6月29日
訳の分からない方向に転がっている小説ナンバーワンな気がしてきましたが、更新しました。今回もまったりとおつき合いください。
誤字脱字等ありましたらご連絡ください……
6月29日。
天気は晴れ。
気温は昨日よりやや高め。駅から日光を遮るような影を、灼熱地獄と化すアスファルトの地面に投げかけるようなものがない通学路は、朝だというのに既に目眩がするほど暑かった。
とかく、ネクタイがうざい。教室に入ったらすぐに外そうそうしよう。
湿度の高い、茹だるような暑さになんだか朦朧としてきた頭を抱えて、階段を上る。
「うーす」
「おっす」
と、教室の前で中都方と出会った。
顔を見るや、彼は第一声に礼をぶつけてきた。
「昨日はサンキューな、買い物つきあってくれて」
「おお、いいってことよ。喜んでもらえたか?」
「ばーか、ヒカルの誕生日は昨日じゃねーって」
「そうかだが俺がんなこと知るかっつーの」
「三日後だよ、覚えとけ!」
「そうか、よし、忘れた」
「最低だ!お前マジ最低だ!」
「るせーな、人の妹の誕生日なんか知らねーよ」
っていうか、俺は今の今までお前の妹の名前が“ヒカル”だってことさえ知らなかったよ?と言ってやりたくて仕方なかった俺だった。
「はいはい通行の邪魔だからどきやがれー」
「「でた。横暴娘」」
「ハモるな気持ち悪い!」
「またの名を駆動式クラスター爆弾倉庫」
「でなきゃ歩く核爆弾だよな」
「時限爆弾じゃねえだけマシか?下手にイジると危険ってやつ」
「バカ、津岡は地雷だよ。踏むもイジるも即効だ」
「聞いてりゃ好き勝手……お前ら人を危険物処理班に回す気かー!」
「津岡……ただでさえ暑くてダルい朝なんだから、頼むから、怒鳴ってくれるな」
あー…耳がキーンってなってやがる。
横暴娘、の呼び名に振り向いて怒鳴ったのは津岡ミヤノ。小柄の割に声がでかい。そしてリアクションもでかいので、はっきり言っていじりがいがある、隣のクラスのお騒がせ少女。全身ツッコミ待ち少女とも言える、俺と中都方のカモ……いや、この発言はなかったことにしよう。
「ほんっと、どこまでいじるの!いい加減にしてよ!」
「だって、なあ?」
「なあ」
思わず顔を見合わせる中都方と俺。いじっておもしろい物をいじって何が悪いというのだろうか。
「ハイほらそこの三人、邪魔だよ」
その声に振り返れば、鞄をひっさげて船上が気怠そうに立っていた。
「ミヤノ、お前っていつもイジられてるよね……」
「あっ、エミ!おはよーっ」
「よっす。船上、昨日はありがとな、買い物つきあってくれてさ」
中都方が船上にもそう声をかける。
「いえいえ、ノープロブレムってやつですよ」
「あれ?松部は今日は一緒じゃねえの?」
いつもは船上と一緒に登校してきている松部の姿がなかった。一瞬、昨日無理に誘ったことが仇となって体調を崩したのではないかと危惧したが(実際ひっくり返ってたし…)、「ああ、ユーナなら明後日まで定期検診で検査入院だって」と言う船上の言葉に少しだけ安堵した。しかし、健康診断一つで入院騒ぎか……
「あの子も大変だよねー」
「だな」
「メンツ濃いな……お前ら、そろそろ本格的に通行の邪魔だぞ。せめて鞄くらい置いてこいよ……」
呆れ顔で登校してきたのは渡登トモキだった。これで、俺が連んでいるメンバーが、松部を抜いて揃ってしまったというわけだ。
「そういや、電車止まってたぜ」
