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第二話

 「おおお…」


 男子が唸るように…。


 「お、おおお…」


 女子も唸るのには、このトンネルを抜ける光景が相応しかった。


 『ようこそ、温泉の町、苗木町へ!!』


 という看板がデカデカと出迎えるように、みんなのテンションはさっきから上がりっぱなしだった。


 白鳳学園は、他校の交流会に出向く最中である。


 この交流会とは魔法が使えるようになって治安の悪化した、他の地域における治安維持の連携だけでなく、地域間の友好を深める事を目的とした。


学園間での旅行である。


 本来はその学園内の宿舎や、寮になどに泊まるのだが、ここ苗木町には温泉があった。


 そして、電車では出向いてはいるが、少し山を越えた場所にあるだけだったので、レフィーユは鶴の一声とばかりに言ったのだった。


 「ふっ、ここに温泉があるというなら、そこに泊まってみるというのはどうだろうか?」


 当然、学校関係者は、この旅館の前に集合しているフォード学園の生徒達のような顔をして、微妙な顔をしていた。


 しかし、レフィーユは冷静にこんな事を言う。


 「いくら緊急時に、全部学園頼みになるのは限界がある。


 ここには他の宿泊施設も充実してるのだから、その機能の充実もさせておく必要もあると思うのだ」


 これで首を縦に振るほど、学園側も甘くは無い。問題も山積みなのだ。


 「資金の方は、大丈夫だったのです?」


 フォード学園の生徒代表の男子が握手を求めながら、その問題を聞いていた。


 「ふっ、その費用なら私が全部負担したさ」


 丁寧な言動のこの男も、おそらく治安部なのだろうが少し呆れが見て取れる。


 掛けていたメガネを直していた。


 「ゼジ・クリストフ…さん…ね…。


 まあ、それで通ってしまうのも、いかがなモノなんですがね…。


 というより、レフィーユさん、どれだけ金持ちなんですか?」


 「こういう時に、あの人の『手当て』が気になるのう…」


 イワトが言う『手当て』というのは治安部の活動における。


 言ってみれば給料みたいなモノだが。


 この際、レフィーユが負担したのは、明らかに全面負担、全員個室という待遇をするのだから、こう呟いてしまう、一般人、二人だった。


 「ホント、お金持ちって、こういう時にお金、使いますよね…」


 この数日間で、痩せ細った身体が軽く軋む音がした。


 「と言うかアラバ。


 何か痩せとらんか…?」


 「いやあ、イワトさん、女性の前で、初恋の話をするモノじゃありませんよ」


 「ア、アラバ?」


 「いや、私もね。


 何もしなかったわけじゃないのですよ…。


 でも逃げても、空から円盤がやって来て。


 光線が、身体を吊し上げて…。

 

 牛と一緒に、貼り付けられて…」


 「ア、アラバ?」


 「レフィーユさんに混じって、妙に目の黒い人が、そこから記憶が無くなくなってて…」


 気が付くと、身体がガタガタと震えていた。


 「ま、まあ、がんばれや」


 イワトの一言は、暖かかったという。


 「ふっ、それでもお前は、話してくれなかったではないか?」


 そんな中を、挨拶も早々に打ち切らせたレフィーユがやって来ていた。


 旅館の個室の様子を『良い部屋だ』と評価しながら、また追求して来るかと思いもしたが。


 「いや、私も今回ばかりは反省している。


 少し、しつこかったと思う。


 悪かったな…」


 どうやら今回の反省とばかりに、温泉になったのだろう。


 「私も少し迂闊だったと思いますよ。


 『違う』と言えば、誰でも知ろうとするのは当たり前ですから。


 もう、この話は、やめにしましょう…」


 「そうだな…」


 その時、ノックがした、


 「はい?」


 と対応すると、そこに女の声がしてくる。


 「ちょっとプリントを渡し忘れていたので、すまないが開けて欲しいんだが?」


 いつものクセで素早く覗き穴から、様子を伺うと、先ほど見たフォード学園のカッター姿の、髪の短い綺麗な女性が立っていたのだが、ドアを開けた時、その彼女は息を飲んでいた。


 「……」


 「あ、あのどうしました?」


 そして、こうして実際に見ると、彼女はすぐに動けるような服装だったので、彼女も治安部の部員なのだとわかったが、その視線が後ろの方に行っていたのでレフィーユは言った。


 「ふっ、私は部屋の様子を見に来ただけだ」


 身長はレフィーユさんの胸くらいだろうか、だが、そのレフィーユを見上げる彼女は不快感を露わにしていた。


 「じゃあ、コレ…」


 そう言って、彼女は自分に視線を戻しプリントを渡す態度は少し投げやりだった。


 「……」


 彼女に何かしら因縁があるのかと思うのは、魔法使いだからだろうか。


 しかし、その不快感は自分を見る時でも、解かれる事はなかった。


 「な、何でしょうか?」


 その綺麗な顔立ちに似合わないくらいの不快感をそのままに自分を観察していたのが、さすがに失礼だと思ったのだろうか、そのまま去って行ったがレフィーユは言う。 


 「ふっ、話の流れ上、まさかアレが初恋の相手か?」


 「そうなると思うでしょうが…」


 彼女の名前は、オルナ・ヒータ。


 まったく見覚えも無く、聞いた事も無い名前でもあるので、一言で締めくくる。


 「初対面ですよ」


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