第十九話
「それは違うよ…」
サイトは、ゆっくり、ゆっくりと近づくと、彼女の細い眼が、さらに細くなる。
「どういう事だ?」
彼はどんどん間合いを詰めて、後ろにあるであろう東方術『鞭』の間合いではなくなっていたからだ。
「察しのとおり確かに俺らは、今からレフィーユさんと戦おうとしとるで、でもな」
いつものように彼の発言には、緊張感がなく。
「こういう場合『足止め』やなくて『殲滅』するためと考えた方が良いやろ?」
こう言うので思わず、レフィーユも笑みを浮かべていた。
「なるほど、確かにそっちの方がいい」
そして、彼女はサーベルを大きく構えた。
「良いだろう、それが出来るというのなら掛かって来るが…」
ゆったりといつもどおりのレフィーユが、腕を大きく広げ、まるで待ち構えるかのような態度。
だが、サイトが自分の頭上を見ていた事に、レフィーユは悪寒が走った。
悪い予感、それが彼女を伝えるように、視線の外のサイトは、鞭を車輪に巻きつけ自らの能力『伸縮』を利用してバックステップを見せる。
「何っ!?」
命取りとなるとも知らずにする、この反応は、人として当然の反応だった。
先ほどの場所が、爆発していた。
「ぬおっぐっ!!」
軽くずっこけながらサイトは、ぽっかりと穴の開いた道路を見て、
「作戦成功やっ!!」
キリウ、シリウにガッツポーズを見せる。
周囲の治安部は、何が起きたのかわからず驚いていた。
道路にはぽっかりと大きな穴、爆破現場を目の当たりにしているのだから、仕方がない言えるだろう。
そんな中、嬉々としてシリウは言った。
「キリウの力を高めて重くなった西方術、雷の玉を、僕の風で巻き上げて、レフィーユさんの頭上に落とす。
必殺のプラズマ・バンカー。
うまく言ったみたいだね」
「本来ならタイミングの難しい技なんやけど、双子だから出来る技やな」
「でも、どうして、そのままレフィーユさんにぶつけようとしたら駄目なの?」
「アラバはん、いくら俺が注意をそらした所で、おそらく反応されて避けられるって言ってたやろ」
もくもくとした煙を背後に、サイトは嬉々としていたが、まず最初に双子の笑顔が凍りついた。
「目の前にレフィーユさんがいる場合、攻撃をする場所は限られて来るんやってのも言ってたやろ、出来る限り後ろで…」
サイトが気付いたのと同時に、
「なるほど、確かに頭上への攻撃は、人間の反応範囲外だな」
彼の肩に、
「ああ…」
優しい感触が、彼を黙らせた。
「まさか、これが本命の攻撃だとはな、さすがはあの男の親友といったトコロだ。
では、私も最大のもてなしをせんとな…」
サイトの汗が一滴、アスファルトに溶け…。
サイトの身体がクルリと反転するのは、抵抗しているのだろうか、プロレスで言う、ダブルアームスープレックスの体勢にレフィーユは組み付いた。
そして…。
「うわ、うわ、ちょちょちょ…」
グルグルと振り回した、後にこの光景をみた治安部員は語る。
「いや、俺も未だに信じられないんだけんどさ。
あの時のサイト、足が宙に浮くくらい振り回されてたんだ」
別の治安部員は語る。
「ああ、そのまま高く空に放り投げてたよな」
その光景を思い出したのか、その部員は黙った。
「いや、自分でもおかしな事を言うかもしれないけどさ」
彼は困惑するのは当然だろう、次の光景はあまりにも飛躍していた。
レフィーユは投げ飛ばしたサイトを、追うように飛び上がり、投げ飛ばしたサイトを追い越したのだ。
その後にも、物理的に無理な事を部員達は口にしていた。
「…可能ですよ」
そこで取材班は彼女の事をよく知る、専門家に連絡がとれた。
「あの人が、魔法使いに対して、様々な体術を身に着けようとした時、漫画を参考にしていた事にありましてね」
自分の言った事に馬鹿馬鹿しさがあったのは自覚があったらしく、彼は苦笑混じりに言う。
「それは普段は出来ませんよ。
ですが、ある状況下。
時と場合によって、大まかな技が出来るのは事実ですよ」
その事を踏まえた時、この専門家は、部員達は口々にこう言った事を口にする。
「断頭台…」
落下するサイトにレフィーユが仕掛けた技の事だろう。
偶然にも、誰も打ち合わせをする事無く、言葉は一致していた。
「いえ、レフィーユさんが落下する際に、サイトの首に膝が乗っていましたからね」
そのまま地面に激突した時、サイトの両手だけが空に何度も痙攣していたのを思い出し、空気がひんやりとしていた。
「サイトさんは、断末魔の悲鳴すら上げれなかったでしょうね」
最後にバタリと倒れたサイトの最後の姿が、取材していた自分でも妙に脳裏に描き出される中、レフィーユは静かに通信を入れる。
「こちらレフィーユ、三名を始末した。
残りの二名は、ユカリ、お前が出会う可能性が高い。
出会い次第、戦闘を開始しろ」
レフィーユは『一名』を始末していたが、これは言い間違いではない。
「さて…」
サイトの屍を乗り越えるレフィーユが、実力の差を見せつけていた。




