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魔道具使いの物語  作者: b
~始まりの物語~
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第2話 師匠と執事

※7月6日誤字修正


 風箒をしまい居間に入ると大きな長方形のテーブルに置いてある皿の上の大量に積まれた洋菓子をつまみながらマグカップを口に傾けている師匠がいた。



「おおう、やっと戻って来たか。すまん、待ちきれんかった!」

「子供か、あんたは……」



 師匠はマグカップを置くと口の周りを汚しながらテーブルにもボロボロと食べかすを溢し、優雅というには程遠い格好で片肘をつきクッキーを頬張っていた。


 その横で師匠が最初に作ったという執事型ロボット、通称バトウさんがテーブルをせっせと布巾で拭きながら近くにいた雑用ロボに俺の飲み物を用意するように指示を出していた。俺を呼んだ後すぐにここに戻ってきたようだ。



「別にいいじゃろうが。バトウがお前さんを呼びに行って戻ってきてからだいぶ経つぞ? それに目の前にあたたかーい紅茶が既に用意されているのだ。紅茶が冷めてしまったら入れてくれた雑用ロボ1号に失礼だろう?」

「呼ばれてからそれほど時間は経ってないぞ、師匠」



 俺はそう言いながら席に着く。そしてテーブルの置いてある洋菓子の中からクッキーを手に取って口に放り込む。


 濃厚な甘みとサクサクとした食感がとても美味しい。一つ食べ終わった時、雑用ロボが紅茶を俺にも配ってくれた。少し口をつけると紅茶特有の香気と刺激的な渋みが口の中に広がる。甘いクッキーとの相性はバツグンだった。



「それと師匠、口の周りがかなり汚れてるぞ。爺さんのそんなおちゃめなシーンなんて気味が悪いだけだから早急に拭いてくれ」

「気味が悪い言うな!」



 師匠はバトウさんから布巾を奪い取るとガシガシと口元を拭いていく。あれ、その布巾……。



『ご主人サマ、その布巾は私が今さっきまでテーブルを拭いていた物デスガ』

「ぬおおお! 顔がベタつくぞ!?」



 あぁ、やっぱり。



「で、師匠。なんの用なんだ? 前に作ってたやつはもう完成したから手伝う必要もないだろ?」

「うう、吾輩の天才的な顔面が紅茶やらクッキーの食べカスやらでベタベタじゃ……」

「聞けよ」



 今度こそきれいなナプキンをバトウさんから渡され、師匠はそれを懐から出した魔法具で軽く湿らせると両手を使って顔を拭いていく。



「ふう……、これですっきりじゃ。で、なぜおまえさんを呼んだかだったかの?」

「一応聞いてはいたのか……。ああ、特に問題も起こしてないだろ? 最近は」

「確かに最近はのう……。昔はよくやらかしていたな……」



 そう言って遠い目をする師匠。まぁ確かに、ここに来た当初は俺もよくやらかしたもんだった。



「認めたくはないが、魔道具を作る才能だけは吾輩よりもあったからのう……。そのせいで調子に 乗って、しばしば失敗して魔道具を爆発させておったなぁ……」

「あれは俺も若かったって事で。それよりも、理由理由」



 正直この話を続けるのは恥ずかしいのでここに呼んだ理由を教えるように急かすと、師匠も続ける気はなかったようですぐに返事を返してくる。



「おお、分かった。──おまえさん、旅に出てみる気はないか?」

「──旅?」



 オウム返しに尋ねる俺に師匠は話を続ける。



「ああ、旅じゃ。おまえさん、この屋敷──というよりこの森から出たことないじゃろ?」

「まあそれはそうだけど……」



 師匠からそう問われ、俺は師匠の言いたいことが分からず困惑しながらそう返した。


 俺や師匠が住んでいる屋敷はある森の奥深くに建っていて、結界を張って周りから見えないことをいいことにとても大きく建てたらしいのだが、屋敷よりもその下にある地下室の方が数倍の面積がある。


 なんでも地下室を作るために掘り進めていたら思いのほか楽しくなってきてしまい、予定以上に広くなってしまったらしい。


 そこのほとんどの部屋は師匠の実験の道具だったり妙な機械類が場所を占めているのだが、ある一室だけ他の部屋とは違う雰囲気を発している部屋がある。


 その部屋には師匠の様々な記録などをまとめたものが年代順に並べられており、いわゆる“図書館”とも言える場所だった。

 師匠は見直すということをほとんどしないらしく、何か魔道具を作るときは紙にまとめるだけまとめてあとはこの部屋に放っておく──という物置状態になっていた。

 バトウさんがいなかったらほんとにごみ屋敷、もといごみ部屋となっていただろう。


 話を戻すが、そこには大量の魔道具についての資料がある。


 師匠からも色々教わってはいたが、それは道具作りにおける基本的なことだけで一年ほどで教わり終わってしまった。


 あとはその図書館で師匠が何を作っていたかなどを見て、自己流にアレンジを加えて俺だけの魔道具を作っていくということをほぼ毎日していた。

 そして自分のことを天才と言うだけあってそこにあった資料はわかりやすく、なおかつ事細やかに魔道具について書いてあった。


 それがあれば魔道具についての勉強は問題ないし特に不自由に感じたこともない。


 先日、全て読み終わってしまったがそのことと何か関係あるのだろうか?