「え、マジ?」
「なんか、法改正要求の過激派が役所の建物に投げ込んだ火炎瓶が逸れて、線路上で爆発したんだとよ」
「はー…朝からご苦労なこった」
それにしても火炎瓶か…えらい過激派がいたもんだ。そういうのがいるから改正派っつーのが一括して偏見の目で見られたりすんだよな……そういうのもいずれ引き込まなきゃなんねーんだろうけどよ……
「ホント、過激派って多いよねー。別に良くない?そこまで言わなくても、今んとこ安全なんでしょ?」
津岡がきびきびと言う。
「ウチなんか、絶対避難しなくてもいいと思った地域なんだよ?なのに、避難が義務化しちゃって、ウチだけこっちに来なくちゃならなくて……だって、ウチが住んでたのは研究所の風上だし、結構離れてるし。政府が安全って言ってるなら安全なんじゃないの?」
「そうとも言い切れねーんじゃねーの?」
「だって、そんなん疑ってたらキリ無いじゃん。ナカツーは政府の言うことは一つも信じないの?政府が言ったことは全部嘘だと思ってるの?」
言い返した中都方に言い返した津岡の言葉に、俺は口をつぐんだ。
確かにそうだ。
今の政府には疑るべき点があまりに多すぎる。疑るべき、というより、信用できない点、とでも言うべきだろうか。
この間もまた、閣僚クラスの大物政治家が献金問題で叩かれていた。…彼は、国会議員の中でも、数少ない改正派で、唯一公の場でまともな意見を言い続けた人物だった。一度、俺らの請願デモにも内密にエールをくれていた人物でもあったから、正直裏切られた気がしてるんだよなぁ。あの調子じゃ、罷免されるのも時間の問題っぽいし……
「まあ、政府ってのは国民の安全を保証してくれるんだろ?鵜呑みはどうかと思うが、ある程度までは信頼していいんじゃねえか?」
「そのある程度が難しいんじゃないの?とあたしは思うけど」
渡登の言葉尻をとらえるようにして、船上が口を挟む。
「でもエミ、事故があったからって全部疑うようになるのはアレじゃない?神経質すぎるって言うかさ」
「でも、それは……私はそうは思わないけど」
船上の視線が困惑気味に泳いで、珍しく俺に助けを求めてきた。
ああそうだよ。
船上に、《SIR》に許された範囲の情報を先回りして流して、どちらかと言えば反政府派に引き込んだのは俺だよ。だからってそんな目で俺を見るなって……
まあ……助けを求められたからにはある程度応じるか……
「まあ、さ、いろんな意見があるんだってことにしとこうぜ。どっかの詩人も言ってるじゃねえか、みんな違ってみんないい……だっけ?十人十色のお気楽主義で行こうぜ」
「横路ってバカみたいな意見多いよねー。言うこと間違ってるわけじゃないんだけどさー」
「津岡……狩るぞ」
「やれるもんならやってみな!」
「おーし、わかった、望むところだ。貴様そこに正座しろ」
「おーい、ホームルーム始めるぞ」
津岡と俺が同時に手刀を繰り出す構えに移行したところで、予鈴が鳴り、担任が廊下の向こうからやってくる。俺らは担任に追われるようにして教室へ入った。
それにしても、今日は妙に暑い日だった。
雨の降らないこの街は、梅雨の概念がないため微妙に季節感が狂う。気がついたら夏という感覚は、十年目のことだった。
「タク……あ、いた」
「んあー…船上か」
いつものように屋上で近現代史学の授業をサボっていた俺のもとに、これもまたいつものように船上が訪ねてきた。
…ってあれ?まだ授業中?
