第19話 忍、腕輪、高波
※7月9日言葉づかい修正
独特な文化が発達しており、周りは海に囲まれた国、アマト。
月の光が闇夜を照らす中、その国の海沿いに土地を構えている隠密行動に優れた部族──飛影族の集落のとある部屋で、やっと少女という枠を超え女性という言葉が合うようになってきた一人の女の子と、腕を組んで何かを悩んでいる男と老人の二人によってこんな会話が繰り広げられていた。
「父上。明日の船出に参加することを許可していただき、まことに感謝申し上げる!」
「うむぅ……。なぁ飛燕よ、お主考え直したりは……?」
「しません! 先日やっと師匠に合格を貰いました。拙者は師匠に認めてもらった時、異境の地にて自分の力を試してみたいとずっと心に決めておりましたので!」
そう言って人より少し大きめの胸を張る女の子──飛燕。その嬉しそうな顔を見て、二人の男は顔を近づけこそこそと話し出した。
「おいぃ!? 貴様、何をやっとるか! 弟子に厳しいお前なら俺の娘を合格させる事などないと思ってたのに! 合格させなければ娘はここから離れないというのに!」
「仕方なかろう! 飛燕はわしが見てきた弟子の中で、一番出来の良かった奴が霞むほどの才能の持ち主じゃぞ!? わしだって今まで行ってきた修行より数倍はキツイものをさせてきたつもりじゃ。それで根を上げるかと思いきや、しっかりとついてきおる! 才能と相まって今ではわしでも本気で相手をしないときつくなってきたほどじゃ!」
「くそぅ……娘の成長を喜ぶべきか、娘が行ってしまう事を悲しむべきか……」
「いい加減に娘離れせんかい、お主は……」
飛燕に気づかれないように、密かに涙を流す男とその様子を呆れた表情で見る老人。何を話しているのか分からなかった飛燕は、屈託なく笑いながら二人に声をかけ立ち上がる。
「父上! 師匠! では拙者は明日に備え、寝ることにする! おやすみなさい!」
そう言って部屋から出て行ってしまう。飛燕がいなくなった直後、男は顔を俯かせ静かに震えていた。
「うぅ……こんな事なら『お前の師匠から合格を貰ったら異境の地探索の同行を許可しよう!』なんて言わなければよかった……。もし危険な目にあったら……」
「天下の飛影族の頭領ともあろう奴がうじうじとめんどくさいのう……心配せんでも飛燕は大丈夫じゃ。強さでいったら歴代の忍び達の中で最強の部類に入るんじゃぞ?」
「そりゃあ俺の娘だからな!」
「立ち直り早いのう……」
そして次の日。天気の様子はと言えば、特に大きな雨雲が見える訳でもなく船を出すにはなんら問題がない天候だった。
飛燕が忍装束を着て装備の確認をしていると、部屋のドアがノックされた。返事をすると飛燕の母が入ってきた。
「飛燕ちゃん、調子はどう?」
「母上! 拙者はそれはもう絶好調すぎるほど!」
そう言ってその場で軽くクナイを投げる。部屋に飾ってあった的の真ん中に当てると飛燕は自信ありげに母親の方を見た。母親はその様子を見てクスクスと口に手をあて笑いながら、懐からあるものを取り出した。
「ふふふ……それなら大丈夫そうね。あとこれ、飛燕ちゃんに贈り物」
「……? なんですこれ?」
「開けてみればわかるわ」
飛燕はなんだろうかと思いながらも、渡された箱を開ける。するとそこには黒塗りのブレスレットが入っていた。
「わぁ……」
「どう?」
「すごく嬉しいよ母上!」
すぐさま飛燕はそのブレスレットを腕につけてみた。最初は隙間が大きかったそれはだんだんと自分の腕に合ってきている気がする。
不思議に思い母親の方を見てみると笑って理由を説明してくれた。
「それはね、私の特別製なの。腕は痛くない?」
「全然気にならないよ!」
「そう、よかった。後、その腕輪に忍力を込めると鋼糸が出るようになっているわ。確か鋼糸の使い方も習っていたわよね?」
「はい、しっかりと!」
「なら存分に使ってちょうだいね」
飛燕の母はそう言うと部屋を出て行った。飛燕は貰ったブレスレットを眺め思わずニヤニヤしてしまうが、時計を見るとかなりの時間が立っていたらしく出航の時刻がかなり近くなっている。飛燕は慌ててもう一度装備を確認し、部屋から飛び出した。
家を出て急いで港に向かうと、既に用意が済んでいたらしくあとは飛燕が乗るだけだった。遅れたことを謝りながら、飛燕が船に乗るとすぐに船が進みだす。
甲板から港を見ると父や母、師匠や友人などが集まって手を振っていた。それに気づき飛燕は少し涙目になりながらも思いっきり手を振りかえす。
「行ってくるねー!」
だんだんとみんなの姿が小さくなる。そして完全に見えなくなった時、飛燕は自分に活を入れるように深呼吸をすると決意を胸に自分にあてがわれた部屋に戻っていくのだった。
しかしその数時間後。船は大嵐に巻き込まれていた。
「おい! そっち早く帆をたため! 折れちまうぞ!」
「今やってる!」
「拙者も何か手伝う!」
「ああ、頼む! くそっ、急にこんな天気になるなんてついてねぇぜ!」
空はいつの間にか真っ黒に染まり、波は盛大に荒れている。篠突くような雨が降りしきる中、飛燕は船員の手伝いを進んでしていたのだが──
「ちっ、あと少しで陸が見えるって時……に……」
「嘘だろ……」
そこに発生していたのは巨大な高波。
明らかに飲み込まれたら終わりだと分かるほどの大きさで、それを見た船員はあまりの大きさに言葉を失っていた。飛燕もその高波を見ながら、腕につけたブレスレットを包むように握る。
(父上……母上……師匠……みんな……)
集落にいる家族や友達の顔を思い浮かべながら飛燕は目を閉じた。高波はもうすぐそこまで迫ってきている。
(目的が果たせないまま終わってしまうとは……拙者は運がなかったのだな……)
閉じた目から一筋の涙が零れ落ちると同時に、高波は船を押しつぶす。海に投げ出された飛燕は、高波に揺られ平衡感覚を失いながら眠るように意識を失った。




