したのか?」
オルナは今にも怒りが吹き出そうな態度だった。
「すいませんね、会った事もないのですよ」
その答えにレフィーユの目が鋭くなるのは『前に知っている』と言っているのだから、当然だった。
だが、それ以上にオルナが今にも掴み掛かろうとしているのがわかったので、自分はそれを止めなければならなかった。
「言っておきますけど、私にとって大した事じゃないから、小さな事じゃないからという。
大事、小事な理由で言っているのではないのですよ」
「本当に知らないから、そう答えるしかないという事か?」
「大体、二年前でしたよね、私は名前すら挙がってないのですよ?」
だが、当然、オルナは引き下がるワケがなかった。
「名前は挙がってないと言っても、事件に関係ないというのは話は別だ。
お前は事件当時、あの屋上にいたという証言だってあるんだ」
「それは『黒い服装の人が、立っていた』だけでしょう?」
「でもお前は、その後を境に現れているじゃないか?」
「それはただの偶然ですよ。
確かに活動し始めた時期と、前後しているのかもしれませんが、最も私はこの町には来た事がないのですよ」
「だったら、お前が関与して無いという証拠を見せてみろよ?」
「貴女は、子供ですか?」
思わずオルナは、息を飲んで黙り込んだ。
それを見たレフィーユは、自分に聞いて来た。
「随分と、この女の事件に詳しいのだな?」
「あんなに挑み掛かって来られれば、調べる気にもなりますよ。
今や、事件の内容なんてネットで簡単に検索できますからね。
だからこそ、私は無関係だと言いたいのですが…」
「でも、このままだと堂々巡りよ。
この人、それで引き下がるとは思えないわよ?」
セルフィはオルナを見つめられ、ようやく落ち着いたのか説明を待っていた。
「では少し私の方から、質問してよろしいでしょうか?」
そして、レフィーユを見つめていた。
「私か?」
「はい、現時点で一番信用できますからね」
そう言われた、彼女は少し嬉しそうになるのは、気のせいだろうか?
「オルナ・ヒータさん。
ここでの接触以外で、この二年間ですよ…。
接触を計って来ましたか?」
次の瞬間、彼女との付き合いの長さが、コレが自分の聞きたい事だと感じ取れたのだろう。
「無いが、それがどうかした?」
「やはりですか…」
そして、妙な緊張がそこにはあった。
当然の反応を見せたのは、オルナだった。
「どういう事だよ」
「オルナさん、貴女はホントに私を憎んでいるのですか?」
その時、自分がどんな目で彼女を見ていたのかわからなかった。
「人間、人を憎めば、手段を問わなくなりますよ。
レフィーユさんには、今でも私の事件被害者が協力させてくれとやって来るほどにね」
「何が言いたい?」
「つまり私は、貴女がジーナさんを殺したのじゃないのかと思っているのですよ」
でも、その時、はっきりオルナを睨んでいたのは覚えていた。
「ふざけるなぁ!!」
そして人気の無い空きビルに、彼女の怒号が木霊した。
「どうして私が妹を殺さないといけない!?
私はな、離婚とか、死んだのとか重なって、家族が壊れて、地獄を見ていたんだぞ。
だから私はあの事件を調べたいから、父方の家に土下座までして住み込んだ!!」
「そうやって、貴女は同情を買おうとしていると見えますが?」
「じゃあ、そんなヤツが、どうして調べようとしてる!!
私らの学園のみんな、私のために思い出したくも無いような事件を掘り起こしてまで、協力してくれているんだぞ?」
そのままオルナは、拳を柱にたたき付けた。
「私だって、もう、あの子の顔は写真でしか思い出せないんだぞ…。
ゼジが言うには、恐怖を忘れようと記憶から引き離そうとする、人としての心理的な機能らしいよ。
薄れていく記憶がどれほどの地獄か、アンタに解るか!?」
そして、この返答は、
「良くも、忘れられると、言えるモノですね?」
彼女の火の中に油を注ぎ、身まで燃え広がるであろう。
勢いのまま、オルナの拳は自分に迫る。
「それで、私を憎む事にした?」
だが、それは敵わない。
「たまったものじゃないですよ」
彼女の胸を、真っ直ぐ突いた。
「ぐああああっ!!」
彼女の足は宙に浮き、彼女の体重コントロールで攻撃に要したベクトルは完全なカウンターとなり、投げ技と化して悶絶させるが、構う事はなかった。
「今の貴女はジーナさんに『今まで何をしていた』と聞かれて答える事は出来るのですか?」
「うるさい!!」
「調べていたと言いますが、言うほどそんなに調べてなかったのでは?」
「うるさい!!」
「今の貴女はジーナさんに、向き合えますか!?」
「うるさい!!」
押さえつけた体勢に、顔を蹴られ、そのまま腕を折ろうとした動作に、法衣を引き剥がして離れると、オルナは叫ぶ。
「もういい、お前を捕まえて洗いざらい、しゃべってもらうぞ!?」
「オルナ、落ち着け!?」
「レフィーユ、お前も協力しろ!!
コイツは敵なんだ、お前には協力する義務がある!!」
「ちょっと、落ち着きなさい」
姉妹は慌てて、オルナを落ち着かせようとするが、
「うおおお!!」
それは無理な話だった。