時計は15分ほど授業を残していた。
「サボってきちゃった」
「珍しいな」
「そう?」
「少なくとも昨日は授業を受けろと俺に言っていた」
「そっか…そうだったね」
でも、実はここまで出れば、うちの学校は出席簿には「出席」がつくんだよ。そう言って船上は笑った。
「あれね?保健室行ってきますって、そんなに疑われないで使える手段なんだね」
「おう。女子ならその難易度はさらに下がる」
…ってそうじゃなくて。
「何?何かあったの?」
「へ?……あたし?なんにもないけど?」
「お前、性格きついけど嘘つくの下手だよな、昔から」
「……これだからあたし幼なじみ嫌いなのよ」
叩きつけるように船上はそう言うと、一人分の間をあけて俺の横に寝そべった。
「でも、なんもないよ。ちょっと授業に輿が乗らなかっただけ」
「ほー?」
それはますます珍しい話だ。どれだけ輿が乗らなくとも、授業の欠席だけはしないこいつがなぁ?…あ、一応評価は「出席」か。けれど、途中抜けなどあり得ない話だ。
俺は、一度、内心に転がっている本心を蹴飛ばす。
「よっぽどクズだったんだな」
「まあね」
「今朝の再演でもやったのか?」
「そんな感じ」
会話がどんどん短くなる。
「で?」
「なによ」
「話があるんじゃねえの?」
「ないよ」
沈黙。
しばらく黙ったまま、俺と船上は屋上に寝そべっていた。初夏の風がやたら額に気持ちいい。
「…………」
「…………」
うわあ。
いくら俺とこいつが幼なじみでもこれは気まずい。これはめちゃくちゃ気まずい。ちょっとどうしようかってくらい気まずい。
「…………」
「…………」
いやぁ……気まずいのなんの。やりきれなくなって目を閉じると、暑さだけがやたらと強調された。
「…………」
「…………」
まあ……ただこいつ、黙ってると勝手に喋ってくれることあるからな。待つか。
俺は腹を決めて目を開けて、再び閉じた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
あれ?もしかして、話す気無い……?
「あのさ……今朝のことなんだけど」
「お、おう」
そう思っていたらようやく向こうから話しかけてきた。しかし、予測はしていたが、切り出しが重い。
「ありがと」
「お?おう……」
「あれ、あたしじゃ言い返せなかった」
「俺だって言い返したわけじゃねえんだけど」
「ま、ね」
それからまたしばらくの沈黙。その会話の空白を埋めるように、初夏の空気が俺達の間を通り過ぎる。
「あたしさ、根っからの反対派じゃないからさ」
しばらくして船上が再び口を開いた。
「ああいうのって、自分の意志が伴わないとダメなんだよね」
「まあ……な」
俺は昔から、政治家は社会の反面教師、閣僚なんかクソ食らえみたいな家庭で育ってきたから、反政府の意志を固めるのはたやすかった。だからこそ、《SIR》みたいな組織にいるのだが。
「タクは、昔から政治家嫌いだったもんね」
「まーな」
「タクの家自体そもそも反政府運動家の家だったもんね」
「デモ隊の先頭切ったりな」
「だよね」
「お前の家はどっちでもねえんだよな」
「うん」
ひとしきりそんな話をして、また黙り込む。妙な沈黙。
そろそろチャイムも鳴ろうかという頃。船上が急に体を起こす。
「やっぱり、環境って大きいよね」
「…………」
何が言いたい?
単純明快で、率直な意見の多いアイツの発言が、俺には読めなかった。
「ねえ」
「あん?」
「あたしら、これからどんな環境の中を生きていくの?」
船上の方を見る。目が合った。
真っ直ぐな目が俺に向けられていた。
少し眉をひそめた、誰とも言わない、けれど、誰かを責めるような視線。
咎めるようなその視線は誰に向けられているのだろうか。
「船上……」
「タクに聞いても仕方ないんだけどね。わかってるよ。 でも……どうしてこんなことになっちゃったのかなぁ……」
その言葉は誰に向けられたのか。
住んでいた町を離れ、親からも離れ、何が起きたかわからないままに避難が続く。地上では何が起こったのか知らされないまま。情報は完全に上層部の統制下。時々下ろされてくる情報もあるが、果たしてそれが正しいのかさえわからない。
真相という、抗議のための武器は、俺達にはなかった。
