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第三話

 そして、フォード学園との交流会が始まった。


 その授業風景は昼休みまで持っていくのに、少し時間を感じてしまうのは何の変哲も無い証拠だった。


 昼休みに頃合いを見計らって、自分の仕事を始める事にした。

 

 それは、この学園内を探索する事。


 このフォード学園は二棟に分かれている構造だったので、今、自分達がいる教室棟ではなく、専門教科を学ぶための教科棟にいた。


 ただ、案内を片手に科学室や視聴室をチェックして行くだけなのだが…。


 これはこれで大事な仕事だったりする。


 「私は、これがお前の趣味だと思ったがな」


 「誰が好き好んで他校の内部構造を知る趣味がありますか、私の逃げる選択肢の中には校舎に逃げるという選択肢があるのですよ。


 私は大組織の正義の味方でもなければ、悪の大幹部でもありませんからね。


 誰も指名手配犯が、もしや治安部のいる学園に逃げ込む、何て誰も思わないでしょう。


 だからバレずに進入する手段を考えておくのも、重要な仕事なんですよ」


 「ふっ、個人経営は大変だな。


 だが、確かに誰も案内を片手に魔法使いが学園探索しているとも思わないだろうな」


 誰もいない事を確認して、レフィーユは冷やかすが、だが実際は困った事になっていた。


 「どうした?」


 「凄い数の監視カメラの数ですよね…?」


 「確かに…」


 「教室棟でも気になりましたけど、ここも隅々まで設置されてますよ?」


 「ああ、費用の問題で旧式ではあるが、全部の階に監視カメラの設置をされているのも、この学園の特徴と言ってもいいだろう。


 ここリーダー、ゼジ・クリストフの意向がそうさせたそうだが、こうもバカ丁寧に設置されていると、気味の悪さすら感じるな」


 彼女の言うとおり、こうして少し会話が途切れただけで監視カメラの動く『ジー』という音が聞こえて来て、そのカメラと目が合う。


 彼女の言葉通り『監視』されているのかと思うと、少し気味が悪かった。


 「一定の動きをしてますが、これは死角が無いようになってますね。


 おかげさまで、今回はここに逃げ込む事は無理のようです…」


 「旅館にしておいて正解だったようだ」


 「そこに関しては、ありがたいです」


 「ふっ、感謝してもらおう、だが、穴というのはあるかも知れん。


 探しておいても損はないだろう」


 彼女が微笑んでしばらく探索をしている、その時、進行方向から足音が聞こえて来た。


 「こんなトコロで何をやっている?」


 オルナだった。


 彼女は自分の持っていた学園の案内が見て、何となく納得していたが、やはりレフィーユを睨んでいる感じがしていた。


 「学園内をこの男と探索しているトコロでな。


 すまないが、一緒に学園内を案内をしてくれないだろうか?」


 レフィーユも探りを入れる様な言い方して、オルナも多分『探られている』という感覚を感じ取ったのか。


 「…良いだろう」


 しばらくの間、女二人に男一人という学園探索が始まったのだが、


 「ここが薬品保管庫、それで隣が教員準備室…」


 足早に適当さすら感じさせるオルナは説明するだけ、会話が無かった。


 あっという間に終わろうとしたので、レフィーユから話しかけた。


 「そういえば、少し監視カメラが多い事で気が付いたが…。


 お前達の活動に関して、私が気が付いた事を聞いて良いか?」


 「何だ?」


 「お前達は検挙率は高いが、解決率は低いのはどういう事なのだ?」


 「言っている意味がわからないな」


 「ふっ、本来なら犯罪者を逮捕、確保する検挙率が上がってくれば、事件の解決率はそれに比例して増えるモノだ。


 だが資料を見る限りだが、お前達は、検挙率、解決率の高さを誇るわりには、成果を上げれていないように見えてな?」


 「こういう事は、ウチのリーダーに聞け。


 私達は自分のできる事をやってるだけにすぎない」


 「聞くところによると、ゼジは現場では心理学のエキスパートで、それを用いた指揮能力の高さを誇るそうだが。


 私は現場で指揮を取るそんな人間より、現場で活動しているお前の意見が信用したいのだが?」


 機嫌の悪いのを隠す事なく話すオルナだったが、レフィーユはため息一つついただけでこう言い返して来たのに流石に驚いた。


