第十三話
暑いので軽くバテ気味です
「いえ、何て言うか真面目にやってほしいですよ」
「何でやらないといけない?」
正直、オルナが目に付いたわけではない。
ただ…。
「ああ、面倒くせえ…
応急処置なんて、医療班に任せればいいんだよ」
アズだけでなく白鳳学園とは違い、こちらの治安部は授業に参加する気配すらなかった。
助けてレフィーユさんと、どうしても彼女の方を見てしまうが、肝心の彼女は明後日の方を見ていたので、オルナに手本を兼ねてやってほしいと思ったのだが。
「こんな事をやるより、私はアイツの事が知りたい」
「アイツ?」
惚けながら彼女の知りたい事を遠まわしに聞くと当然。
「決まっているだろう、魔法使いの事だ。
アイツの体術、どこで習ったモノなんだ?」
「私に聞かれましてもね…。
そういえば、オルナさんもボ…。
同じ様な戦い方をするみたいですが?」
ボクシングと思わず言いそうになって留まったのは、変な勘ぐりをされないためだ。
考えすぎなのではと思われるようだが、都合よく、オルナは説明するように言う。
「ボクシングって言ってな。
昔からあった西洋の武道だ。
昔は護身術目的にスポーツセンターなどでも、普通に習えたらしいけど…。
西方、東方術のような魔法が使えるようになった今じゃ、ボクシングは効率の悪いダイエット、エクササイズ。
習える場所は限られているんだ。
その理由は『武器を持った相手に近づいてはならない』という言葉くらい、聞いた事があるだろう?」
「魔法が使えるようになってから言われるようになった言葉でしたね。
『どんなに喧嘩の強い人でも、武器を持った相手には万人敵うわけではないから、武器を持った犯罪者を目にしたら、よほど優位な事が無い限り。
逃げる事を最優先にしなくてはならない』
防犯対策の教本にも書かれてる言葉でしたね」
「そうだ、私は両親が別れる事になって、偶然にもそこにボクシングを習う場所があったんだ。
それで、ヤツの出身やわかると思ったんだが、レフィーユもその程度の事は考えていただろう、無理なようだな」
じっとオルナは自分を見て、それに頷くと、
「戦ってみてわかった、あれほど高度なスキルの持ち主だとは思わなかった。
他の体術を使うとも聞いているが、レフィーユが手こずるのも頷ける」
少し機嫌が良くなるのは恨まれているとはいえ、自分の能力を評価しているからだろう。
そして、こう答えるしかなくなるのは、少し心が痛む。
「私の知っている事なんて、みんな知っている事ですよ」
「それでも構わない」
でも上機嫌なままなのは変わりないので、調子に乗って…
「じゃあ、授業の参加くらいしてくれませんか?」
気がつけば自分はこんな事を言っていた。
「……」
そして、オルナはしぶしぶ、人形相手に応急処置を始めるが、気がついた事があった。
「救護用の人形相手より、人で練習した方が良いですよ?」
悪気はなかったのだが、オルナに睨み付けられしまい、先ほどの威勢はなくなってしまう。
早い意気消沈だった。
「レフィーユから聞いてないのか?
私たちの学園の治安部は基本的に二人で行動する事が基本だ。
しかし、私は先の事件でそのパートナーを失ったと。
それで偶然にも、人数が偶数だったのに奇数になった。
私は…」
「一人になってしまったと…すいません」
「構うもんか、お前がそんな感情を抱けるのも、それだけレフィーユが優秀だからだ。
治安部をやっていれば、避けられない事なんだからな。
でも、妹に悪い事をしたと思っている」
「妹さんが?」
「…ルキスア・ネイ。
ジーナと同じ同級生でもあった。
そんな彼女を、私は死なせてしまった。
私は守れなかったんだ」
「中等部が同じ学園ですか…」
「ああ、彼女だけじゃない、この学園にいる生徒の多くは、妹の通っていた学園から流れて来た生徒が多い」
そう言って、アズを指し、ゼジも指すとほとんどが妹の通っていた学園の出身者が多かった。
「そして、私は妹の事件に関して自分の手で決着をつけたいと思ったから、この学園に転校したんだ」
そういう彼女の顔は真剣だった。
「まあ、恨みとか、普通に生きてきたお前には理解出来ないかも知れないな」
「いいえ、私も両親を事件で無くしてますから…。
その『恨み』とか、わからないでもないです」
「そうだったか…」
「確保の際、犯人は亡くなってしまいましたからね…。
でも、事件が風化するのは、あっという間で、虚しさすらあったのも覚えてますよ」
そして自分の西方術が『闇』だと知ったのは、その事件の数日後なのだから表情が曇った。
オルナは知って知らずか、
「きついな…」
と言う。
「でも、それで自分だけが不幸だと思う事が一番の不幸じゃないですか」
「えっ」
次の瞬間だった…。
「くっ!?」
オルナは頭を抱えていた。
「オ、オルナさん?」
「心配するな、目眩がしただけだ」
心配掛けまいとしたのだろう、オルナは軽く言うが、自分も思わず。
……。
後ろを振り返っていた。
だが確かに彼女がいた場所には、ちょうどゼジと目が合うだけだった。