「……こどもって、選択肢ないなぁ」
誰が聞くでもなく、彼女は呟いていた。
俺は、とうとうあいつの問いかけに答えられずじまいだった。
昼休み。
弁当を食っていた俺の携帯に、メールが届いた。
「…ん?」
差出人不明。なんだこりゃ。とりあえず開けてみると、内容は簡単な物だった。
下のURLにアクセスしてみてください。
書かれている内容が信用できたなら、このURLを添付して、5人に転送してください。
少しでも多くの人に、広めたいんです。
お願いします。
http://www.……
以下、URLが続いていた。
「チェーンメールか……」
こういう手の物って悪質なもんが多いからな……とりあえず俺は携帯を閉じた。だが、ふと、URLの先が気になって、もう一度URLを見る。見るのは末尾。
「え……っと?これって……」
末尾の文字は、地上で使われているアドレスのものだった。
実は、地下のネットワークと地上のネットワークは別ルートで組まれている。
地上のインターネットと地下のインターネットは直結していない。故に、URLを見れば、それが地上のネット系統で組まれていたものか、地下のネット系統でくまれていた物がすぐにわかる仕組みである。
……って言っても、ほんのわずかな違いだから、結構露骨でも見過ごしてる奴の方が多いんだけどな。
まあ、地上のサイトとかが全く見られないわけではない。
……地下におろされる前に、執拗なフィルタリングをかけられているだけで。
地下と地上を繋ぐのが大手企業だが、政府の息がかかりまくっているのではないかという噂がまことしやかに立っている。そうでもしなければ、このフィルタリングのしつこさの説明は付かないからだ。
事故に関する情報はいっさい見られない。デモなんかのお知らせは、ウィルス扱い。コミュニケーションシステムを使えば、そう言う発言が消えていく。
俺なんか、お袋に事故現場って今どうなってんの?って聞いただけで、サーバーから山のような警告文が届きやがった。返信も、半分くらい文字化けしていて、読めたもんじゃない。
ったく……戦時中の検閲かっつーの。
で、こんな説明をして、何が言いたいのかというと。
そんな大手企業の作ったシステムの目をすり抜けてここにメールを飛ばしてきた、この送り主は誰なのか、ということだ。
俺達だって、ハッキングするときは細心の注意を払う。はっきり言って違法行為以外の何物でもないからだ。《SIR》のトップにいる大学生5人のうち、実に4人がエンジニア志望の工学部の、セキュリティーシステムオタク。プログラム開発も破壊もお手の物。既に、その手のソフトウェア会社にヘッドハンティングされた人もいる。
そこまでして、ようやく地上と繋いでいるのである。
だから、一般人がそう簡単に地下にURLなどの情報を送れるはずがないのだ……誰だ、コイツ。
ガッ!
「いってぇ!」
脳天に落ちてくる人の拳。頭割られたかと思った……
若干の涙目で上を見上げると、中都方が携帯を片手に俺を見下ろしていた。
「おい、横路。お前返事くらいしろよ」
「へ?」
「さっきから何回呼ばせるつもりだよっての」
「なんだ、中都方か」
「なんだってなんだよ…」
「今俺それどころじゃねーの」
「メールか?」
その言葉に、うなじが逆立った。
弾かれるように顔を上げると、中都方が携帯の画面を俺の鼻先にぐい、と押しつけてくる。画面を見れば、一字一句違わぬメールが液晶画面に表示されている。
「お前も?」
「ああ。これ、どう思うよ」
「どう…どうってなぁ……」
どうもこうも、かなり無理があるやり方ではある気がする。こんな、チェーンメールじみた方法が果たして成功するとも思えない。おそらく、素人の考えだ。……だが。
「バックアップはトーシロの仕業じゃあねえよな」
俺の言葉に、中都方も相槌を打った。
「滅多にこねえよな。つーか、地上からって時点でいろいろ疑いたいぜ」
「監視の目、すり抜けてるもんな……文章とかはまるっきり素人の仕事だと思うが…」
「後ろは……地上の支部か?」
「まさか。それなら携帯なんかに送ってこねーよ。それに、こんな広まりの遅い方法なんか使わないだろうな……」