 そう尋ねると師匠はため息をつきながらぶつぶつと何かつぶやきだした。



「……吾輩の数十年の苦労をほんの二年で読み解き、なおかつ理解しているとか……。もうほんとに魔道具に関してはもはやバケモノじゃのう……。吾輩、やんなっちゃう」

「師匠? そろそろボケてきたか?」

「ちゃうわい! まったく……。吾輩の見立てでは五年以上かけて基礎を教え込み、さらに十年かけて全てを継いでもらおうと思ったのに、おまえさんときたら一年で基礎をマスターし二年で吾輩の知識、技術を受け継ぎおって!」

「出来ちゃったんだからしょうがないだろうが!」



 師匠はテーブルを叩き身を乗り出して怒鳴ってくるが、理不尽なその言葉に俺もつい語尾を荒げてしまう。その衝撃でマグカップに残っていた紅茶が少しこぼれてしまうが、バトウさんが素早い動きでその水滴をふき取るとジト目になりながら師匠に声をかける。



『ご主人サマ、嫉妬は見苦しいデスヨ』

「うっ……」



 バトウさんにそう言われテーブルの上に突っ伏する師匠。しばらくそうしていたかと思えば急に立ち上がりこちらをビシィ! と効果音が付きそうな勢いで指してきた。



「とにかく! どうせ吾輩の資料をもってしても、おまえさんの目的の魔道具は作れなかったんじゃろう?」

「うっ……」



 今度は俺が唸る番だった。


 そう、俺の“元の世界に帰るための道具を作る”という当初の目的は達成されていない。師匠の記録を漁っても作ることはできなかったのだ。見落としているかもしれないと思ったからもう一度読み直そうかとも思ったんだけど……。



「おまえさんは魔道具関係ではありえんほどの集中力を発揮しておったから見落としているということもないじゃろ。そこで旅に出るのだ!」

「だからなぜ旅?」

「うむ。あえてこの屋敷から離れ様々な国を旅し、その国にある魔道具に関する資料を読み漁ってくるのだ!」



 そう言って胸を張りドヤ顔を決める師匠。うん、イラッとくるな。


 とりあえず紅茶のお代わりをもらいながら気になったことを師匠に聞いてみた。



「ズズッ……、ふう。でも師匠、前にあんた“ここ以上に魔道具に関して進んでいるところはない!”って言ってなかったっけ?」

「おう、言ったな」


 言っちゃあ悪いがここがもし最先端であるなら他の国に行く意味はない。言外にそう伝えると、師匠も紅茶のお代わりをもらいチビチビと飲みながら俺の質問に答える。



「だがの、時代というものはいつだって進んでいくものじゃ。昨日より今日、今日より明日。吾輩が作った道具だって明日になれば誰かに抜かされているかもしれん。まあ簡単に抜かされるつもりはないがの」

「……なるほどな。まあ、だいたいわかった。じゃあ準備してくるわ」



 俺は自分の部屋に向かおうと席を立つと師匠が呆れたように声をかけてきた。



「おまえさんもずいぶんあっさりと決めるのう……。もう少し悩んだりしてみてはどうじゃ?」

「俺だって悩む時は悩んでるさ。だけど今回はそういうことなら悩む必要もないだろ?」



 世界を回ることによって帰れる方法が見つかるのだったらいくらだって回ってやる。その意思を師匠は感じ取ったようでため息一つつき席に腰を掛け直した。



「ふう……。吾輩が言っておいてなんだが、ここも寂しくなりそうじゃ……」

「あれ? 師匠はついてこないのか?」

「おう、吾輩は屋敷に残る。ここを空けるわけにはいかないからの」



 当然じゃろ? とでも言うようにこちらを見てくる師匠。そうか、来ないのか……。



「なんじゃなんじゃ? 吾輩がいかなくて寂しいのか? ん? ん?」

「いや、お金の価値やらこの世界の常識やらについて道中で聞こうと思ったんだが……。来ないんだったらそこら辺の常識の勉強も兼ねて一週間後に出発することにするよ」



 この世界で習ったことは魔道具の作り方と文字の書き方くらいだからなー、と呟きながら俺は部屋を出た。



「………………」

『マァマァ、コレで涙を拭いてクダサイ』

「泣いとらんわ!」



 俺が部屋を出ていった後、そんな会話があったとか無かったとか。


 とりあえず3話分。

 あとは今日の0時に一つ予約投稿しときました。

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