デバッグ中だったゲームの世界の主人公になってた。
「……おい、起きろ。目を覚ますんだ、勇者アレン!」
目の前で僕の肩を揺さぶっているのは、金髪の頼れる幼馴染騎士・レオン。
そして、その背景にあるのは、見覚えがありすぎる重厚な石造りの王城の謁見の間。
(ああ、なるほど。これが巷で噂のトラック転生ってやつか……)
頭が妙に冷えていた。
昨夜、というより今朝の午前4時まで、僕はゲーム会社でデバッグの仕事をしていた。徹夜明けの朦朧とした意識のなか、帰路でセンターラインを越えて突っ込んできたダンプカーのヘッドライトが、僕の現世の最後の記憶だ。
そして今、僕は自分が昨日まで死ぬ気でデバッグしていたRPG『ファンタジー・クロニクル』の主人公、アレンの体に乗り移っている。
「アレン? どうした、急に虚空を見つめて」
「いや……大丈夫だ、レオン。少し意識が飛んでいただけだ」
セリフは完璧。仕様書通り、何度も見たオープニングイベントの真っ最中だ。
王様から「魔王を倒してくれ」と言われ、旅立ちの支度金として「1000ゴールド」と「鋼鉄の剣」を渡される。ここまでは一寸の狂いもない。
「さあアレン、まずは城下町へ行って装備を整えよう!」
レオンが先頭を切って謁見の間の扉へと歩き出す。
僕は勝手知ったる我が家のように、彼の後ろを追った。
──その、わずか3歩目だった。
ズズウゥゥン……。
地響きのような音が響き、レオンの体が凄まじい速度で上下にガクガクと高速振動し始めた。
「レ、レレレレレオンンンン!?!? 身体ががががが!!」
「落ち着けレオン。座標がバグってるだけだ」
僕は冷静にレオンのコリジョン(当たり判定)を観察する。
どうやら、謁見の間の絨毯の端と、床の境界線のグラフィックが微妙に重なっているらしい。そこにレオンの足先が挟まり、毎フレームごとに落下と接地を繰り返す「無限落下ループ」に陥っているのだ。
「……はぁ。異世界に来てまでこれかよ」
僕は職業病のスイッチが入るのを感じた。
城を出る以前の問題だ。このままだと、彼をパーティーに加えることすらできない。
「レオン、ちょっとそのまま動くなよ。……いや、動けないんだろうけど」
僕はレオンの背後に回り込み、彼の体に肩をぶつけるようにして斜め45度の角度から強引にローリングをかました。
現役時代(昨日)発見した、オブジェクトのスタック(埋まり)を強制解除する裏技──通称『めり込みキャンセル』だ。
ポコン。
小気味いい効果音と共に、レオンの高速振動がピタリと止まり、彼は床へと無事に着地した。
「ハァ、ハァ……死ぬかと思った。今、世界の理が崩壊していたような……」
「気にするな。よくある『地形埋まり』だ。むしろ物理演算通り。次からは絨毯の端を踏まないように歩けよ」
「ち、ちけいうまり……?」
唖然とするレオンを置いて、僕は城の廊下を進む。
しかし、魔王討伐の旅は前途多難どころではなかった。
廊下の角を曲がると、今度は巡回しているはずの兵士が、壁に向かって永遠に足踏みをしていた。AIの経路探索が切れている。
さらに進むと、中庭の噴水の水が上に向かって逆流し、そのまま空の彼方へ消えていくのが見えた。
「おいおい……グラフィックの挙動もプログラミングもガタガタじゃないか。これ、マスターアップ(完成)直前のバージョンじゃなくて、開発初期のアルファ版のデータか……!?」
僕は頭を抱えた。
シナリオ通りに進めようにも、システム自体がバグの地雷原だ。まともに歩くことすら命がけである。
「……よし、決めた」
僕は拳を握りしめた。
「こうなったら、いつも通り全部デバッグしてやる。幸い、仕様書とバグの類型は全部この頭の中に入ってるんだ」
まずはこの城のバグを全部洗い出し、安全なルートを確保する。
それが終わったら、次はゲームバランスの崩壊を防ぐ作業だ。
「なぁアレン、さっきから何をブツブツ言って──」
「レオン、ちょっと待ってろ。今から『特定の手順でメニューを開閉すると所持金がカンストする裏技』を使って、この世界の経済をぶっ壊してから出発するから」
「何を言っているんだお前はァ!?」
──こうして、元デバッガーの勇者による、異世界(未完成品)のバグ修正旅が幕を開けた。
ちなみに後日。
どうしても直らない進行不能バグに遭遇した際は、あえて特定の壁に超高速でダッシュを繰り返し、壁の向こうの暗黒空間(座標の外)を通り抜けて魔王城へ直行する「リアルRTA」を敢行し、世界を別の意味で震撼させることになるのだが……それはまた、別のお話。
生成AI実験です。
「徹夜上がりで帰宅中、ダンプカーに轢かれて転生したら、デバッグ中だったゲームの世界の主人公になってた。何度も読んだ冒頭のシナリオ通りに動いてみたけど城を出る以前からバグに遭遇するんで、いつも通りデバッグします。」