そうだ……《SIR》のネットワークは実は怖い…というか、えげつないところがある。横の広さとか横の広さとかな……世界に展開するF*c*bookに匹敵するとも言われている…しかも、それを信じられるから恐ろしい。目指すところは世界の諜報部かっての……。
「何にせよ、このURLにアクセスする価値はありそうだな。まともななにかかもしれない」
「携帯から行くか?」
「んな危険極まりないことできるかっつの」
と言ったところで、家のパソコンから繋いだからと言って安全とは言い切れないんだよなぁ……
攻め倦ねていた俺の前に、中都方が一枚のカードを差し出してきた。どこかのポイントカードのようだ。
「なにこれ」
「駅前のネットカフェ」
「だからって……はあん」
「そゆこと」
「放課後でいいか?」
「オッケー」
そうか、個人のパソコンから繋がなきゃいい話か。…そういうわけでもないが。
本当は、俺が恐れていたのはこのURLの存在が地下ネットワークで知られ、広まり、やがてその存在が地上のフィルタリングに引っかかってしまうことなのだが。まあ、それよりも今のこのご時世、個人特定されたら何があったもんかわかりゃしねえからな。
「じゃ、ホームルーム終わったら、すぐってことで」
俺と中都方はそう言葉を交わして再び昼飯に戻った。
そういえば、船上の姿が見えない。他のクラスにいるかと思って一通り教室を覗いてみたが、どこにもいなかった。
「どうしてこんなことになっちゃったんだろう、か」
俺はやはり、その問いには答えられなかった。
《通達》
新都市法改正により、避難義務年齢と情報システムに大幅な改正あり。変更点の概要と注意事項について、下記参照。
1.避難義務年齢の変更
下は三歳から、上は二十二歳までとする。本人の意思が伴わなくとも、義務的な避難を必要とする。また、保護者は非保護者を避難させる義務を負う。
違反した場合は百万円以下の罰金または五年以下の懲役とする。
ならびに、人口増加に伴い、今後、地下都市の拡張等を検討中。新都市に住む諸君には不便を強いることとなるが、ご理解いただきたい。
2.情報管理について
国民全体の要望により、事故現場の現状等、事故に関する情報、中間報告を公表する。
公表内容は公正な第三者機関によるもので、そこでの数値、計画などは政府の公式発表とする。
一部、青少年健全育成法抵触が懸念される物については、年齢制限を設けての公表とする。
年齢制限、また、政府の禁止した情報を閲覧、発信したことが発覚した場合は、一千万円以下の罰金または十年以下の懲役とする。
以上
「なんだこれ」
学校が出すにしちゃあえらい堅い文だと首を傾げたら、文責は政府某省庁だった。ご丁寧にまあ、刑罰まで……
帰りのホームルーム。
一斉に配られた通達文。
俺はざっと目を通し、適当に折り畳んでポケットに突っ込んだ。
紙飛行機にならないだけマシだろ。
いつの間にか姿を現した船上は、どこか怯えた目でその紙を見て、目を泳がせた。
中都方は、よく飛ぶ紙飛行機を折りあげて、そして俺に投げてよこした。案の定、副担任の目に留まって、説教と相成った。
「お前やっぱバカだろ」
「紙屑を紙屑らしく扱って何が悪いんだよ」
「ばーか、先公の目にとまんねーようにうまくやんなきゃならねーだろっての。内職と一緒!」
「へいへい…っと。ってか、お前やっぱ内職してたか」
「おう。当然だ」
苦笑する中都方にぐい、と親指を突き出す。突き出したら、小突かれた。まあいいさ。
「しかし、あのURLはプリントのなんとか法にひっかかんねーのかな」
「今日ならまだ大丈夫だろ」
多分。
もし、この情報が上でめちゃくちゃ広まっていて、それに危機感を覚えての法でなければな……既に施行されている可能性まで俺は危惧してしまった。癖だな。まあ……半ば恐れていたとおりになってる訳なんだが。
そうこうしているうちに、目的地に到着。
受付を済ませて――俺は初めて来たから会員登録も済ませて――受付店員の営業スマイルに見送られて、冷却ファンの低い音が籠もる店内へ。さほど広くない店内には冷房がよく効いていた。
「じゃ」
「おう」
俺と中都方は別々の個室に入る。フラットタイプの一畳間。意外と快適。
「さて……」
