第二十二話
まだユカリはイワトを敵として見ているようだったので、自分は後部座席から身を乗り出し、この車両に取り付けられている拡張機が自分の声を大きくした。
「あ、あー。
聞こえますか、緊急事態発生です。
緊急事態発生。
苗木町、歓楽区にてモブと見られる暴動が発生。
治安部員は速やかに、鎮圧に当たってください。
なお、暴動の規模は現在わからない状況です、市民の皆様はすみやかに避難してください」
『繰り返します』と二人の耳にも届く頃、声の主が誰なのかわかったのか、
「フォード学園、治安部車両?」
「アイツ、あんなトコに隠れとったんか!!」
イワトの豪快に笑うのが見えた。
「うるさいですよ、イワトさん、今レフィーユさんにも通信入れました」
こう言うと、
「おう、お前は隠れとけ」
イワトは豪快に答えたが、ユカリは納得できないのか、
「呆れますわ、アナタも協力しなさい!!」
車に向かって、イラつきを見せる。
「ですから、こうやって避難誘導してるじゃないですか、代わりにオルナさんが出ます」
「おい、何を勝手に!?」
「緊急事態じゃないですか、こういう場合協力してくださいよ」
すると彼女は舌打ちをして、車から出て、制服をはぐって自分の席に放り込み、彼女は例のビキニ姿になるのだから、今度は自分が驚く番になった。
「それ、着込んでるのですか?」
「うるさい!!」
バンと勢い良く閉められたドアに車体が揺れるが、すでに彼女の手にはカイザーナックルが作られており。
彼女の付加能力である『体重移動』を生かした高速移動で一気に距離を詰めて、オルナがありえない威力を持つボディブロウが敵に突き刺さる。
「さすがレギュラーメンバー。
モブが増えようが、数にしてませんね」
そう素直に感想が出たが、
「困りますね」
そんな中、ゼジには冷たかった。
「どういう事でしょうか?」
「オルナさんは私たちの戦力なんです。
勝手に動かされては、今後の日程にも支障を来たすではあるというのです」
「目の前で事件が起きているのですよ?」
「ですが貴方はレフィーユさんに通信を入れたと、先ほど言ったではありませんか、それならば私たちがわざわざ出る必要もないというモノです」
「迅速な対応は事態解決を早めるだけでなく、事件解決に有効な手段だと聞いてますが?」
その時、ゼジはとても印象深く言う。
「それは自分の評価にはならないというモノです」
後部座席にいる自分はそれを聞いて、バックミラー越しにゼジを見ようとしたが、その時、彼がどういう顔をしているのかわからなかったが、
その横をレフィーユが駆け抜けた。
オルナとレフィーユが何も言わずに、背中を合わせているのを見てゼジは言った。
「さすがレフィーユさんです。
さっそうと現れ、迅速に敵を排除、事件を解決。
まるで理想のヒーローを具現したかのような方です。
言ってみれば私は、彼女になりたいのです」
「どういう事ですか?」
「この世に何人の人間が名前を残したいと思う、人間がいるというのです?
鍛練、努力、この二つの項目は結果を残すためというのなら、人は評価されるために生きているモノです。
私は心理学をもって、優秀な指示を出し。
彼女のように、私も評価をされたいと言いたいのですよ」
明らかにオルナがいないのを改めて見計らい、はっきりと口にしたので、これは彼の本心なのだと思えた。
「そのために、彼女の復讐心を利用すると言いたいのですか?」
そして彼は、自分がこの本心を口にしても磐石の備えがあると言わんばかりに、
「相互利益というモノです」
あくまでにこやかに、自分の問いに答え。
「オルナ、止めろ!!」
レフィーユの叫びが、視線を戻させた。
見ると現場はすでに終わっていたが、オルナは先ほどの腹部を殴られ動けないでいる相手の腕を絞り上げていた。
「もう勝負はついた!!」
「何を甘い事を言っている!!」
「これ以上は、過剰すぎる!!」
「『みんながやるからやった』
こいつ等はどうせ面白半分、興味半分で罪を犯すんだ。
『こんな事になるとは思わなかった』と言ってれば助かるとすむと思って、人様に迷惑が掛けるなら」
レフィーユは止めるが、相手にのしかかっているオルナは体重をさらに加え、相手を悶えさせた。
絞り上げた腕をへし折るつもりで、もう片方の腕を振り上げる。
「駄目です…」
だが、その前に自分がオルナの腕を止めていた。
「いくら犯罪者が憎いからと、そんな事をしては駄目ですよ」
「お前に何がわかる!!」
振り払うつもりで腕をオルナは振るう。
普段なら自分はそのまま振り払われるだろうが、
『彼女』、ジーナも見ているのだろう、本来の握力で彼女の腕を握っていた。
「お前に何が解る。
私たちが尋問したヤツらはみんな、さっきの言い逃れでみんな逃げる。
そして、数日後にはまた罪を犯す。
普通に過ごしている人間は、ただ怯えるしか出来ないんだぞ
無駄な事を繰り返すくらいなら…」
「駄目だと思っても、
無駄だと思っても、繰り返さないと伝わらない事だってあるのですよ」
「そんな事はない!!」
「ですが、人間が暴力に訴えるのは、間違いで、最大の『逃げ』です」
その時、オルナの動きが止まった。
「お前…」
ただオルナはじっと自分を見ていた。