 「ずいぶんと私たちの事に詳しいな?」


 「迅速な他校の連携には、個人の能力を把握しておく必要があるのでな。


 その程度の事なら、昨日の内にすませたさ」


 流石にそれには自分でも驚いたが、オルナもそれは一緒なのだろう。ようやく口を開いた。


 「…解決率の低さの原因は、ここを中心としている犯行形態が『モブ』だからだろう」


 「モブ?」


 「よくゲームとかで、聞いた事があるだろ。


 つづりは、M、O、Bで、モブ…。


 意味は漫画なんかで、物語に関与しないようなサブキャラを指す言葉らしい。

 

 私達の周りで起きている事件は、ネットで事件を起こそうと先導して、集団で事件を起こしている。


 そんな奴らの事を一括してモブと言って、検挙しても事件のなんら解決にもなってないのが現状だからだ」


 「なるほど先導者を捕まえる事が限り、根本的な解決にもならんというから、解決率も低いという事か…」


 「ですが『モブ』って、昔そんな事件ありませんでした?」


 「確か二週間前だったな、とある企業の労働条件があまりにも過酷だから、ネットで訴えて周囲を賛同させて、その会社を取り囲んで、企業の査察を訴えたヤツだな」


 「いえ、私のは、ある遊園地の活性化を促すために、その遊園地のキャラクターに仮装して、町のあちこちでゲリラコントをするというモノでしたが…」


 「ああ、そのアニメのワンシーンを様々な地域の公園でコスプレをして再現したヤツか。


 私も初等部の卒業した時に聞いたモノだから夢のある話だと思ったものだが、やっている事が迷惑行為と変わらないという事で、警察と問題になったヤツだな?」


 「ですが、アレも『モブ』でしたよね。


 色んな事件に『モブ』って言葉は使われてませんか?」


 「何もそんなに不思議な話ではない。


 『モブ』という言葉の意味自体に、柔軟性があっただけで、旧年から生まれて今に至るまで、様々なトコロで引用されていただけだ」


 「犯罪者と表現しても…」


 「ふっ、そうだ、何も代わりは無いという事だ。


 だが、そんな善意でやった行為を、そんな悪意の犯罪と一緒にされるのはたまらんだろうな」


 『しかし、懐かしいな』と先ほどの仮装騒ぎに、レフィーユと話をしているとオルナは呆れていた事に気付き。


 「随分と余裕な事だ。


 私は、お前のそんな態度が嫌いだ」


 はっきりと『嫌い』といわれて、さすがにレフィーユも顔をしかめる。


 「…どういう事だ?」


 「言ったままの通りだ。


 言葉だけでなく、態度もでかい、今も、そうやって男と学園探索なんかにうつつを抜かしている。


 お前が嫌いだ。


 だから…」


 オルナの睨みつける態度は嫌悪じゃなかった。


 もう憎悪だった。


 さすがにレフィーユも理由もわからないままだったので、睨み返していた。


 だが…。


 先に苛立ちが頂点に達したオルナは、もう答える気がなくなったのだろう。


 「試してやるからな…」


 そう言って不穏な空気を払拭する事のないまま、先にこの場を立ち去った。


 「知り合いですか?」


 「いや…」

 

 ため息を付いていたが、落胆していたのが見て取れた。


 そんな中を休憩終了前に鳴る予鈴が、この場の空気をようやく切り替えさせてくれた。


 「ふっ、いつまで経っても、ここでぼんやりしているワケにはいかんな。


 ところで六限目だが、お前も来るのか?」


 「ええ、『基礎体育』でしたね、確か治安部は『武道』でしたか…」


 そんな会話をしながら、オルナの立ち去る後ろ姿を見た。


 その時だった。


 「----------------------------------------------------------------------------------」


 一瞬、視界がまるでノイズの走る映像を捉えて目眩がした。


 「…どうした?」


 レフィーユにとっては、自分がほんの一瞬、立ち止まったようにしか見えなかったのだろう。


 この時の自分にとっても、それは気のせいかと思えたので…。


 「いえ、何でも…」


 『ジー』と動く監視カメラを見ながら、そう答えていた。



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