第十一話
四十代半ばで明らかに年上の男に『兄さん』と呼ばれた事が効いたのか、ようやく解放してくれたので、説明は後でする事を約束した。
自分も一旦、男湯にて身体を洗い終わり、湯船に浸かっていると。
「あの板前、何者だ。
あの眼光を見ただけでも、只者ではないのがわかったぞ?」
「……」
タオルを巻いた彼女が湯船に入って来た。
「ふっ、別に構わないだろう、今は『掃除中』だ」
そう言って、彼女は構う様子も無く、頭に載せたタオルをこっちに放り投げてきた。
その意図を感じるまでに時間は掛からなかったが、
「まあ見立てどおり、昔、名の知れた人ですよ。
魔法使いをやってた時に色々ありましてね」
「という事は、お前の正体を知っている、犯罪者か?」
「もう足を洗った人に、その言い方は良くありませんよ。
出会ったのは偶然ですが、進入経路を探していたら協力してくれたのですから。
というワケですので、あまり彼の事は探らないで下さいよ?」
「私はそこまで意地の悪い女と思うか?
だが、しかし…。
どうしてこっちを向かん?」
質問の意味を理解している上で、そんな事を言ってくる。
彼女の頭身は湯船ではっきりとわからないが、素肌はタオルより白いのではないのだろうかと思われるほど、白く、それは目のやり場に困るほどだった。
「一応、私にも羞恥くらいはあるのだがな?」
そういって近くに擦り寄って、彼女は手を重ねて来た。
「だが、あのオルナは、こういう羞恥も、かなぐり捨てている、困らされるものだ」
「あの人、頭抱えてましたけど、大丈夫だったのですか?」
「ああ、あの事件の後、大事を取って検査も受けたが大した事はなかった。
だが、問題は『後』だったがな」
「どうしたのですか?」
「汗を流すために、シャワールームに行くと言ったのはいいが、男共と一緒に浴びるのが彼女にとっては日常らしくてな。
イワト達は腰にタオル一枚で抗議に来るわで驚いたよ」
レフィーユは笑いはしていた、だがさすがに躊躇もしている。
「訓練の一環という表現といえば格好が付くのでしょうが…」
不思議とオルナが走って帰って行くトコロも思い浮かび、。
「全てはお前を倒すためとはいえ、女として言わせてもらうが痛々しいな」
男も同じだと思えた。
「多分ですが、シャワーの時、イワトさん達も笑ってなかったでしょうね?」
「だが、その訓練の一環も、いざ戦ってあの調子なら話にならんな。
一体、何が起きた?」
「それはわかりません。
ただ同じ戦法を取った瞬間、急に頭を抱えて…」
その時のオルナと同じ動作をとると、わかる事が一つあった。
「目眩を起こしてましたよね?」
「ボクシングにはそんな効果があるのか?」
「とんでもない、そんな事があったなら、スポーツとして成立してませんよ」
「普段はそういう事はないらしいが。
その調子をみて、何も知らないようだな」
そして、次の瞬間、単刀直入に言った。
「…ただ、あの瞬間、お前は別の方も向いていたな?」
「…そうでしたか?」
「お前はオルナの妹、ジーナには聞き覚えが『ある』と言った。
やましい事が無ければ、私の質問の意味がわかるはずだ」
「もう一度言う様ですが、私はやってませんよ…」
その一言を言うと、自分の手に力が篭もってしまう。
「それだけか?」
彼女はどう思ったのだろうかそれだけ言って、自分の手の甲を撫でて。
「どうせ調べなければならないといかん事だ。
ここで話しておいた方が、良い時もあるぞ?」
「……」
自分でも黙る事が、悪い返答だったのもわかっていたが。
「そうか、なら仕方ない」
彼女は何も言わず、コレだけを言った。
「でも、それでも私は味方だ。
忘れるな…」
それは、あまりにも優しく言うので。
「まったく、甘い人ですね…」
「ふっ、お前も私を甘いと言う、か…。
そうかも知れないな。
オルナは、この甘さがお前を倒せない理由に、そう言う。
だが、私はこの甘さが、私達の住む町のモラルを守ってきたと思っている」
「それが甘いかどうか知りませんがね。
確かに貴女の周辺の被害を考え、治安維持を行った姿勢は犯罪者にも『これ以上の事をやると、さらに痛い目にあう』という。
そんな考えを生じさせた事は。
私は貴女の凄いところだと思いますよ」
「だが、犯罪者はそれでも悪さをする。
私は犯罪は言う表現を取り払えてはいないだろう?」
「それでも自分達の町で起きてる犯罪には、凶悪さがなくなったのは確かですよ。
他の町では、自分達の想像を超えた犯罪があります。
全てはモラルを守ったからこそ、それは私には出来ない事なんですよ」
「ふっ、先ほどの捕縛に闇を使わず抜け出そうとしているお前もその一因というわけか?」
「茶化して言っているワケじゃないのですが…」
つい理由をもう一度、説明していると彼女は聞いているのかいないのか、
「いや、すまんな。
お前が私をどう見ているのか、珍しく聞けたのでな」
「さすがに失礼ですよ」
そう言って、湯上りの廊下を二人で歩くとムカイがやって来た。
「アラバの兄さん、お食事の用意は出来ておりやす」
「あっ、すいません」
「腕によりを掛けやしたので、お早めに上がってくだせえ」
去り行くムカイにレフィーユは言う。
「アラバのお兄さんか…」
「さすがにみんなの前で言うのは、やめてくれと言っているのですがね」
少し照れを見せながら自分の部屋に戻ると文字通り、腕によりを掛けた料理があった。
「いつもながら、相変わらず、凄い料理ですね…」
「いつも?」
「ええ、ここに来て、いつもですが?」
すると彼女は、少し睨んでいた。
「さすがは魔法使いだな…」