パソコンを起動してインターネットを起動。画面上部に添付されてきたURLを打ち込み、検索をかける。
ん……重いなこのページ。
なかなか開かないページを見ながら、隣の個室の壁を叩く。中都方からの「なに?」という返事を待って、俺は続けた。
「ナカツー、このページいやに重いぜ」
「マジか……あ、ほんとだ」
俺が声をかけると彼でも結果は同じだった。試しに別のページを開いてみたが、こちらはすんなりと開く。
……しゃーねーか。たぶん、幾重にもかけられたフィルタリングの網目をなかなかくぐり抜けられないでいるのだろう。一筋縄じゃあやっぱ無理だよなぁ。
「ナカツー、繋がったか?」
「まだだめだ。なんだこれ、クソ重いぜ」
「OKー。多分時間かかるぜ。それこそ待ってる間にモンスターが狩れちまう」
「オレは待ってみるが」
「ふーん……ま、じゃあ、頑張れ?」
根気あるなぁ……
見られないのなら、と俺は諦めて別のサイトを見始めた。心なしか、いつもの情報サイトが候補の下の方にあった。
俺は結局中都方より早く引き上げた。 未明にSIRの会議があるためだ。早めに帰って一眠りしとかないと、貫徹になっちまうからな。
夕飯を買って帰宅。風呂に入り、それを食べながら、俺はさっき繋ぐことを断念したサイトへもう一度のアクセスを試みる。が、やはりうまくいかない。
「やってみるか……」
サイドボードの引き出しをあさり、USBメモリのついたアンテナを取り出し、USBポートに差し込む。このアンテナとUSBメモリの中にある小型のハードウエアを使って、SIR本部の(違法な)スパコンに繋ぐのだ。
え?法はどうしたか?いや、マニアが趣味でコンピューター組み立てたらスパコンになっちまったってだけの話だ。こっちが組み立てたのはコンピューターなんだから、申請はしないってことで?
……違法なことをしてまで自分の未来を守るのかと笑いたいのなら笑えばいい。こっちが法律違反なら、向こうは憲法違反だ。……と。まあ…いいさ。とりあえずこのURL……
「っだああ!繋がらねえええ!」
結果は惨敗。
どうやら、本格的にブロックをかけられているらしく、「このページは表示できません」の表示ばかりが画面の上で踊る。くそっ……何が書いてあるんだこのページ……。
けど、ここまで執拗にブロックされるってことは、簡単に見られちゃ困るってことだよな。…てことは、そこそこ重要な情報が記されているに違いない。仕方ない、大学生のお兄さんの出番ってことにするか。
どうせこのあと会議がある。
そこで議題に上げるのも悪くないだろう。
俺は、独力での接続を諦め、体を床に放り出した。体を横たえた瞬間に、どっと一日の疲れがのしかかってくる。
眠い。
目を閉じたとたん、俺は睡魔に襲われた。寝るしかない。目覚まし時計を明朝未明にセットして、俺はベッドに飛び込んだ。
会議まで六時間は眠れる、と思った瞬間に、俺はあっさりと眠りに落ちた。
同じ頃。
船上エミはやはり横路や中都方と同じように送られてきたURLを打ち込んで、表示されたページに愕然とした。
何故彼女のパソコンは繋がったのかはわからない。ただ、ちょっとした偶然が作用しただけ。
「……ど、どうしよう。これって、タクとかに知らせた方がいいのかな……」
狼狽えながら携帯電話を握りしめる。しかし、このURLを伝えたところで彼が信頼するだろうか?
そもそも、これを自分が信じなくてはいけない道理もない。
情報の出所も確かではない。
信頼性無しと一蹴もできないが、信憑性は今一つ。
だが、説得力はあるし、矛盾もない。
でも……
「どうしよう……」
迷った挙げ句、彼女は自分のブログのページを開き、文章を打ち込み、ブログを更新した。
《謎のURL》
なんかめっちゃ意味わかんないURL届いたー
イタメかなー
これどう思う?
ってか、これと同じの届いた人いる?
みんなに一斉に届いてたらただのイタメ越えるよねw
とか思うw
ちなみにあたしは昼頃受信v
(そのURL↓)
http://www.……
XXXX/06/29/18:57
前書きにも書きましたが、なんだかよくわからなくなってきました……一つ言えるのは反抗的な学生の話ということです。
次回は横路タクトの所属する秘密組織について書けたらいいなーと思っています。